為替の変動要因として「需給」が重要という話は以前お話しました。国際決済通貨である「ドル」の為替水準は基本的には需要と供給によって決定されます。代表的な例が、輸出取引と輸入取引を合わせた貿易取引です。貿易取引の結果による貿易収支は、輸入金額よりも輸出金額が多い時を貿易黒字といい、輸出金額よりも輸入金額が多い時を貿易赤字といいます。
貿易取引 | 輸入取引 → ドル買い。輸入企業による輸入に必要なドルの購入 輸出取引 → ドル売り。輸出企業による輸出で得たドル代金の円転 |
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貿易収支 | 貿易黒字 → 輸出金額>輸入金額 貿易赤字 → 輸出金額<輸入金額 |
最大の貿易赤字13.7兆円
この貿易取引が、2013年度で13兆円7488億円の貿易赤字となりました。この金額は比較できる1979年以降で最大の赤字です。下表が示すように、1981年以降、2008年のリーマンショックを除いて、2010年度まで継続して貿易黒字でした。
最高の黒字額は、1986年度の14.4兆円。貿易黒字が数年前から急拡大したため、1985年9月、米国はニューヨークのプラザホテルでG5を開催し、プラザ合意を締結しました。日本、ドイツ、フランス、英国の為替水準を半減せるという内容でした。
ドル円は、260円台から3年後には120円台まで急激な円高が進行しました。逆に言うと、米国は自国の貿易赤字を解消するためにすごいドル安政策を押し付けたことになります。この急激な円高にもかかわらず、日本の貿易黒字は再び10兆円以上の黒字が続く時代が続きました。
しかし、2008年のリーマンショックによって世界経済が低迷し、日本の輸出も激減したことによって貿易赤字になりました、その後、世界経済の回復によって貿易収支は再び黒字となりましたが、2011年の東日本大震災の影響によってエネルギー資源の輸入額が増大し貿易赤字となりました。更にはアベノミクスによって黒田日銀総裁の異次元緩和による円安進行から輸入金額が膨れ、3年連続の赤字が続いています。
貿易赤字は円安持続か?
貿易黒字の時代は円高が続いていました。2013年度の13.7兆円という赤字は、最大の黒字金額である1986年度の14.4兆円に近い数字です。それならば、このまま10兆円以上の赤字が続くならば、ドル円は円安がどんどん進行し、200円近い水準になるのでしょうか。
そうはならないと思います。1980年代後半から90年代前半にかけては貿易収支の数字が、為替の変動要因としては大きな要因でしたが、その後日本ではデフレが続き、金利が低下し、この物価要因が大きな変動要因となりました。さらに、リーマンショック以降米国の大規模な金融緩和によってドル安が進み、2010年の欧州債務問題以降、今度は欧州が大規模な金融緩和を実行してきました。これらの物価要因、金融政策要因がドル円の水準を大きく左右する要因として重要性が高まってきました。
80円台から100円台への円安は、日本の貿易赤字拡大だけではなく、アベノミクスによる日本の物価上昇、米国の金融緩和縮小が大きく影響していると思われます。日本の貿易赤字要因だけでは、ここからどんどん円安になるということではないようです。事実、この13.7兆円のニュースが流れてもほとんど相場は反応しませんでした。しかし、需給的にはドル買い需要が多い時代が続くと予想されますので円高へのブレーキ要因にはなると思われます。
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