ドル/円は下抜けか?それとも4月上旬までリバウンドか?

2016年の相場は年初からの急落で、多くのストラテジストや投資家が惨敗という状況になっているという。一方で、年初からの株急落やその後の原油高、ドル安、新興国株高という動きを、マーク・ファーバー、ラリー・ウィリアムズ、ジェフリー・ガンドラックなどが言い当ててきた。

マーク・ファーバーは、『「私の見方で最も有力なのは、ユーロと円がさらに反発するというものである。米ドルのどこがそれほど“素晴らしい”のか、私には理解しがたい。本レポートですでに論じたように1月末に世界中の株式が非常に売られ過ぎとなった。強い反発は十分にあり得る。ただし高値更新はないだろう。私の意見では、この強い反発は偏り過ぎたポジションを削るのに利用されそうだ』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)と述べているが、これらのポジション(貴金属や金鉱株など・・)の一部を2月半ばに利食いしたようだ。「現在は短期的にみて買われ過ぎ」という判断である。しかし、これらの商品は、「2016年のうちにさらに上昇する可能性がある」と考えているようだ。

S&P500(日足) 1,970~2,134は強烈な抵抗圏?

(出所;石原順)

NYダウ(日足)
1984年以降の大統領選挙年のパターン分析では、大統領選挙年のダウは3月~5月まで上昇することが多い
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所;石原順)

ラリー・ウィリアムズの<ナチュラル・チャート予測>も、原油や通貨の動きをみるのに有効なツールとなっている。ラリーや筆者の周辺のファンドの多くが、現在、「2月からのドル/円の円高は3月下旬で円安軌道に反転し4月上旬までリバウンド、その後はまた円高に逆戻りという見方をとっているところが多い。大局は円高相場だが、4月上旬までは短期的なリバウンドの循環とみているということだ。

ドル/円(日足) 2月16日高値114円86銭を上抜くことが出来ず、ダブルボトムパターン形成に失敗しているが、短期的なリバウンドはある?

(出所;石原順)

ドル/円(日足) 相場は-1シグマの内側に入り、円高トレンド形成に失敗
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所;石原順)

ただし、ドル/円の週足が60週ボリンジャーバンドの±2シグマの外で取引が行われているうちは、強いトレンド相場となる。現在、60週ボリンジャーバンドの-2シグマは113円95銭近辺を走っており、強い円高トレンドが終息するには、相場が114円を上抜いてくる必要がある。そして、大きくは20か月移動平均線(3月24日現在118円15銭)を上抜いてこない限り、円高バイアスがかかり続けるだろう。

ドル/円(週足) 60週ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・±3シグマ(青)

(出所;石原順)

ドル/円(月足) 20か月移動平均線(赤)と売買シグナル

(出所;石原順)

鍵を握る原油の動き

ここ数週間にわたり注目してきた豪ドル/ドルの相場は大きな豪ドル買い相場に発展したが、3月23日の相場で、21日ボリンジャーバンド+1シグマを下抜けたため、筆者は豪ドル買いポジションを全部手仕舞った。

現在の相場で最も重要なのは原油の動きであろう。米国株がもう一段上がるかどうかも、ドル安と原油安が鍵となる。2月に続く2回目の原油増産凍結協議は3月20日にモスクワで開かれることになっていたが、この予定は流れて、4月17日に再びドーハで開かれる予定である。世界の産油量のシェアで7割強にあたる約15か国の産油国が支持している会議であり、その行方が注目されている。原油相場の動向を注視したい。

豪ドル/ドル(日足) 買われ過ぎから調整相場に
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所;石原順)

原油先物(日足) 原油も21日ボリンジャーバンド+1シグマを下抜け
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所;石原順)

2月12日が相場の転換点

市場は統制経済と相場操縦という色彩を濃くしている。投機筋の間では、「2月12日に大きな手が動いた」という観測が多い。マーク・ファーバーがレポートでこの件について言及しているので、代理店の許可をもらい以下に引用させて頂く。

