為替を予測する上で、原油や金の動き、そしてドルとの関係も頭の中に入れておくと役に立ちます。中東では「イスラム国」の侵攻が止まらず、中東を不安定な状態にしています。過去のケースでは中東が有事の際には原油価格が上昇したにもかかわらず、上昇するどころか緩やかな下落傾向にあります。何故でしょうか。下表の図は1970年代と2000年代の石油と金の動向を示しているチャートです。このチャートを参照しながら考えてみます。

 

1973年の第一次石油ショックから始まる70年代は中東やアフガニスタンで有事が勃発し原油が上昇しました。また2000年代も米同時テロやイラク侵攻と有事が発生し原油価格は上昇しました。金も同様に有事の際には上昇しています。
このことから、「中東で有事の際には原油や金が上昇」と言われています。確かにその印象も強いのですが、実は他の要因も大きく影響しています。

ひとつは、1971年のニクソンショックと言われている米国の金・ドル交換停止です。これによってドル安がその後の流れとなりました。産油国は原油がドル建てであるため、ドルの目減りを原油価格引き上げで補いました。この結果、ドル安は原油高という構図が出来上がりました。金もドル安=金高という構図が出来ています。2000年代もユーロ誕生によりユーロ高=ドル安、サブプライム問題→ドル安という環境の中にありました。ユーロの誕生によってユーロ高=原油高という相関も時には起こる場面も出てきました。

もう一つの背景は、世界需要の高まりです。70年代は、日本と西ドイツが高度成長に入ったため供給が需要に追い付かず、原油価格が上昇しました。2000年代もBRICSに代表される新興国の成長が著しく、旺盛な需要によって原油のみならず、穀物や他の商品価格も上昇し、新興国ではインフレの嵐に襲われました。インフレは金高を演出し、1トロイオンス=1,900ドルを突破しました。

このように、原油と金の上昇の基本構図は、①有事、②ドル安、③需要増大がありますが、最近の原油価格低下の動きは、この構図と反対の動きによって生じています。すなわち、FRBの量的緩和終了予定によるドル高の動き、世界需要の下振れリスクという世界需要の減少と先行きも減少するという懸念から生じているといえます。特に、日欧の景気低迷、新興国の低成長の下では、世界需要の減少が原油下落の大きな要因となりそうです。つまり、ドル高になってもドル安になっても原油の低下傾向は続き、中東の戦火が拡大しても原油の急騰は起こらず、上昇しても一時的な現象に終わる可能性があるということになりそうです。

石油と金の上昇要因 ( 下落要因 )

① 中東の有事、他の地域の有事の際にも時には上昇
② 石油も金もドル建てで取引されているため、ドル高=原油安、金安
ドル安=原油高、金高 という構図
時には、ユーロ高=原油高(ユーロ安=原油安) という構図も発生
③ 世界需要の増大 → 原油高、 時にはインフレを引き起こし金高に
世界重要の減少 → 原油安

財政均衡原油価格

原油価格動向を見る上で、もうひとつ重要な着目点があります。産出国の財政均衡価格です。すなわち算出によって財政が均衡する価格、言い換えれば「採算割れ」しない価格です。右の表は、各産油国の財政均衡価格を示しています。

 

この表によると、現在80ドル台前半の北海ブレント価格では、ベネズエラ、イラン、イラク、ロシアは採算割れしています。原油を掘れば掘るほど赤字になるという構図です。特に、ベネズエラは大きく採算割れしており、金融市場では債務不履行(デフォルト)懸念が急浮上しています。実際にベネズエラがデフォルトすると、株式市場や金融市場は大きく揺さぶられます。為替市場も、南米に近いNY株が急落ならドル安・円高という事態になることも予想されます。

この財政均衡価格は、経済に影響を与えるだけでなく、政治や地政学リスクへの影響を高めることもあります。例えばロシアは、ウクライナ問題で欧米から経済制裁を受け、経済は苦しい状況にありますが、更に原油が下がると収支赤字が膨らみ経済はもっとひどい状況になることが予想されます。中東では、イラン、イラクも同じような状況ですが、こういう考え方もできます。「イスラム国」の侵攻を支えている資金源(原油の密貿易で1日1億円といわれている)を小さくするために原油価格を低下させるという戦略もあります。サウジアラビアは均衡価格に近いのですが、原油上昇のために何か動くという気配は今のところありません。

「イスラム国」あるいはイラン、イラクを封じ込めるためには現状容認ということかもしれません。また米国のシェールオイルに対抗するため(採算悪化による倒産増加を期待)静観しているという見方もあります。外貨準備が潤沢なサウジアラビアだから出来ることかもしれません。このように、原油価格の動向によって産出国や地域の経済、政治動向が大きく影響を受けるということも頭の隅に置いておくと、為替相場を予測する上で役に立ちます。