想定為替レート
ドル円は、12年半ぶりに125円台を付けました。円安のスピードも速く、10日間程で119円台から125円台に上昇しました。この円安を抑える要因のひとつとして、当局の牽制発言があります。実際、麻生大臣は牽制を発し、日米とも今回のドル高に対しては警戒心をちらつかせています。しかし、G7会議では為替動向は本題にならなかったため、現時点では牽制が強まる状況ではないようです。スピードチェックの牽制であり、まだ水準チェックの牽制ではないようです。
この円安を抑える別の要因として、輸出会社のドル売りがあります。日本全体の貿易収支は赤字のため、需給はドル買いに偏っていますが、自動車をはじめとした輸出会社は、ある時期やドル円のある水準でまとまったドル売りを実行することが多いため、短期的に相場の流れを変える力があります。従って、主要輸出会社のドル売り水準の関心は、どこにあるのかを探ることは相場予想に役立つことになります。経験的に石油などの大手輸入会社は、為替ヘッジ(為替予約)期間は短く(3ヶ月が中心か)、大手輸出は長い傾向(1年未満まで為替予約)があります。また、輸入は、銀行の当日の公示レートで淡々とドル買い手当を実行することも多いようです。輸入は円高への抑止効果があり(フロア形成効果)、輸出は前述したようにある水準でまとまった為替予約を行う傾向があるため、時には相場の流れを変える力を生む時があります。
企業は決算時に想定為替レートを設定しています。企業の決算の前提になる数字で、例えば、1ドル=110円で想定為替レートを設定し、その決算期間の間、円安が進み、その期間の平均為替レートが120円の場合、決算では10円の為替益が発生することになり、企業収益の増加要因になります。想定為替レートは半期で見直しされる場合もあるため、大手輸出会社の想定為替レートはチェックしておく必要があります。かなり頻繁に新聞記事に出ます。
自動車や電機など主要輸出企業の2015年度の想定為替レートは115円が多く、主要輸出企業30社の想定為替レートの平均は116.07円。また、ユーロ円は125円の設定が多く、主要25社の想定為替レートの平均は127.08円のようです。現在、6月3日の実勢レートはドル円が124円、ユーロ円が138.40円ですので、このまま円安が進めば、ドル円は(124-116.07=)7.93円、ユーロ円は(138.40-127.08=)11.32円の為替益が発生し、企業の増益要因になります。
企業の円安メリットとドル高デメリット
ドル円が円安に動くことによって生じる企業収益の円安効果をみてみます。例えば、トヨタの場合、2015年3月期の純利益は2兆1,733億円と日本企業として初めて2兆円の大台を超えました。その利益押し上げ要因としてコスト削減ともうひとつの要因が円安効果です。為替差益として2,800億円の利益を押し上げたようです。同社の増益要因のなかの円安効果は、2013年3月期で1,500億円、2014年3月期で9,000億円、そして2015年3月期で2,800億円とのことです。1円の円安で400億円の増益要因と言われており、2014年3月期は、一気に円安が進んだため効果が大きかったようです。
しかし、2016年3月期、すなわち、今期はどうでしょうか。驚くことに、為替変動要因はマイナスに働くという見通しを立てています。2015年3月期の想定為替レート1ドル=110円に対して、今期2016年3月期は1ドル=115円を想定しており、この5円の円安で2,000億円の増益要因になります。しかし、一方でドル高進行により、ロシアルーブルや豪ドルなど新興国通貨の下落から、為替変動部分は全体で450億円のマイナスになるとの見通しを立てています。トヨタだけではなく、自動車大手7社の2015年3月期の為替変動による増益効果約5,800億円は、ドル高による新興国通貨の下落による為替差損によって、今期はマイナスとの見通しとなっています。経験上、大手自動車会社の為替効果がマイナスになるのは初めてのことです。それだけ海外進出が進んでいるということになります。
これは何を意味するのでしょうか。各社の財務部は為替変動についてより敏感になることが予想されます。ドル円はドル高・円安によって為替効果は出ていますので、水準的にかなりの利益が確保できるのならば、まとまったドル売りで為替予約をしてくる可能性があります。円安の天井感が出て来ると、一気に売りを増やし、円高への転換が加速してくることが予想されるため注意が必要です。
日銀短観の想定為替レート
日銀は3ヶ月毎に全国企業短期経済観測調査を発表しています。通称、「日銀短観」と呼ばれるものです。企業経営者の景気が「良い」か「悪い」かの景況感(DIと呼ばれています)や設備投資計画、想定為替レートを聞いてまとめたものです。対象は大企業、中小企業の製造業、非製造業約1万社と幅広く、また発表の前月に調査しているため景気の現状を示す指標として注目されています。毎年3、6、9、12月に調査を実施し、原則、それぞれ4月初、7月初、10月初、12月央に調査結果を公表(公表時刻は午前8時50分)。6、12月末頃に、先行き12カ月間分の公表日を事前公表しています。
この日銀短観の中で、大企業製造業のDIと同じようにマーケットが注目している項目に想定為替レートがあります。約1万社が対象となっているため、大手輸出会社だけなく、日本企業が全般的に想定している為替レートの傾向がわかるため、マーケットも注目しています。
2015年4月1日に発表された3月対象分の「日銀短観」によると、
2014年度 | 2015年度 | 上期 | 下期 | |
---|---|---|---|---|
2014年12月調査 | 103.36 | - | - | - |
2015年3月調査 | 107.06 | 111.81 | 111.54 | 112.07 |
これを見ると、2015年3月の時点では2015年度の想定為替レートは111.81円を想定しています。その時のドル円の実勢レートは119-121円の間を動いていたため、かなり慎重に見ていることがわかります。また、想定レートと実勢レートの円安部分は増益要因になることがわかります。
次回は、7月1日に公表されますので、125円を付けた現時点でどのように為替レートを想定しているのか注目です。
想定為替レート
- 企業の決算の前提になる為替レートを企業が設定
半期に一度見直す場合もある
2015年度想定為替レート
- ドル円主要輸出企業30社の平均想定為替レート 116.07円(115円中心)
- ユーロ円主要輸出企業25社の平均想定為替レート 127.08円(125円中心)
日銀短観 「全国企業短期経済観測調査」の通称
- 調査時期毎年3、6、9、12月
- 公表時期4月初、7月初、10月初、12月央 (公表時刻は午前8時50分)
- 調査対象約1万社 (大企業、中小企業の製造業、非製造業)
- 調査項目景況感、設備投資計画、想定為替レート
2015年 3月調査想定為替レート(2015年4月1日公表)
- 2015年度111.81
- 上期111.54
- 下期112.07
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