『いうまでもなく、2016 年のスタートは、多くの投資家にとって幸先良いものとはいかなかった。FANGや銀行株、ハイテク株、ラッセル2000(米国の代表的な小型株指数)構成銘柄といったモメンタム株を長く支持し、貴金属や米国債を敬遠していたツケが回ってきたといえる。また、常に債券・現金、株式、貴金属、不動産と広く分散されたポートフォ

リオを維持するという規律を怠っていた。しかも、一部の人気トレード(例えば、ユーロ/ドルや円/ドルの売り)で、一部の大型プレーヤーにかなり大きな打撃があったようだ。こうした通貨が対米ドルで予想外に価値を高めている。私は中央銀行が金利を操縦していると述べた。これは明らかな事実である。また、日銀はETFをとおして株式を買っている。これも事実だ。 しかし、どの中央銀行も金や外国為替、債券、株式といった市場で投

資をしている(より正確にいえば、操縦をしている)といえる。2月12日に、すべての欧州系銀行株が高騰し(ドイツ銀行が12.5%高、クレディスイスが6.4 % 高)、S&P500が35ポイント上昇した。私は、このとき金融システムを支えるために中央銀行による何らかの協調的行動があったとみている。前日の2 月11 日に、S&P500 が1810 に落ち込むと、15時過ぎから数分の間に相場が突如として急騰したからだ。あたかも株式市場を安定させようと“大きな手”が動いたかのようであった』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

『ここで補足しておくべきことがある。最近、中央銀行は多額の資金をかけずに相場を操縦するようになった。少なくとも非常に短時間に500億ドルだけで相場を動かせる。金融政策で協調している日銀、FRB、英国銀行、ECB と異なり、中国やロシアなど新興国の中央銀行は、このゲームに参加していない。そこで、PBOC(中国人民銀行)の立場について少し考えてみよう。PBOCは、優秀なヘッジファンドと同じくらい、自分たちが難しい状

況に置かれていると分かっている。国内金利を下げると、さらに人民元が下落する可能性が非常に高くなる。一方で、国内金利を上げると、不動産・株式市場にさらに逆風が吹くことになる。 しかし、それよりも重要で、中国にとって我慢ならないことがある。それは自国の問題で一部のヘッジファンドを儲けさせてしまうことだ。そこでPBOC に何ができるか。 読者に理解しておいてもらいたいのは、中国の指導者と高級官僚が極めて情報に精通していることだ。なかでもPBOC は、グローバルマクロ型ヘッジファンドのポジションを正にかえたのだ。それだけでPBOCは、人民元を売っていると世界中に喧伝する必要があると分かっているヘッジファンドへの復讐を果たせた。私は中国が直面している問題を十分心得ている。ここ6年のうちに巨大な信用バブルが、そこかしこで起きた。いまのところ私は、人民元がさらに下げるリスクを抱えているとみる』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

中国の外貨準備と人民元レート(1996年~2016年)

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

『私が指摘しておきたいのは、中央銀行が操縦する世界で、投資家が相場の動きを知るのは、そして世界がここ5年、ましてや10年で、どのようになるか知るのは、ほとんど不可能であるということだ。中央銀行は経済的・金融的安定を築こうとしていると世間的にはみなされている。しかし実際には、巨大なバランスシートと市場介入によって金融市場にとてつもない不安定性と不透明性を築こうとしているのだ(図10)。そうでなければ「ゴールドマンサックスが2016年に入ってたった1カ月で“今年の6大推奨トレード”のうち5つを取り下げた」ことを、どう説明できるだろうか。また、この自由市場で、日本国債の利回りが大方の“賢者のおカネ”の予想に反して下げ続けているのは、どうしてだろうか。 過去15~20年間、衆目一致のトレードがあったとすれば、それは日本国債の売りであった。しかし、何が起こったか。日本国債の利回りは下げ続けており、売り方は一敗地にまみれていったのである(図11)』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

