経済成長率格差

前回、為替相場を動かす経済要因として経済成長率の話をしました。そして、為替というのは、2国間の通貨の相対比率であり、従って2国間の経済成長が反映されるという話をしました。すなわち、ドル円であれば、米国(=ドル)の成長率(GDP)が反映され、日本(=円)の成長率(GDP)が反映されます。これらの成長率の発表時期は異なるため、それぞれが発表された時にドル円はその都度反応します。また、2国間の成長率格差の拡大縮小も反映することがあります。

拡大縮小とは、例えば、米国は成長が加速するが日本は停滞とか、あるいは米国の景気が後退し、日本は成長を維持するなどです。そして、この拡大縮小は金融政策に反映されるので、為替のトレンドを決めていくことになります。為替を予測する上では、この大きな流れは、じっくりと観察して外さないことが肝要となります。もちろん、経済要因だけではなく、政治要因も影響してきますが、ここでは経済要因に絞った観点でお話をしています。

米国成長率(GDP)

この経済成長率格差を示す指標が最近発表されました。7月30日に発表された米国4-6月期GDP速報値です。予想(+3.0%)を大きく上回り+4.0%と発表されました。1-3月期のGDP最終値(年次改定値)は▲2.1%(確定値▲2.9%より上方修正)でしたが、今回の4-6月期GDPは寒波の影響を跳ね返し、高成長となりました。この数字を受けてドル円は102.25円近辺から102.73円まで上昇しました。

右表の通りGDPの内容を見てみますと、1-3月期で寒波の影響を受けた消費が+2.5%と伸び、設備投資が+5.5%、住宅投資が+7.5%と伸びたことが高成長の要因のようです。但し、純輸出(輸出-輸入)はマイナスとなり、成長の足かせとなりました。今後は、この速報値の後、改定値→確定値と毎月発表されます。それが上方修正や下方修正と変動すれば、ドル円は買われたり、売られたりするので要注意です。また、現在では、この4-6月期GDPは過去の数字です。市場は次の7-9月期のGDPがどうなるかを注目しています。GDP自体の発表は10月の終わりになるので、毎月発表される各経済指標を注目し7-9月期GDPがどうなるかを予測します。例えば、GDP内訳の内、個人消費支出であれば毎月発表される「小売売上高」「個人消費支出」、設備投資要因であれば「耐久財受注」、住宅投資要因であれば「住宅着工件数」「新築住宅販売件数」「中古住宅販売件数」「S&P/ケースシラー住宅価格指数」に注目します。純輸出要因では、毎月の>「貿易収支」に注目します。

例えば、今回のGDPの民間住宅投資は+7.5%となっていますが、6月の新築1戸建て住宅販売件数は前月比で▲8%の大幅マイナスとなっています。新築住宅販売件数は契約ベースであるため、所有権移転完了ベースである中古住宅販売件数よりも先行性が高いと言われています。従って、6月以降住宅投資にブレーキがかかっている可能性があるのではないかと疑い、7-9月期GDPは前期より減速、あるいは4-6月期のGDP改定値は下方修正されるのではないかと予想し、下方リスクに備えることになります。

日本の成長率予想、下方修正

今度は目を転じて日本の成長率の話になります。日本の4-6月期GDP(改定値)は9月8日に発表され、▲7.1%でした。この数字は10%への消費税増税の判断材料になり、判断は年末の予定とのことです。東日本大震災の影響を受けた2011年1-3月期GDPが▲6.9%でしたので、これより大きい景気の落ち込みということになります。また1997年の消費税増税前後のGDPと比較してみますと、

  • 1997年1-3月期 +3.0%  4-6月期 ▲3.7%
  • 2014年1-3月期 +6.7%  4-6月期 ▲7.1%

前後の振れは、1997年が3.0+3.7=6.7%、2014年が6.7+7.1=13.8% と

2014年の方が振れが大きいことがわかります。まさに「山高ければ谷深し」の事象です。民間エコノミストは、7-9月期GDPを+4%前後で予想していますが、果たして、大幅減の後に回復するのかどうか非常に注目する必要があります。

日米成長率格差

7月30日という同じ日に日本のGDP予想が下方修正され、米国の高成長のGDPが発表されました。米国のGDP発表後、ドル円が102円台前半から102円台後半に上昇したのは、もちろん米国の数字がよかったことがありますが、日本の成長率が悪くなるのではないか、日米の経済成長に相当開きが出て来るのではないかという思惑・予想も働いていると思われます。ただ、その後のドル円の動きや米国の長期金利の動きをみてみますと、ドル円は103円台に乗ったにもかかわらず、103円台はキープできませんでした。米長期金利が下がったことが要因と思われますが、米長期金利は、米景気がよいのに上がり切らないのは、先行きの景気に対してまだ慎重に見ているということかもしれません。