情報の取り方

為替相場を予測するためには、まず現状分析をする必要があります。その上で相場の予想を立てるのですが、現状分析するためにはまずは情報を集める必要があります。情報収集のためにはプロの投資家がよく使うロイターやブルームバーグなどの情報端末から情報を取るのが一番便利ですが、一般の投資家にとっては費用の点から身近な収集方法ではありません。これらの情報端末から発信される情報は、瞬間的に相場が反応する情報もあり、短期的な取引にはメリットをもたらす場合もありますが、数日から1週間以上の中期相場(※)の予測については、各社がホームページに掲載している時間遅れの情報(全部ではなく一部の情報)や、FX会社が提携している情報会社からの情報でも十分役に立ちます。そして相場予想のシナリオを立て、じっくりと考えながら予想するには、更に時間遅れではありますが新聞情報がかなり役に立ちます。

※中期相場
予測期間の短期・中期・長期の区分は、一般的には、国債の満期期限を目安として短期1年、中期 2~5年、長期 5~10年と言われています。また、中長期を長期として短期・長期を区分すると、短期は1年以内、長期は1年超との区分けの仕方もあります。為替は株や債券など他の運用商品に比べかなり短めの期間として使われることが多いです。例えば、短期は数か月、中期は6ヶ月から1年、長期は1年超と区分けする人もいます。為替のレポートを読む時は、短期予測とか長期予測とか書いてあっても、このレポートはどれぐらいの期間で予測を行っているのか確認する必要があります。
こんな話がありました。ある為替ディーラーが上司から短期・中期・長期の予測を聞かれたときに、そのディーラーは、「短期はドル高、中期もドル高、長期はわかりません。」と答えました。すると上司は、「君の短期・長期はどれぐらいの期間を意味しているのかね」と尋ねると、ディーラーは「短期は1時間、中期は1日、長期は明日以降です。」と返答しました。上司は唖然として、何も言わずに帰っていったということです。目先の相場の動きだけを追う為替ディーラーの特徴を表している小話です。しかし、もっと期間の短い予想をする人もいるようです...

新聞情報

これまでに連載したお話の中では、成長力比較や中央銀行の経済見通し、金融政策、国際機関などいろいろな話を書いてきましたが、これらの情報ソースは90%が新聞です。米国FRBのFOMCの内容や声明文、記者会見など全て新聞に掲載されています。特別な情報は新聞には載っていませんが、基本情報を取得したり、中期予想を立てるには一般に公表される情報で十分だと思います。仮に特別な情報を知ったとしても、一般投資家が知り得た時点では特別な情報ではなくなっていると思います。そして、特別な情報を知ったからといって、必ずしも利益になるとは限らないのが為替相場だと思っています。

さて、サラリーマンなどの経済人や投資家などに読まれる新聞は日本経済新聞が多いですが、やはり、これが一番役に立ちます。これ以外に読売新聞を気に入っています。経済の記事も日経とは違った切り口からの解説も多く、また国際面の記事も多く、中東関係やアジア、アフリカの記事などはかなり充実しています。解説記事やまとめ記事も多く、わかりやすいです。特に、「基礎からわかる~」という記事は、ページ1面を使い、トピックとなるテーマをまとめてわかりやすく解説されており、大いに役立っています。

これらの新聞は、一度見出しをさらっと読み、重要な記事は丹念に読みます。そして、1週間後に1週間分をさらっと読み直し、1ヶ月後に1ヶ月分をさらっと読み直し、3ヶ月分ぐらいは置いておきます。そうすると、その時は重要ではないと思った記事も、1ヶ月後に読み返すと重要だったという記事に出くわすことがたびたびあります。このように情報を寝かせておくことを「情報の熟成」と呼んでいます。熟成した情報を読み返している時に相場のシナリオを修正したりしています。これらの作業をするためには、やはり一覧性のある紙ベースの新聞が役に立ちます。電子版は検索に便利ですが、電子版だけだと一覧性と熟成という効果は減退すると思われます。

“Information”“Intelligence” は、両方とも「情報」と訳されますが、意味は大きく違います。断片の外部情報や知識がインフォメーションであり、情報を取捨選択し、組み合わせ、これらを分析してひとつの情報群として活用することをインテリジェンス活動と呼ばれています。まさに為替相場のシナリオを立てることはインテリジェンス活動だと思います。刻一刻と発信される政治経済情報を、相場要因となるかどうか取捨選択し、時間の流れの中で断片の情報を組み立てていく作業が相場シナリオを立てていくことであり、為替相場のインテリジェンス活動だと考えています。

見落としがちな記事

情報収集の基本が新聞を読むことだと書くと、「なんだ新聞か~!目新しくないなぁ」と感じる方も多いと思われますが、意外と新聞は読みこなされていません。日本経済新聞を例にとって役に立つ記事を紹介しますと、朝刊では解説記事やまとめ記事が多いので読んでおくと考え方がまとまり、役に立ちます。連載されている「一目均衡」「大機小機」は必見の論評記事です。

次に一面の裏側、二面には政治や経済の出来事の裏話が載ることがよくあります。最近ではアジアインフラ投資銀行(AIIB)のイギリスの加盟の背景や日本への水面下のアプローチなど興味ある裏話が掲載されていました。

データの保存として役に立つのは月曜日に掲載される「景気指標」のページです。新聞一面に掲載されており、日本と米国、日本と欧州、日本とアジアと週替わりでかなり細かい各国の経済データが出ているので保存資料として役に立ちます。そして見落としがちなのが、そのページの中央に掲載されている経済解説記事です。その時の話題を一流記者が面白い切り口で書いていますので、興味ある記事が多いです。

商品のページは、あまり読まれていませんが、オーストラリアドルやカナダドルなど資源通貨は資源の需給や価格などで動くため、さっとでもいいですからこのページに目を通しておくことは重要です。

そして最も見落とされがちなのが夕刊です。夕刊は取っているが、一面の記事を見て終わりという方も多いと思います。あるいは夕刊を取っていない方もいるようですが、夕刊は情報の宝庫です。というのは、前日の海外の記事は時差の関係から夕刊に掲載されることが多いからです。経済指標やデータなど夕刊には小さい記事でぎっしりと掲載されています。一度じっくりと読んでみてください。解説記事もおもしろい記事が多いです。特に、「ウォール街ラウンドアップ」「十字路」は必見です。「ウォール街ラウンドアップ」はニューヨーク駐在の記者がNY株式市場を中心に記事を書いています。今、ウォール街で話題になっている出来事が解説されており、記事自体もおもしろく大変役に立ちます。「十字路」はホットな経済の出来事の論評であり、小さな記事ですが示唆の富む記事が多いです。

このようにいろいろ書きましたが、もし、見落としているなと思われる方は、一度まとめて1週間分に目を通してください。新たな発見があるかもしれません。