前回ドル円の水準や値幅を考える時に、年間の変動幅や数年間の平均値を考慮して予測するという考え方を示しました。同じようにドル円の水準感を捉える方法として「購買力平価」を用いる方法があります。1ドル=100円は、90円から見れば円安ですが、110円から見れば円高になります。現在のドル円は円安に動いているが、まだ円高局面なのかどうか、あるいはどの水準まで円安が行き着くのか、ひとつの目安を購買力平価は示してくれます。
完全に自由な貿易取引が出来る世界では、国が異なっても同じ製品の価格は一つであるという法則が成り立ちます。この時の二国間の為替相場を購買力平価と言います。例えば、ハンバーガーが日本では200円で買え、アメリカでは2ドルで買えるとすると、同じ価格でハンバーガーを買うためには(同じ購買力をもつためには)ドルと円の交換レートは1ドル=100円ということになります。この1ドル=100円が購買力平価ということになります。
そして、二国間の物価格差(インフレ格差)を加味したものを「相対的購買力平価」と言います。為替レートは二国間の物価上昇率の比で決定されるという説です。例えば、米国の物価上昇率が日本より相対的に高い場合、米国の通貨価値は減価するため、為替レートは下落する(ドル安)という考え方です(日本の物価が上昇すれば円安になり、下落すれば円高になります。但し、あくまで物価の格差ということになります)。
厳密には、貿易障壁もあるため貿易には様々なコストがかかり、完全な自由貿易市場というものはありません。また為替の需給などいろいろな要因によって為替レートは変わってきます。ここではひとつの目安として、この「相対的購買力平価」を使って、現在の為替水準がどの位置にあるのかを考えてみたいと思います。
また、物価もひとつではなく、経済取引の様々な局面によって輸出物価、企業物価、消費者物価と異なってきます。実勢相場とこれらの各種物価を加味した購買力平価とのかい離を見ることによって、現在の為替水準の位置がより鮮明に見えてくることになります。
- 購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity )
- = 基準時点の為替レート × [A国の物価指数 / B国の物価指数]
- 輸出物価
- 日本から輸出される(積み出される)段階の価格(FOB価格)
- 企業物価
- 国内の企業間取引の価格
- 消費者物価
- 消費者が実際に購入する段階での商品の小売価格
上記の表は、公益財団法人国際通貨研究所が作成しているドル円の購買力平価の推移です。毎月1回データが更新され、この表は2014年7月時点の購買力平価です。消費者物価と企業物価は1973年を基準とし、輸出物価は1990年を基準としています。またドル円の実勢相場は、8月27日の103.91円を使っています。
この購買力平価の推移を眺めることによって、いろいろなことが見えてきます。
- ドル円は、1985年のプラザ合意直前は、250円を超える円安水準にあり、消費者物価を超えている
- プラザ合意によってドル安政策がとられ、ドル円は輸出物価水準まで誘導され、その後輸出物価に沿った動きで推移
- 1995年、80円を割れ、輸出物価よりも大きく下方に乖離すると、ドル反転政策(円安政策)がとられ、企業物価水準まで戻した
- その後は、輸出物価を下限、企業物価を上限としたレンジで推移し、デフレ傾向が鮮明になった時期以降は、ほぼ輸出物価と企業物価の間の水準を維持するような動きで推移
- 上限は企業物価で跳ね返されていたが、アベノミクス以降デフレが解消するにつれて、企業物価を超えてきているのが現在のドル円の水準
上記の過去の動きを踏まえて、この表から今後のドル円相場を予測するならば、
- ドル円は、企業物価(99.13円)を超えているが、過去の動きと同様一時的な動きであり、再び企業物価以下に押し戻される。
- アベノミクスによってデフレが解消され、物価2%が維持されるのであれば、過去の動きからは一別し、企業物価と消費者物価(128.95円)という新しいゾーンに入って今後は推移する
- しかし、よっぽどの物価上昇がない限り、消費者物価水準は遠い水準であり、また、物価が2%を維持できず、再び下がってくるようであれば円高に反転する可能性がある
- ひとつの目安として、企業物価の上方5%乖離104.09円、10%乖離は109.04円、15%乖離は114.00円、20%乖離は118.96円を頭に入れておくと役に立つ。現在の114円は、15%乖離の水準にあるということになる。
と、さまざまなシナリオが考えられます。皆さんもこの表をじっくり眺めながら、生活水準感や仕事上での物価水準感から比較して、現在のドル円の水準が妥当かどうかを検討して下さい。
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