BIS会議
前回、為替相場を予測する上で重要な国際会議としてG7やG20会議に触れましたが、次いで注目しておくと参考になる会議としてBIS会議があります。相場を直接的に動かす要因にはあまりなり得ませんが、世界経済の流れなどを読むための参考情報にはなります。
BISとは、Bank for International Settlements、国際決済銀行の略です。BISは、1930年に設立された中央銀行をメンバーとする組織で、スイスのバーゼルに本部があります。第1次世界大戦で敗戦したドイツの賠償金支払いを取り扱う機関として設立されたことが行名の由来です。通貨価値および金融システムの安定を中央銀行が追求することを支援するために、中央銀行間の協力促進のための場を提供しているほか、中央銀行からの預金の受入れ等の銀行業務も行っています。このように中央銀行の銀行として機能することを目的とし、各国の中央銀行を株主とする銀行として組織運営されています。BISの加盟国は、日本を含め60カ国・地域の中央銀行が加盟しています(2012年3月末時点)。日本銀行は、1994年9月以降、理事会のメンバーとなっています。
BISで開催される主要会議は、年次総会と中央銀行総裁会議があります。
年次総会は、例年6月または7月に、加盟中央銀行の代表者がスイス・バーゼルのBIS本部に集まって開催されます。総会における議決権限は、各代表者が属する国が引き受けているBISの株式数に比例します。日本銀行からは、総裁が出席しています。
中央銀行総裁会議は、原則として隔月で開催される各国中央銀行総裁による会議で、グローバル・エコノミー会議(主要30か国・地域の中央銀行総裁による会議)や拡大総裁会議(すべての加盟中央銀行の総裁による会議)などの総称です。各国の経済・金融の状況や金融政策、国際金融市場の状況などについて意見交換が行われています。
BIS規制
BISという言葉はあまりなじみがないかもしれませんが、BIS内に事務局のあるバーゼル銀行監督委員会で決定されたバーゼル合意、通称「BIS規制」という言葉は新聞紙上に時々出てきます。BIS規制とは、国際業務を行う銀行を自己資本比率や流動性比率などで業務活動を規制しようとするルールです。「BIS規制」は、1988年(昭和63年)に最初に策定されました。日本はバブルの真っ盛りで、日本の銀行の株価が上昇し肥大化していった時であり、このBIS規制は日本の銀行業務にタガをはめるために策定されたといわれていました。しかし、その後リーマンショックで欧米の金融機関の体力が弱まると、BIS規制は見直され、やや緩和された合意となりました。
通貨マフィアと中銀マフィア
ここまでのお話は、BIS会議の一般的な説明ですが、実は最も重要なことは主要国の中央銀行総裁が隔月でスイスのバーゼルに集まっているということです。世界の中央銀行関係者、いわば中銀マフィアが経済・金融情勢について突っ込んだ意見交換をする場だということです。多忙な関係者が集まりやすいように主に日曜日と月曜日に開かれます。特に重要なのが日曜日に開く主要国の中銀総裁らによる夕食会です。いわば奥の院で、事務方や通訳などは同席できないのが原則のため、本音の意見交換がされているはずです。当然のことながら自由に英語を使えないと話になりませんが、日銀の黒田総裁は語学の心配はないようです。また総裁就任の記者会見でも対外的な説明の重要性を指摘しています。2013年に黒田総裁が実施した異次元金融緩和によって、ドル円は一気に円安に行きましたが、各国で通貨安政策として批判されなかったのは、奥の院で発信し続けた黒田総裁の英語力のおかげかもしれません。
また、黒田総裁は、かつて財務省で財務官を務め、各国の為替政策当局者の仲間、いわゆる通貨マフィアの一員として活躍した人物です。各国のメンバー達は、互いに直通回線で協議できるシステム(※)を使って日常的に連絡を取り合い、日々の国際通貨問題に対応しています。G7やG20が通貨マフィア達の主戦場となっていますが、形式的な表舞台だけでなく、裏舞台でも実質的な協議(実務交渉)をするのが通貨マフィアたちです。
(※)似たような直通回線をニューヨーク連銀の為替のディーリングルームで見たことがあります。20年ほど前になりますが、ニューヨーク駐在中にニューヨーク連銀に赴任挨拶に行きました。FRBの為替のチーフは、ディーリングルームの中に案内してくれて、各国の中央銀行と一斉に会話できる通信システムを見せてくれました。「協調介入の時に使うのか」と尋ねると、「そうだ。単独で介入する時にも説明するために使う」との返答でした。あの時に、中銀同士は、相当緊密に連絡し合っているのだなと感じました。また、当時、日銀のNY事務所はNY連銀の通りを挟んだ向かい側にあったため、一日に一回はNY連銀を訪問すると日銀担当者は言っていました。
通貨マフィアと中銀マフィアの違いは、「為替政策の当局者と比べると、中央銀行総裁の方が長く続ける人が多く、濃い人間関係が築かれやすい」と国際金融関係者の間ではみられています。また、通貨マフィアの発言は、G7やG20の後でも発信されることが多く、マーケットに大きな影響を及ぼす機会も多いですが、BIS会議後の中銀マフィアの声はほとんど発信されません。当然のことながら、奥の院の内容がニュースになるということはないですが、その直後の記者会見などで本音をちらっと漏らすこともあるため、スイスで発信されるニュースは目にとめておく価値があるということになります。TVニュースではほとんど取り上げられず、新聞などでもめったに記事になることはないですが、こういう背景があるということは頭に入れておいてください。今後、リーマンショック並みの金融危機が起きた場合など記事発信の頻度が高まるかもしれません。
BIS Bank for International Settlements、国際決済銀行会議の略
中央銀行の銀行 本部 スイス・バーゼル
60か国・地域の中央銀行が加盟
年次総会 → 例年6月または7月に開催
中央銀行総裁会議 → 原則として隔月で開催
BIS規制(バーゼル合意)
国際業務を行う銀行を自己資本比率や流動性比率などで業務活動を規制しようとするルール
通貨マフィア
主要国の為替政策担当の事務方トップで構成されるインナーサークルの総称(俗称)。日本では財務官がメンバー。
緊密に連絡を取り合い、G7、G20で活躍。発信も多く影響力大
中銀マフィア
通貨マフィアと比べ、中央銀行総裁の方が長く続ける人が多く、濃い人間関係が築かれやすい。
BIS会議後の発信は少ない。
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