世界の中央銀行の資産合計(2002年~2014年)

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

日本国債利回り(2008年~2016年)

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

日本株は円高が足かせ

3月16日のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。ジェフリー・ガンドラックに「FRBの予測は当たったことがない」と揶揄されているドットチャートだが、FOMC参加者の政策金利見通しが、年4回の利上げから年2回の利上げに下方修正された。FOMCの市場予測へのすり寄りを見て、市場は今回のFOMCをハト派的と受け取ったようだ。イエレンは、「グローバルな経済や金融市場の動向はリスクとなり続けている」と、今頃になって米国経済の一人勝ちは難しいとの認識を示している。

FRBのドットチャート(2016年FOMC3月開催分)
年4回の利上げが2回に修正された

(出所:FRB)

FF金利先物 利上げは年一回?

(出所:石原順)

FOMCの結果を受けて、通貨市場はドル独歩安相場となり、ドル安→米国株高・ドル安→新興国株高・ドル安→原油高という図式で米国株・新興国や原油が買われる一方、円高→日本株安・ユーロ高→欧州株安と、通貨高の国の株式市場は軟調な反応となった。

ブルームバーグの『為替ヘッジ付き日本株ETFから資金流出、円ヘッジが損失を増幅』という3月21日の報道を読むと、「日本株に投資する上場投資信託(ETF)のウィズダムツリー・ジャパン・ヘッジド・エクイティ・ファンドは今年に入り13%下落した。円相場についてのヘッジが損失を増幅させた。103億ドル(約1兆1500億円)規模の同ファンドの下落率は為替ヘッジをしないIシェアーズ・MSCIジャパンETF(176億ドル規模)の約2倍。損失が膨らむ中で投資家はウィズダムツリーのファンドから26億ドルを引き揚げ、約2000本の米国籍のETF中で最大の流出となった。リバーフロント・インベストメント・グループのヘッドトレーダー、ウィル・ウォール氏は、今年はヘッジ付きの商品から急速に資金が流出したと述べた。米国と欧日の金融政策の差から買われてきたドルの上昇の勢いに陰りが見られ、為替ヘッジ付きETFの人気は後退。ブルームバーグのデータによれば、今年は先週末までに約40億ドルが流出した。2015年は470億ドル流入だった」ということのようだ。やはり、日本株は円高が足を引っ張っている。

日経平均(日足)と9日RSIの売買シグナル 3月最終週はPKO?

(出所;石原順)

マイナス金利とその先にあるもの

『私はFRBの“専門職員”のように賢くない。なぜなら、マイナス金利の目的が一体何なのか分からないからだ。為替レートを引き下げるにしても、目的達成は非常に疑わしい。日本の場合、急激な円高となり、思いっきり裏目に出た。マイナス金利で成長を刺激しようというのであれば、あきれてモノもいえない。なぜならマイナス金利は貯蓄率の上昇を招く可能性があるからだ。事実、スイス、デンマーク、スウェーデンでは、そうなった。図4は、スウェーデンの総貯蓄だ』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

スウェーデンの総貯蓄率と銀行金利(2011年~2015年)

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

『世界経済が千年にわたり劇的に拡大してきたのは、疑いようがない(特に19世紀のデフレ的な産業革命の間)。しかし、そこにマイナス金利は一度もなかった(図5)。しかも、ブラズニクが先ほど説明したように、マイナス金利は「自由市場では決して存在し得ない」。これは、金利が中央銀行に操縦されていることを意味する。ちなみに、ウィキペディア英語版では相場操縦について次のように説明している。「相場操縦とは、市場の自由かつ公平な運営を妨げ、株式・コモディティ・通貨の価格または市場に関して人為的な・誤った・紛らわしい状況を作り出す計画的な試みである。大半の国で禁止されている」 私が経済・金融史で学んだことから、そして個人的に経済・金融の発展を観察してきた経験から、いくらか自信を持っていえることがある。それは「いかなる相場操縦も長期的には成功しない」というものだ。どのような操縦であれ(賃金・価格・家賃統制、価格安定を目的とし

