中央銀行の経済報告
中央銀行による経済報告については、日銀の「経済展望レポート」や米国FRBの経済見通しの話をしましたが、今回は日米の中央銀行による地方や地区ごとの経済見通しの報告書の話をします。地方の経済の動きから、全体の経済の動きを予測する上で役に立ち、また、マーケットも注目しています。
- ※日銀の「展望レポート」
- 日銀は、4月および10月の政策委員会・金融政策決定会合において、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を詳しく点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を公表。直近では4月30日発表。
- ※FRBの経済見通し
- FRBは3月、6月、9月、12月の四半期毎に、FOMC終了後声明文と合わせて中期の政 策金利見通しと経済・物価見通しを発表。声明文が変更なしでも、金利見通しが後倒し(前倒し)になっていたり、経済・物価見通しが下方修正(上方修正)されていたりする場合があり、先行きの金融政策の方向性を推測するのに役立つ。
さくらレポート ~ 日銀「地域経済報告」
日銀は、四半期に1回(1月、4月、7月、10月)、全国の支店長が本店に集まり、景気の現状について議論しています。この支店長会議には、黒田総裁のほか、金融政策を決める全ての政策委員が出席し、会議の議論を政策判断の参考にしています。そして、この支店長会議に合わせ、会議に向けて収集された情報をもとに、日銀各支店の地域経済担当部署からの報告を集約し、全国9地域の経済情勢を取りまとめた「地域経済報告」を作成し、公表しています。この報告書は2005年4月から作成されています。そして米国FRBが出している「地区連銀経済報告」が、表紙の色から「ベージュブック」(Beige Book)と呼ばれているのにならい、この日銀の「地域経済報告」は表紙の色がさくら色であることから「さくらレポート」と名づけられています。
このさくらレポートでは、必ずしも日本銀行全体の統一した見解ではありませんが、全国9地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)からみた景気情勢が取りまとめられています。各地の民間企業への聞き取り調査のほか、地域ごとの経済統計データを参考に、個人消費、設備投資、公共投資、住宅投資、生産、雇用・所得動向などの状況をまとめ、3カ月前と比べた地域ごとの景気情勢の変化も示しています。日銀の金融政策の判断材料の一つとなるためマーケットも注目しています。
この「地域経済報告」(さくらレポート)は日銀のホームページで見ることが出来ます。2015年4月13日に公表されたさくらレポートでは、前回(15年1月)の景気情勢と比較すると、6地域(北海道、東北、関東甲信越、中国、四国、九州・沖縄)では景気の改善について変化はないと報告されている一方、3地域(北陸、東海、近畿)で景気の回復テンポが強まっているとして判断を引き上げています。北陸は、北陸新幹線開業で設備投資が増えており、また、近畿では円安を背景に輸出が増え、中小企業でも輸出が増えてきているとのことです。東海地方も米景気の回復で自動車の輸出が好調とのことです。一方、個人消費は自動車や家電、スーパーの販売はもたついているとの印象を受けました。今回の報告について黒田総裁は、日銀のシナリオにおおむね沿っているとし、「金融緩和は効果を発揮している」と相変わらずの自信を示しています。
ベージュブック Beige Book ~ FRB「地区連銀経済報告」
日銀のさくらレポートと同じように米国中央銀行のFRBも地域ごとの経済報告書を取りまとめています。「地区連銀経済報告」と呼ばれ、米国12地区の連邦準備銀行(地区連銀)がそれぞれ管轄する地区の経済状況をまとめています。この報告書の表紙の色がベージュ色であることから、ベージュブック(Beige Book)と呼ばれています。12の地区連銀とは、アトランタ、ボストン、シカゴ、ミネアポリス、ニューヨーク、フィラデルフィア、セントルイス、クリーブランド、ダラス、カンザスシティー、リッチモンド、サンフランシスコの各地区連銀をいいます。
ベージュブックは、年8回開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)の2週間前の水曜日にFRBにより公表されます(夏時間:日本時間午前3時、冬時間:日本時間午前4時)。ベージュブックは、前回のFOMC以降の全米の経済情勢について総合判断するほか、消費支出、製造、金融サービス、非金融サービス、不動産、雇用などの各項目の状況についても説明されています。そしてFOMCの討議資料となり、金融政策を変更するかどうかのひとつの判断材料に用いられるため、マーケットの注目材料となります。
2015年4月15日に公表された地区連銀経済報告(ベージュブック)は、4月3日までに集めた情報をもとにクリーブランド連銀がまとめました。この報告書によると、2月中旬から3月下旬の米経済について、大半の地区で拡大を続けたものの、ドル高と原油安が製造業の重しとなっており、12地区中8地区で経済活動は「緩慢」ないし「緩やかな」ペースでの拡大との報告となっています。
米経済は1-3月に景気拡大を抑制した厳冬の影響から回復する兆候が見られているものの、まだ力強さが足らないようです。この報告書での経済情勢が、次回4月のFOMCでの討議材料となります。ベージュブックの発表時間にはマーケットは反応することが比較的多いため注意が必要です。
このように、さくらレポートもベージュブックも金融政策決定会合やFOMCの判断材料の一つになるため、やはり注目しておく必要があります。特にベージュブックは、FOMCの2週間前の発表であるため、経済情勢の変化を示す報告書の内容によっては、FOMCへの政策変更の期待が高まることも予想され、マーケットにかなりの影響を与える可能性もあります。これら報告書の詳細はホームページで見ることが出来、また、注目材料であるため新聞にも掲載されます。各地域の経済情勢を押さえながら、全体の経済情勢を概観し、自分が政策委員なら委員会でどういう判断をするか、考えてみるのもおもしろいかもしれません。
さくらレポート 「地域経済報告」
・ 四半期に1回(1月、4月、7月、10月)作成。 2005年4月から作成
・ 日銀支店長会議に合わせて取りまとめた全国9地域の「地域経済報告」
・ 表紙がさくら色であることから通称「さくらレポート」と呼ばれている
・ 必ずしも日本銀行全体の統一した見解ではないが、日銀の金融政策の判断材料のひとつとしてマーケットは注目
ベージュブック 「地区連銀経済報告」
・ 年8回開催されるFOMCの2週間前の水曜日に公表(夏時間:日本時間午前3時、冬時間:日本時間午前4時)
・ 米国12地区の地区連銀がそれぞれ管轄する地区の経済状況を、前回のFOMC以降の経済情勢について報告
・ FOMCの討議資料となり、金融政策を変更するかどうかのひとつの判断材料となるためマーケットは注目
・ 報告書の表紙の色がベージュ色であることがベージュブック(Beige Book)の由来
・ 12の地区連銀とは、アトランタ、ボストン、シカゴ、ミネアポリス、ニューヨーク、フィラデルフィア、
セントルイス、クリーブランド、ダラス、カンザスシティー、リッチモンド、サンフランシスコの各地区連銀
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