為替が動くのは、需要と供給に偏りが生じるから動くと説明してきました。つまり、ドル円で説明しますと、ドルの需要の方が供給より多い→ドルの買い手の方がドルの売り手より多い、という偏りが生じた場合、ドルは上昇します。高くなります(ドル高)。それでは、なぜ、偏りが生じるのでしょうか?単純な答えですが、将来のドルが、現在の水準より高くなると思う人が増えるからです。今回は、そういう思いを生じさせる要因について考えてみます。

政治要因と経済要因

為替市場に参加する人達は、相場を動かす要因として、大きく分けて政治要因と経済要因を見ています。経済要因だけで動くと考えられがちですが、実は、政治要因でこれまでの枠組みを変える大変動が生じる場合があります。1971年のニクソンショック、1985年のプラザ合意、2008年のリーマンショック。リーマンショックの原因となったサブプライム問題は経済要因ですが、その後の政府の対応は政治要因です。欧州債務問題は、経済問題と政治問題が絡み合った複雑な問題です。

政治要因
国際政治動向選挙、中東政策、地政学リスク
国内政治動向、各国通貨政策、各国貿易政策
経済要因
(経済政策)財政政策、金融政策
(景気動向)経済成長率、消費動向、雇用、物価、貿易収支

これらの要因に時間軸を考慮してまとめたのが下記の表です。

要因 有効期間 内容 最重要要因
歴史的動向 数年~ 国の盛衰、通貨覇権、
時には100年単位で考える
政治動向
国内政局動向
国際政治動向
地政学リスク
各国通貨政策
各国貿易政策
戦争、対外政策

短期間でも長期間でも
影響力あり
経済政策 6ヶ月~ 各国の財政政策、金融政策
ファンダメンタルズ 6ヶ月 各国の経済成長、雇用、物価指数
経常収支、財政収支
需給バランス 3ヶ月 需要と供給の力関係
市場テーマ 1ヶ月 その時のテーマで大きく動く局面も
昨日のテーマよりも今日のテーマ時には同じテーマで反対に動く時も

これらの要因をもう少し詳しく見てみますが、その前に重要なことを確認しておく必要があります。

それは、為替レートは二国の通貨ペアで成り立っているという点です。つまり、為替を予測する際には、両方の通貨の要因を分析する必要があるということです。例えば、ドル円の場合、ドルの要因で動いているのか、円の要因で動いているのか、通貨毎に要因を分けて考える必要があります。ユーロ円の場合は、さらに複雑です。ユーロは、ユーロとドルの通貨ペア。それに円が加わるのでユーロ円の分析・予測→(ユーロの要因+ドルの要因+円の要因)ということになります。それでは、為替の変動要因について考えていきます。

歴史的動向

ある国の通貨を予測するうえで、現在の水準が過去の歴史の中でどのような水準なのかを知っておくことは重要なことです。例えば、ドル円の場合、2012年から2013年前半にかけて80円から100円になった時に、「大幅な円安になった」という記事が見られましたが、80円から見ると円安ですが、120円や130円の相場を知っている人達から見れば、まだ円高ゾーンの中にいると感じているかもしれません。もっと長い年数をとれば、1ドル=360円の時代があったわけで、その水準からみれば、1ドル=100円は、まだまだかなりの円高水準ということになります。

このように歴史的な流れの中で、その通貨の動きはどうだったかを現在の水準に照らし合わせて考えておくことは非常に役に立ちます。時には、100年単位で考えて見ることも重要です。それでは歴史的な流れのポイントを簡単に触れますと、

  • その国の通貨は、国の盛衰によって左右され、18世紀以降の国際政治では通貨覇権=世界覇権という概念が大国に意識され始めた。
  • 19世紀、20世紀の第二次大戦前までは、英国のポンドが世界の基軸通貨。
  • 第二次大戦後、米国のドルがポンドに代わって覇権を掌握。IMF、世銀体制を構築し、ドルが戦後の基軸通貨に。
  • しかし、ベトナム戦争を経験し、ドルと金の兌換(交換)が困難となり、米国はドルと金との兌換を停止。以後、ドルは大量供給によってドル安の動きに。
  • 直近では、米国FRBの大規模金融緩和によってドル安が一段と進行している状況。
  • 欧州は、ドルに対抗するためユーロを創成したが、ギリシア問題を発端に欧州債務問題が拡大し、いまだドル優位の時代。また数年前には、21世紀中に人民元がドルに取って代わるのではないかと盛り上がったが、現在は下火。しかし、アジアでは着実に人民元の流通が増大している。

