以前で為替の動く時間帯について説明しました。
 為替は24時間、月曜日から金曜日まで動いているのですが、その中で1日、あるいは1週間、あるいは1カ月、1年の中で為替がよく動く時間帯について説明しました。

 今回は、逆に、あまり動かない時間帯について説明します。動かない時間帯という意味は、相場が全く動かないということではなく、参加者が減り、価格変動が起きた場合に大きくなりやすい時間帯のことを言います。

動かない時間帯のリスク

 為替を売ったり買ったりして収益を追求するためには、為替がよく動く時間帯を知っておけば十分ではないかと思われる方も多いと思います。では動かない時間帯をなぜ知っておく必要があるのでしょうか。それは、為替本来のもっているリスクと関係があります。マーケットで動く商品を売買するためには、常に3つのマーケットリスクを考えておく必要があります。
価格リスク、信用リスク、流動性リスクの3つです。

 価格リスクとは、その商品の価格の変動リスクです。為替でいえば、ドル/円を買った瞬間に価格リスクにさらされることになります。ドル/円を買って、上がれば収益になりますが、下がれば損失になります。このように、その商品を買った瞬間に価格の変動によって損失をこうむるリスクのことを価格リスクと言います。

 信用リスクとは、クレジットリスク、デフォルトリスク(債務不履行リスク)のことです。商品の返済義務者(債務者のこと)の倒産、国家破綻によって元本が返済されないリスクのことです。

 ある企業の株を買った場合、価格の変動によって損失をこうむる価格リスクがありますが、元本がゼロになることはありません。しかし、その企業が倒産した場合、会社がなくなり株価がゼロになって元本は戻ってきません。これが信用リスクの怖さです。倒産しなくても、信用が落ちてくると価格も下がってきます。価格は信用があっての価格ということになります。

 国家の場合は、国が破綻すると、国債の債務不履行が起こり、元本が戻ってこない可能性があります。いくら金利が高くても信用のレベルを考えないと損失をこうむるリスクが高まることになります。その信用のレベルを判断するのが格付けということになります。為替の場合も同じです。信用が低い国の通貨は変動しやすいため、おもわぬ価格変動リスクにさらされることになるため注意が必要です。

 流動性リスクとは、債券や株式などを売って換金しようと思った時、あるいは買っていたドル円のポジションを売りたい時に、すぐに売れなかったり、また希望した価格で売れなかったり、希望した量を売れなかったりするリスクのことをいいます。

 ある企業が倒産する可能性が高まった、ある国の債務不履行が起こる可能性が高まった、あるいはその国の通貨が政情不安で暴落したなどを背景に相場が一方向に傾いた時に流動性リスクが起こります。今、保有している株や債券、為替などが処理できない怖さ、処理できないために損失がどんどん膨らむという怖さがあります。また、参加者が少なく、価格が成り立ちにくい時にも予定していた金額が処理できなということが起こります。金曜日の午後やクリスマス・シーズンから年末・正月の間は、極端に参加者が減りますので注意が必要です。

マーケットリスク(市場に内在するリスク)

価格リスク

市場環境によって価格が変動し、損失をこうむるリスク

信用リスク

商品の返済義務者(債務者のこと)の倒産、国家破綻によって元本が返済されないリスク。クレジットリスク、デフォルトリスク(債務不履行リスク)のこと

流動性リスク

債券や株式などを売って換金しようと思ったとき、あるいは買っていたドル/円のポジションを売りたいときに、すぐに売れなかったり、また希望した価格や量を売れなかったりするリスク

最も怖いリスクは?