たカルテル、為替操作、中央計画による完全統制経済など)、遅かれ早かれ操縦者のもくろみは市場メカニズムによって完全に打ち砕かれてきた。確かに中国や旧ソ連の中央計画

経済では、計画者たちが自由市場に圧倒されるのに時間がかかった。しかし、私が指摘しておきたいのは、操縦者(中央計画者)が君臨する間、平均的な人々の生活水準が徐々に落ちていったことだ。それは過去40年にわたって当てはまってきたし、西側社会でもそうであった(実質個人所得中央値で計測して)』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

マイナス金利は自由市場では決して存在し得ない?

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

『先ほどマイナス金利政策がさらに問題となる可能性を紹介した。それにあてはまるだろうが、絶対にあってはならないことがある。それは介入主義者の目的が、すべてを支配し、世界を全体主義に導くことにあるというものだ。全体主義とは、国家が公「私」にわたるすべてを規制する権力を制限なく認める政治制度である。全体主義体制を運営するのは通常、一部のかなり邪悪で腹黒い人々だ。裏で糸引くこうした悪党どもは、この制度を民主主義に受け入れさせるため、自分たちの代役となる“素敵な”操り人形(国家元首、中央銀行の人間、学者など)をいくつか用意する。全体主義体制にみられる特徴は、政治的抑圧(最初は非常に微細かつ微妙な方法で)、大々的な宣伝攻勢、個人崇拝主義、経済統制、規制、反対意見の検閲、監視社会だ。ここで少し考えてほしい。中央銀行の人間は、マイナス金利を導入したとき、本当に心から一般人の福祉について考えていたと思えるだろう

か。私の考えは、むしろマイナス金利が、裏で中央銀行の人間に進軍命令を出している“悪党”に【キャッシュレス社会】を導入する【完璧な口実】を与えることになる、というものだ。すべての支払いがプリペイドカードや携帯アプリなど電子的手段によってなされ、紙幣や硬貨が廃止されていく社会である』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』パンローリング発行)

筆者は昨年の10月22日のレポートで、『海外勢は、日本はジョージ・オーウェルの「1984年」というSF小説を想起させる不気味な方向に向かっているのではないか?」という感触を持っているらしい』と書いた。奇しくも、マーク・ファーバーが、今月のレポートでジョージ・オーウェルの「1984年」を引用している。これから我々は、統制経済と相場操縦の中で相場と対峙しなくてはならないようだ。

『では、先ほどの問題の答えを教えてやろう。つまりこうだ。我が党が権力を求めるのは、まさにそれが目的であるからだ。他人の幸福など関係ない。関係あるのは権力のみ、純然たる権力のみだ。では、純然たる権力とは何か。いまから教えてやろう。我々が過去の少数独裁と違うのは、自分たちが何をしているのか理解しているところにある。我々と似ているものもあるが、結局は臆病で偽善的だった。例えば、ナチスドイツもロシア共産党も方法論的には我々と非常に似通っている。だが、奴らには自分たちの動機を自覚するだけの勇気がなかった。自分たちが不本意かつ暫定的に権力を握ったふりをしたのだ。しかも、人々が自由かつ平等に暮らす楽園がすぐそこにあると装った。あるいは、本当にそう信じていたのかもしれない。しかし、我々は違う。権力を手放す気がある者に権力をつかめたためしはない。権力は手段ではない。目的なのだ。革命を守るために独裁を確立するのではない。独裁を確立するために革命を起こすのだ。迫害するために迫害をする。拷問するために拷問をする。権力をふるうために権力をつかむのだ。な、だんだん分かってきただろ―ジョージ・オーウェル『1984年』より』

『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ──標準偏差ボラティリティトレード』(石原順) が楽天ブックスで好評発売中です。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。