このような流れの中で、ドル円は、戦後360円の固定相場から始まり、1973年に変動相場に入りドル安が進行し、1985年のプラザ合意でドル安が加速し、そして2011年には75円台まで下落しました。2014年現在の104円台は、このような流れの中での水準となります。

経済政策

経済政策の主な政策として、財政政策と金融政策があります。

これらの要因は、半年から数年単位で相場の方向付けをする重要な要因です。

相場の中期的な流れを読む上で、その国の財政政策や金融政策がどのような方向に向かっているかは、常にチェックする必要があります。そして、政策転換をする時に相場が大きく動きます。アベノミクスによる大規模金融緩和の導入は、政策変化であり、ドル円は20円の円安になりました。

財政政策は、財政の拡大、縮小によって景気の拡大、後退を政府がコントロールする政策です。しかし、やり過ぎると市場の信認を失い、その国の通貨は売られることになります。2013年には米国の債務上限が問題となり、あわや米国がデフォルトという事態の直前まで協議が難航しました。政府機関は停止となり、自由の女神やスミソ二アン博物館などが休館となったというニュースが流れていたのを覚えておられる方も多いと思います。もし、デフォルトになっていたら、長期にわたってドル売り地合いが続く結果となったでしょう。今後、再び同じ事態が起こった場合は、ドル売りとなることは覚えておく必要があります。

金融政策は、為替市場を見るうえで米国の金融政策が最も重要な事項になります。

米国金融緩和→ドル売り、株高、債券高(金利安)、商品高

米国金融引締→ドル高、株安、債券安(金利高)、商品安

現在最も注目度の高い要因です。米国は、リーマンショックの後、景気回復のために3回にわたって大規模な金融緩和をやりました。この結果、ドル売りの流れとなりました。しかし、2013年の夏場あたりから、FRBはこの金融緩和の規模を縮小するニュアンスを市場に与えました。金融緩和を縮小しても、金融緩和は継続ですが、大規模な金融緩和を行っていたため、金融緩和縮小は米国金融政策の一大転換と市場は見ました。この結果、ドル買いの流れとなり、新興国の通貨と株が急落しました。

その後、FRB議長の交代(バーナンキ→イエレン)をはさみ、2014年に入ってから段階的な緩和縮小を開始しました。今後は次の転換点として利上げの時期に焦点が移っていき、米国の金融政策の動きに引き続き留意する必要があります。

ファンダメンタルズ

財政政策と金融政策によって、経済環境が変わってきます。これらの経済環境変化は、毎月もしくは四半期毎に発表される経済指標に反映され、為替市場は、これらの発表の都度、相場が動きます。為替市場ではドルが中心の市場であるため米国の経済指標が最も注目されます。これらの経済指標はファンダメンタルズと呼ばれています。言い換えますと、ファンダメンタルズとは、一国の経済状態を安定させるための基礎的条件、すなわち、経済成長率、物価上昇率、失業率、国際収支等々です。為替相場を予測する上で、これら指標の意味合いを知っておくことは非常に重要です。個別に指標を見ていきます。

経済成長率(GDP)

成長率は最も重要な指標です。現在のマーケットでは、米国の雇用統計が注目されていますが、経済が成長しているのが前提となっているためです。もし、景気が後退し、GDPの成長率が低下してくると、一気に注目は成長率に移ります。マイナスの成長率の国では雇用も伸びず、失業率も上昇してきます。成長率は四半期毎に発表されるため、毎月発表される雇用統計に目が向くということもあります。GDPと為替との因果関係は、米国の例では、

米国GDPの上昇→金利の上昇→ドル高

米国GDPの下落→金利の下落→ドル安

金利が上昇すると株が下がりますが、経済が成長しているため企業業績も成長していくと期待が高まると株も上昇します。また、GDPが下落すると株が下がりますが、景気に刺激を与えるためFRBが金融を緩和する、との期待が盛り上がると株が上昇する場合もあります。この場合、為替はどうでしょうか。最初の動きとしては、金融緩和→ドル安です。しかし、株が予想以上に上昇するとドル高になる場合もあるので注意が必要です。その時の相場環境を見て判断するしかありません。

失業率(雇用統計)

米国の雇用統計が、現在では、最も注目されている指標です。米国の金融政策は、雇用環境を見て判断するとFRBが宣言しているため注目されています。失業率が低下しても新規の雇用が伸びないと金融引締めには至りません。一般的に3か月平均で20万人近くの雇用増となる事が重要な分岐点と言われております。

米国雇用統計は、通常、毎月第一金曜日に発表されます。