来年の1月20日を境に相場は期待相場から現実相場に転換する

実現性の有無は兎も角、トランプの経済政策は大規模な財政出動・減税・ドットフランク法の廃止(金融自由化)・軍事費拡大(軍事面では米ロ協調を謳っており、そこだけは過去の共和党政権と大きく違っている)・温暖化対策反対(エネルギー産業重視)・本国投資法(HIA)とレーガノミクスとブッシュJrの政策をなぞっている。

上記のトランプの政策はトランプノミクスと呼ばれ、それを囃して株式相場はトランプラリーと呼ばれるリスクオン相場が展開されてきた。この株高はトランプ政権への期待相場である。期待相場が現実相場に変わるのはトランプが大統領に就任する2017年1月20日以降で、とりわけ2017年1月下旬に予定されている一般教書演説(所信表明)が注目されているが、いずれにせよ、来年の1月20日を境に相場は期待相場から現実相場に転換する。

トランプ当選を予想し、「トランプ大統領なら株式相場にはポジティブ、債券相場にはネガティブ」と発言していた新債券の帝王ジェフリー・ガンドラックは、11月15日に「トランプ次期大統領が経済成長を迅速に促進できるとの期待は薄れ、株式相場は乱高下に見舞われる。景気を急回復させる魔法のつえをトランプ氏は持ち合わせていないと指摘。連邦政府プログラムの本格展開には時間が必要であるほか、住宅ローン金利の上昇や月々の支払い増加は中間所得層の心理にプラスにならない上、選挙で敗北したヒラリー・クリントン氏の支持者らはお金を使う気分でないと分析した」という。(11月16日ブルームバーグ「ガンドラック氏:トランプ政権下で株式相場は「乱高下」へ」)

筆者の周辺の株式運用者は、「市場はトランプリスクに対して警戒を解いていない(構えている)。そうした警戒感があるうちは、株式相場は上昇する。皆が強気になっていないからだ。NYダウが19000ドルを超えてくると、トランプ大統領就任までに20000ドルの大台を試す可能性が大きくなる。彼が大統領に就任するまでは、悪材料が出てきても相場はさほど下げないだろう。しかし、相場が思惑通り上昇したら、1月はいったん利食いしたい」と述べたうえで、「現在の相場は非常に難しい。相場は上げの最終波動である5波動目に位置していると思われるが、トランプの財政出動や減税が行われれば現在のバブルが1~2年延命する可能性は十分ある」と述べている。

NYダウ(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

NYダウ(週足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200週EMA(緑)・52週ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

トランプフレーション(米国の金利上昇)で日銀の長期金利ターゲットが窮地に

トランプの大規模な財政出動観測で完全雇用下の米国ではインフレになるのではという思惑から米国のみならず、世界中で債券売りが活発化し先進国の金利が上昇している。債券の保有者は青ざめていると言われるなか、一番困っているのは日銀だろう。

日銀はQEという金利の上がらないスキームを作り、それを続けることで財政再建路線を維持している。インフレにならない限り、日銀はまだ‘なんでもあり’の政策を続けることが出来る。物価目標2%を達成するまでは、日銀は国債を買う(金利上昇を抑える)ことが出来るので、このスキームは維持できる。だから、黒田さんは現実に日本経済がインフレになったら困るのである。表向きのデフレ脱却という看板とは裏腹に、対GDP比で類をみない債務残高を抱える日本は、インフレになったら(金利が上がったら)財政負担が増加するだけであり、追加緩和もできなくなる。そうなると、中央銀行バブル相場を維持できなくなる。

日銀はデフレのうちは(インフレにならない限り)、長期金利の制御は可能だと考えているのだろうし、日銀にとっては都合の良いグローバルデフレという環境にある。しかし、トランプ新大統領の誕生でそうしたシナリオが怪しくなってきた。日銀による長期金利の固定は、デフレのうちは緩和縮小(テーパリング)だが、インフレになるとヘリコプターマネーになる。

そうした焦りからか、黒田日銀総裁は17日の参議院財務金融委員会に出席し「米金利上昇による自動的な金利上昇は容認しない」と語り、日銀は17日午前に固定利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値」オペ(公開市場操作)の実施を初めて通知した。

金利上昇を抑えるために日銀がヘリコプターマネーに動けば、為替は円安に動くだろう。しかし、ドル安政策を標榜し日本の円安誘導を批判しているトランプは、日銀の政策は<不公平>だと批判するだろう。

また、アベノミクスの理論的な支柱であった内閣官房参与の浜田教授が日経新聞のインタビューで、「私がかつて『デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」と述べ、「(著名投資家の)ジョージ・ソロス氏の番頭格の人からクリストファー・シムズ米プリンストン大教授が8月のジャクソンホール会議で発表した論文を紹介され、目からウロコが落ちた。金利がゼロに近くでは量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、ただ歳出を増やすのではなく何に使うかは考えないといけない」と、日銀の量的緩和政策に白旗をあげているのも気になるところだ。

財政出動に市場の目が向いており、現在の相場が金融バブル相場であることを忘れそうになるが、金利の上昇はある時点から株式相場にとっては強力な下げ材料となる。日本の本当の危機は日本の長期金利が2%を超えたあたりから表面化すると言われている。

日本10年国債金利(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

米国10年国債金利(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

米国10年国債金利(週足)
上段:26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

1週間で8円の円安

米国の金利上昇でドル/円相場は1週間で8円の円安が進んだ。さすがに短期的には買われ過ぎだが、トランプ就任までは円安基調が続くとの声も多い。現在の円安は言いかえれば米金利上昇によるドル高であり、これは米国の事情である。だから、米国も文句を言いにくい。昨年高値125円81銭から今年の安値99円00銭の下げ幅に対する38.2%戻しを達成しており、相場は半値戻し水準の112円半ばまで上昇してもおかしくないだろう。ただし、ドルインデックスは100を超えてきており、米国からの牽制にも注意が必要な価格帯に入ってきている。

ドル/円(日足) フィボナッチのリトレースメントと移動平均のセンタリング

(出所:石原順)

ドルインデックス先物(週足)
上段:26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

いずれにせよ、現在の期待感によるトランプラリーは来年1月がとりあえずの賞味期限であろう。筆者の周辺のファンドは、今年は大統領選挙日11月8日(日本時間9日)に「10月末買い・翌年4月末売り」のポジションを構築したところが多いが、NYダウが19000ドルを上抜けて走ることになれば、12月か1月にいったん利食いする方針だという。

NYダウ(月足) 「10月末買い・翌年4月末売り」のパフォーマンス

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。