EU離脱後、英国はよい方向に進む?
米著名投資家のラリー・ウィリアムズは、「EU離脱後、英国はよい方向に進むだろう。より多くの経済パートナーとの自由貿易が経済発展につながると考えた場合、英国と欧州との距離は遠くなり、英国と米国の関係は強固になって米国に接近(アングロサクソン連合)してくるだろう。そして英国と中国、インドとの距離は接近する。英国の決断は長期にはプラスで、EUにとってはマイナスだと思う」、「政治アナリストたちによると、イギリスの決断はトランプ支持を意味すると伝えている。確かに、トランプはEU離脱を支持していた。これは、グローバリズムを否定する思想が世界で強まっているからだろう。持てる者と持たざる者の戦いだが、経済の問題だけではなく、自国第一主義の主張の高まりでもある。私の予測では、これは英国の終わりではない。英ポンドは、ここから少し下落して、その後、盛り返してくるだろう」(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)6月27日号)と、語っている。
FTSE100先物(週足)Brexitで急落の後、英株価指数FT100は年初来高値更新
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±0.6シグマ
ラリー・ウィリアムズは6月27日の「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」で、1960年代から米国株式市場に存在するバイアスを利用して、<7月4日の4取引日前にS&P500を買う>取引を強力に推奨した。即ち、今年は6月28日にS&P500のミニを買うというバイアストレードである。このトレードは今回も成功し、過去19年で17勝2敗となっている。
6月27日の「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)」
S&P500先物(日足) ラリー・ウィリアムズのバイアストレードは大成功!
上段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)
下段:ウィリアムズ%R(赤)
もちろん、EUからの離脱で英国はスコットランドの独立や、北アイルランド問題の再燃が懸念されている。しかし、もっと怖いのはEU分裂の恐怖やEU分裂のドミノ倒し観測である。現在はEUを統合する大義名分というのが見出しにくい状況にあるが、オランダ、イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス、そしてドイツでも英国に続こうという機運が一部で出てきている。
ラリー・ウィリアムズは「英国の決断は長期にはプラスで、EUにとってはマイナスだと思う」と語ったが、フランス、スペイン、イタリアの株価はBrexitで大きく下げた。先週のレポートでも述べたが、筆者はすでに急落したポンド/ドル相場より、長い保合相場が続いているユーロ/ドルの保合離れ相場に注目している。
ポンド/ドル(週足) 売りトレンド相場
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ
ユーロ/ドル(週足) 長期の保合相場からのブレイクがあるか・・?
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ
ベイルイン導入の欧州金融不安
2014年7月にEUはユーロ圏諸国の銀行統合を1年早め、2014年末までに統合を本格化することを決めた。これによって、ユーロ圏の銀行が破綻や経営危機に陥った場合、各国の政府でなくEUが対応策を決定することになった。
金融危機が起こると、従来はEU各国政府が公金資金を投入して銀行を救済するという預金者保護、即ち、ベイルアウト政策をおこなっていたが、2015年以降はEUでは銀行が破綻した場合、大口預金者や債権者にも損失を負担させるベイルイン政策を採用することになっている。
欧州の銀行はリーマンショックでできた不良債権を損失先送りで償却しているが、今後、新たな金融危機が勃発すると、(日本の1990年代の銀行のように)バブルの損失処理に苦労している欧州の銀行のなかには危ないところが出てくる。
リーマンショック後、中央銀行が値付けするという人工的な株式・債券PKOが行われてきたが、いかなる価格操作も長期的には必ず破綻する。EUが銀行統合を早め、ベイルイン政策を採用したことは、次のバブル崩壊で大規模な公的資金を投入したくないドイツやEUの対応策であると言われているが、いずれにせよ、今後EUの銀行が破綻すれば、大口債権者や大口預金者に損失をかぶる事態が予想される。
預金を大口預金者に返済せずに銀行を清算するベイルイン方式は投資家にとっては恐ろしい仕組みである。ベイルインは、2013年のキプロスの金融危機で既に導入されており、大口投資家はEUの金融危機に敏感になっている。
そうしたなか、「イタリア政府、モンテ・パスキ銀に資本注入を検討-関係者」2016年7月5日 ブルームバーグ)というニュースが7月5日に飛び込んできた。ブルームバーグの報道によると、「イタリア政府は国内3位の銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナへの資本注入を検討している。事情に詳しい関係者が明らかにした。イタリアが公的資金を使って銀行を救済すれば、今年から完全施行された債券保有者と株主にも負担を強いる規則がどのように適用されるかの試金石になる」という。この問題では、投資家の負担を強いるベイルインなしの資本注入が可能であるか否か、また、ベイルインになるならどの社債の保有者がどの程度の負担を強いられるのかが、市場の注目を集めている。
G・ソロスはBrexit(英国の EU 離脱)で、<英国売り>ではなく<ドイツ銀行売り>トレードを敢行した。それは上に述べたような背景があるからだ。英国のEU離脱を受けて銀行株が売られ、イタリアの銀行危機も深まっている。
ドイツ銀行(NY市場日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ
円キャリートレードの巻き戻しで、円高・日本株安に
欧州の金融不安に加えて、英国で不動産ファンドが解約停止となり、リスクオフが再燃している。その結果、円高・ドル高・株安相場となっている。
7月6日のロイターの報道によると、「英国の商業用不動産ファンドが、過去24時間に相次いで解約を停止した。市場では同セクターや関連銘柄への売りが膨らむなど、不動産価格下落への警戒感が強まっており、欧州連合(EU)離脱決定を受けた市況悪化の兆しが出ている。英保険大手アヴィヴァ(AV.L)傘下のアヴィヴァ・インベスターズは5日、総額18億ポンドの規模を持つ不動産投資信託(REIT)の解約を停止。同日午後には英生保プルーデンシャル(PRU.L)傘下M&Gインベストメンツが運用する44億ポンド規模のプロパティー・ポートフォリオも解約を停止した。前日には英保険大手スタンダード・ライフ(SL.L)傘下のスタンダード・ライフ・インベストメンツが規模29億ポンドの不動産ファンドの解約を停止しており、規模は3ファンドで100億ポンド近くに上る。これは英国のオープンエンド型商業用不動産ファンド全体の350億ポンド(460億ドル)のうち、約3分の1に相当する。イングランド銀行(英中央銀行)は英国のEU離脱の是非を問う国民投票前に、離脱が決まれば国内商業不動産部門がリスクにさらされる恐れがあり、特にオープンエンド型の不動産投資信託のリスクが高いと警告していた」との事だが、陰鬱博士マーケ・ファーバーが指摘するように、世界的にREIT市場はバブルである。バブル相場に乗るのはよいが、賞味期限を考えるべきであろう。
グリーンストリート商業用不動産価格指数
先週、円キャリートレードの巻き戻しで、円高・日本株安となっていると述べたが、その流れは今週も変わっていない。円相場は円高トレンドが持ち直し、今週ドル/円は100円58銭まで円高が進行した。現在、ドル/円、ポンド/円、ユーロ/円のすべてに売りシグナルが点灯している。
ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ
ポンド/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ
ユーロ/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ
石原式「勝てる場面」の見分け方
通貨市場は円高トレンド相場になっているので、現在、3日修正平均ADXを使った転換点売買は休止中しているが、日経平均の相場には売りで参入している。
日経平均先物(日足)
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX
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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。
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