中央銀行が値付けをしている相場では<逆張り>が有効

昨今の相場は中央銀行が値付けをしている中央銀行バブル相場だ。日本は日銀や年金が株式市場のビッグプレイヤーとなり、半官半民相場となっている。米国株もFRBがコントロールしているといってよいだろう。今週の日経ヴェリタス442号の報道では、最高値圏で推移している米国株の買い手のダントツの1位はスイス国立銀行(スイス中銀)で1~6月で153億ドルを買い越しているという。中央銀行が市場のプレイヤーとなり、政府系年金・政府系ファンドと併せて池の中のクジラのような存在になりつつある。

カネ余りの運用難のなかで、世界のマネーが米国に流入し、米国株は過大評価されている。さりとて、現在の相場で過度の弱気になるのも危ない。なぜなら、「ゼロもしくはマイナス金利の環境での紙幣増刷で、株式の過大評価は、名目的には長期化し、さらに高くなる可能性がある」(マーク・ファーバー)からだ。

いずれにせよ、現在のような官製相場では、相場はトレンド(方向性)を持ちにくい。順張り(トレンドフォロー)がワークしなくなってファンド勢もここ5年間くらいずっとパフォーマンスが悪化している。逆に言えば、中央銀行が値付けをしている相場では<逆張り>が有効なのである。ただし、逆張りなら何をやっても儲かるというわけではない。

相場の流れに逆らってポジションをとる逆張りを行った場合、損切り(ストップ・ロス)を入れなければ、壊滅的な損失を被る可能性がある。相場の転換点を当てようとする逆張り手法は、損切り(ストップ・ロス)を置かなければ機能しない。

筆者の周辺のファンドでは、フィルター付きの逆張り売買をしているところが多い。どういうフィルターが付いているかというと、「相場が200日指数平滑移動平均線を下回っている局面では押し目買いを休止、一方、相場が200日指数平滑移動平均線を上回っている局面では戻り売りを休止する」というものだ。それが、相場の急落や急騰から身を守る手段であり、急落や急騰に巻き込まれないためのアラート(警報)になっている。

特に、過去200日間の市場参加者の平均コストを下回っている金融商品は、相場急落のリスクを孕んでいる。「危ないところで買わない」ということは、テクニカル的に言うと、相場が200日指数平滑移動平均線を下回っている局面ということになる。筆者は200日指数平滑移動平均線(Exponental(EMA))を使っているが、200日の単純平均(SMA)を使っても差し支えないだろう。

以下のチャートでは、<200日移動平均線の下に相場がある時は押し目買いをしない、逆に200日移動平均線の上に相場がある時は戻り売りをしない>というルールに基づいて、ストキャスティクス5.3.3(ストキャスティクスの考案者であるレーンのオリジナルのパラメータ)のシグナルを点灯させている。昨今の相場では相場の転換点をうまく捉えてくれているといえるだろう。

ポジションを手仕舞うポイントは、ストキャスティクスのシグナルで利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。

NYダウ(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

FTSE100先物(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

DAX(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ドル/円(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

低かった米国の金利が上がる時

筆者は株式インデックスの逆張りを続けてきたが、株式相場は注意を要する時間帯に入る。株のボラティリティが上げる月は歴史的に見て5月・9月・10月で、ボラティリティの上昇は株の下げにつながりやすい。

注目のイエレンFRB議長のジャクソンホール講演は、「この数ヵ月で追加利上げへの説得力が増した」とのタカ派発言で瞬間的にドル買いとなるも、いつもの玉虫色の発言で<いってこい相場>になった。しかし、スタンレー・フィッシャーFRB副議長の「8月雇用統計はFOMCの決定に影響。イエレン議長の発言は9月利上げの可能性と整合的」という発言でドル買いが加速している。

今週末の米雇用統計の数字次第では、9月利上げの観測が一気に浮上する可能性がある。しかし、米国株はNYダウが17.37倍、S&P500が18.46倍と過去の平均PER(14倍)を大きく上回るなか、米国の利上げ観測は米国株式市場にとって逆風となる可能性がある。NYダウ先物の投機筋の買いポジションが、リーマンショック後の最大の買い越しとなっているのも気がかりだ。マーケットは9月21日の利上げを織り込んでいない。

NYダウ先物のポジション(CFTC発表8月23日現在)
NYダウ先物の投機筋の買いポジションはリーマンショック後の最大の買い越し

(出所:石原順)

新債券の帝王ジェフリー・ガンドラックは「集団心理で正常な判断ができない状況が続いている」と発言、ブラックストーンのバイロン・ウィーンも「年内には大きく調整する」と発言している。ドル高・円安を受けて週明けの日本の株式市場は上昇しているが、今後、利上げ観測がマーケットテーマになると、異常低金利による流動性の幻想が醒めて米国株式市場が調整する可能性が高まる。米雇用統計の数字が良ければ金利差からドルは上がるかもしれないが、株式市場は調整に入るのではないかとみている。

NYダウ(週足)と米国の金融政策
全てのバブルを異常低金利が支えてきたが・・

(出所:石原順)

米10年国債金利(日足) 低かった金利が上がる時になにが起こるのか?
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・2シグマ(赤)

(出所:石原順)

先週のレポートで取り上げたラリー・ウィリアムズも、「月曜日(8月30日)は米国株が戻すかもしれないが、米国債とゴールドの先行した下落が米国株の下げを導いていくはずです」と、戻り売りを狙っている。仮にそうしたリスクオフの状況になれば、円安の進行も限られるだろう。

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月29日
S&P500(日足)

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月29日)

円相場のトレンドと9月の相場見通し

ラリー・ウィリアムズの予測では9月のドル円は前半が円安、後半が円高となりそうな循環だが、現在の円相場には明確なトレンド(方向性)がない。しかし、米雇用統計後はそろそろ動きが出てくるだろう。

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月29日
ドル/円(日足)(シカゴIMM表示 上昇=円高・下落=円安)
*著作権のため画像の一部を隠しています

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月29日)

ドル/円(日足) 次のトレンド待ち
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・2シグマ(赤)

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 次のトレンド待ち
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・2シグマ(赤)

(出所:石原順)

3日修正平均ADXを使った転換点売買が好調

現在のトレンドレスな相場環境で、 200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張り売買とともに筆者がずっと続けているのがドル/円・ユーロ/ドル・日経平均・NYダウの転換点売買だ。ストップ・ロスを置いて機械的に売買しているが、そのパフォーマンスは悪くない。

転換点売買

<修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。ストップ注文を置いて参入、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。

日経平均先物(日足)
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

NYダウ先物(日足)
上段:18日エンベロープ±1%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ドル/円(日足)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ユーロ/ドル(日足)
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

このレポートで取り上げた売買手法の詳細はDVD『相場で道をひらく7つの戦略-短期売買実践編』(石原順)で取り上げております。興味のある方はご参照ください。

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。