 この3つのリスク、為替マーケット30年の経験の中では、流動性リスクが最も怖いリスクでした。いくら先進国の通貨でも、暴落が起こり、流動性がなくなることは起きます。

 1992年に起きたポンド危機は有名な話です。投機家ジョージ・ソロスが、「いずれ英国はERM(欧州為替相場メカニズム、EC諸国の為替を一定の枠に収めようとする通貨管理体制)を脱退する」との読みで、ポンドを売り浴びせました。この結果、ポンドは暴落し、英国はERMを脱退しました。この時、ハッサクはニューヨークで為替ディーラーをやっていましたが、その時の恐怖は忘れることができません。ニューヨーク市場でポンドの流動性が全くなくなったからです。売りたくても売れない恐怖。顧客の注文オーダーも処理することができませんでした。

 1985年のプラザ合意の時もそうでした。日銀のドル売り介入が行われましたが、流動性が少なく思ったプライスで売ることができません。特にその後の円高の中で、200円を割れた時は東京市場がパニックになりました。ディーリングルームがパニック状態になり、「ああパニックとはこういう状況のことをいうんだな」と冷静に仲間の行動やマーケットの動きを観察していた記憶があります。1円下の買値(199円)よりも2円下の買値(198円)の方が先につくほど、マーケットはパニック状態でした。

 このパニックに比べれば、リーマン・ショック直後の暴落や、あるいは9.11同時テロ事件のドル安の動きは、ハッサク自身の経験の中では、パニック状態ではありませんでした。逆に9.11では驚いたという記憶が残っています。

 ドルの本拠地ニューヨークが被害を受けたためドルの流動性がなくなるのは当然ですが、そのようなマーケットの中でも、価格が立ち、わずかですが取引が行われていました。このような厚さと深みのある市場は為替市場の他にはないなあと感慨深いものがありました。

 

クリスマスと年末年始の相場

 流動性リスクについて、金曜日の午後や、クリスマス・シーズンから年末・正月の間は、極端に参加者が減るので注意が必要と指摘しましたが、まず、1日の中では、日本時間ベースで言うと、朝の5時以降、シカゴ先物市場の清算取引が終わった後は、市場参加者が減るため価格が変動しやすくなります。また、日本の多くのFX証券会社が値洗いをする朝7時から7時半の間は、為替スプレッド(買値と売値の開き)も広がり、値動きも荒くなるため要注意です。

 1週間の中では、金曜日のニューヨークの午後の時間帯が、極端に流動性が薄くなります。日本時間では金曜日の深夜2時以降の時間帯です。

 ロンドン市場がニューヨークの昼過ぎには終わるため、またニューヨーカーにとっては、楽しい週末は金曜日の昼からとウキウキしている人が多いから参加者が減ります。ニューヨーク駐在の時は、金曜日のランチは外に出て(普段はディーリングルーム内でピザやハンバーガーのテイクアウト)、ビールを飲んでいい気分になって帰ってくるということを時々やっていました。そういうディーラーやブローカーを数多く見かけます。中にはそのまま帰宅する人もいます。

 そして、1年の中で最も流動性が薄くなるのは、クリスマス・シーズンと年末・年始です。

 12月に入ると、欧米では休暇を取る人が増えます。金融監督局の指導で2週間の連続休暇を取らなければいけないため(日本は1週間)、夏休みを我慢し、クリスマスがある12月に2週間という長期休暇を取る人が多くなります。そのためマーケットは閑散とし、流動性が薄くなってきます。働いているのは、日本人とアシスタント・ディーラーのみになります。欧米人にとってクリスマスは、お盆と正月が一緒にきたような盛り上がりになる行事です。

 その代わり、お正月は、元旦1日だけで味気ないものです。為替市場も12月に入ると、人がどんどん少なくなっていき、取引が細り、クリスマスを中心に休暇を取る人が増え、さらにマーケットは閑散となります。12月25日は、相場がないと言ってもいい状況になります。もちろん、日本人は働いています。その代わり、お正月は2日からバリバリ働きます。日本人がのんびり休んでいる間も(欧米駐在の日本人はこの時も働きます)、欧米では新年の投資スタートということもあり、一斉に投資行動が活発になります。マーケットも普通の盛んなマーケットとして動いています。2日や3日に相場が大きく動くということもあるため注意が必要です。

 このように流動性の薄いときは、自分の思う通りに売買ができないため無理をせず、ポジションを持たないか、控えめにすることが肝要です。自分ではどうにもならないリスクにさらされることがあると肝に銘じておく必要があります。もう一度言いますが、最も怖いのは流動性リスクなのです。