経済成長率

為替相場を動かす経済要因として経済成長率が最も重要な指標となります。

現時点では、経済指標として最も注目されているのは米国の雇用統計ですが、これは、米国の経済成長が順当に回復過程にあるとの認識の上に成り立っているからです。2014年の米国第1四半期の成長率がマイナスであっても、これは寒波の影響で一時的な落ち込みであり、第2四半期以降は順当に回復するとFRBは認識しており、米国エコノミストもそのような予測を立てています。従って、マーケットの見方も雇用が一時的に影響を受けてもその後回復するとの見方から雇用統計が最も注目されているのです。もし、経済成長率が連続してマイナスならば、雇用も当然落ち込むため、雇用は景気が回復しなければ回復しないとの見方に重点が置かれ、米国の景気がどうなるかに注目度合いが移って行きます。

為替の世界では、ドルが主体ですので米国の成長率が最も注目されます。しかし、ドル円を予測する場合、ドル、すなわち米国の成長率と、円、すなわち日本の成長率を同時に注目する必要があります。2国間の成長率格差も要因になるからです。

経済成長率の発表は四半期毎(3ヶ月毎)に発表されます。米国は四半期後の翌月の終わり頃、日本は四半期後の翌々月の半ばに発表されます。米国の方が早く発表されます。

( 2014年米国第2四半期(4-6月)GDPは、速報値が7月30日発表。日本第2四半期(4-6月)GDPの速報値は8月13日発表)。指標は、速報値→改定値→確定値と3回発表され、その都度修正されます。しかも、上方も下方もあり、大幅に修正される場合もあります。例えば、米国1-3月期GDPは速報値+0.1%→改定値▲1.0%→確報値▲2.9% と、どんどん下方修正されました。そしてその都度為替は反応し動くので注意する必要があります。

経済成長率 ( GDP成長率 )

  • 経済指標で最も重要な一国の経済の強さを示す指標
  • 米国など先進国は四半期毎に発表され、速報値から確定値まで修正がある
  • 為替はドルが主体であり、相場全体の流れを掴むためには米国の成長率が最も注目
  • 為替は2国間通貨の相対的なレートであり、2国間の成長率に注目する必要

IMF世界経済見通し

先日7月24日にIMF(国際通貨基金)が最新の世界経済見通しを発表しました。先進国、新興国の経済成長率を3ヶ月毎(1月、4月、7月、10月)に発表しており、マーケットでは大変注目されています。なぜなら、各国政府や中央銀行が自国の成長見通しを発表しますが、やはりバイアスがかかっています。政策の都合のいいように、あるいは政治家の圧力によって民間エコノミストの予想よりずれることが多いようです。

その点、IMFは中立の国際機関であることから、各国政府の予測バイアスがかかっていないため、より実態にあった成長率予測として参考になります。しかし、厳密に言えば、IMFは戦後、英米主導の下で国際通貨体制を創設するために1945年12月に設立された機関であることは頭に入れておく必要があります。そしてそれから69年後、先日、欧米主導のIMF・世銀体制に対抗するようにBRICS開発銀行の発足が決定されたことも頭に入れておく必要があります。(BRICS=ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国のこと)

IMF世界経済見通し( 2014年7月時点 %)

  2014年 2015年
4月予測 7月予測 修正幅 4月予測 7月予測 修正幅
世界全体 3.7 3.4 ▲0.3 4.0 4.0 0.0
先進国 2.2 1.8 ▲0.4 2.3 2.4 0.1
米国 2.8 1.7 ▲1.1 2.9 3.0 0.1
ユーロ圏 1.1 1.1 0.0 1.4 1.5 0.1
ドイツ 1.7 1.9 0.2 1.6 1.7 0.1
フランス 1.0 0.7 ▲0.3 1.5 1.4 ▲0.1
イタリア 0.6 0.3 ▲0.3 1.1 1.1 0.0
日本 1.3 1.6 0.3 1.0 1.1 0.1
新興国 4.8 4.6 ▲0.2 5.3 5.2 ▲0.1
ロシア 1.3 0.2 ▲1.1 2.3 1.0 ▲1.3
中国 7.6 7.4 ▲0.2 7.3 7.1 ▲0.2
ブラジル 1.9 1.3 ▲0.6 2.6 2.0 ▲0.6
南アフリカ 2.3 1.7 ▲0.6 2.7 2.7 0.0

上記の表を見てみます。

まず、世界経済全体では、4月時点での予測よりも0.3%下方修正され、+3.4%となっています。要因としては、①米景気の寒波による一時的な落ち込み、②新興国の成長鈍化、③ウクライナ、中東情勢などの地政学リスクを挙げています。

 

個別にみてみますと、米国は4月時点の予測+2.8%を1.1%下方修正し、+1.7%と予測しています。4月時点で寒波の影響は分かっていたわけですから、4月時点の+2.8%予測が甘かったのではないかと思います。また、米国1-3月期GDPは、▲2.9%ですので、通年でIMF予測の+1.7%になるためには、各四半期平均で+3.2%以上の成長がないと達成できません。この7月時点の予測も甘いのではないでしょうか。今後、米国の成長率を見る時に、通年で+1.7%になるかどうかを判断基準としてみればよいと思います。10月に今年3回目の予測がありますが、それまでの米経済指標が悪ければ、再度下方修正される可能性もあり、ドル売り要因のひとつとなります。ちなみに米国FRBは、6月時点の予測で0.7%下方修正して2.1-2.3%としています。IMFもFRBも楽観的過ぎるのではないでしょうか。

日本はどうでしょうか。

1‐3月期の成長が強く(+6.1%)、消費増税の反動減も緩やかであることから、IMFは0.3%上方修正し、+1.6%としました。日本政府の見通しは、年度見通しで+1.2%と予測しており、IMFより固く見ています。しかし、民間エコノミストは+1.0%とみており、政府見通しより厳しく見ています。年度見通しですから、1‐3月期の+6.1%は考慮されませんが、これら予測の違いは4月以降の消費増税後の経済がどの程度持ち直すかどうかにかかっています。7月29日、総務省は6月の家計調査を発表しました。実質消費支出は前年同月比-3.0%。5月の-8.0%よりも減少幅が縮まり、消費は緩やかに回復しているとメディアは報じています。皆さんは生活実感と照らし合わせ、どのように感じていますか。

賃金が上がっても物価の上昇の方が大きく、実質所得は下がっています。消費増税による反動減はなかなか回復しないこともシナリオとして考えておく必要があるのではないでしょうか。成長が鈍ければ、日銀の追加緩和期待が高まり円安要因となります。また、それよりも米国の成長が鈍ければ、利上げ観測時期が後退し、米長期金利が下がりドル安要因となります。ドル円は日米の成長率格差で方向が決まっていくことになります。