昨年からドラギマジックは効いていない

政治家は不景気の対策を中央銀行に丸投げしている。先日、リーマン危機後の危機対策の立役者であったBOEの元総裁のキング総裁(スタンレー・フィッシャー門下)が、「金融政策はもう効果がない」とBBCで語っていた。

3月10日にECBは主要政策金利であるリファイナンス金利を市場の予想外に0.05%から0.00%に引き下げた。上限金利の限界貸出金利も0.30%から0.25%に引き下げ、下限金利の中銀預金金利はマイナス0.30%からマイナス0.40%に引き下げた。資産買い入れ規模を月間600億ユーロから800億ユーロに拡大、買い入れ額は市場予想の700億ユーロを上回った。投資適格級の非金融機関発行の債券も買い入れ対象とするなど、市場予想の上限を超える満額回答であったといえよう。

しかし、ユーロ/ドル相場や株式市場が好感したのは発表直後だけで、ユーロ/ドル相場はユーロの下げ幅の三倍返しの上げを演じるなど、金融政策の限界を露呈する結果となった。筆者の独断と偏見では、ユーロ相場についてはもう答えが出ている。2015年5月以降、ドラギマジックは効いていないのである。

ユーロ/ドル(週足) 2015年5月以降、ドラギマジックは効いていない・・
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 買いシグナル点灯中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

プーチン大統領の原油相場予測

G20でようやく財政出動の話が出てきた。3月5日から開催されている中国の全人代で交通網整備に年2兆元(約34兆円)超を投じる方針が示された。低迷していた鉄鉱石価格も急上昇している。中国の財政出動で、世界経済に対する過度の悲観は後退し、鉄鉱石や原油価格はしばらく上げ基調を維持する可能性が出てきたといえよう。

OPEC加盟国サウジ、カタール、ベネズエラにロシアが加わって、2月16日にカタールの首都ドーハで増産凍結協議を開き、1月の生産量を今後の毎月の原油生産量の上限とする産油量凍結の協定を結んだ。逆にこれは増産協定ではないか?という見方も多かったが、原油市場はその後堅調な推移となっている。

次回の増産凍結協議は3月20日にモスクワで開かれることになっていたが、この予定は流れて、4月17日に再びドーハで開かれる予定である。世界の産油量のシェアで7割強にあたる約15か国の産油国が支持している会議であり、その行方が注目されている。

2月以降の原油協定を主導したのは、プーチン大統領の側近であるロシアの国営石油会社ロスネフチの経営者イゴール・セチンであると報道されている。市場参加者からは「原油は41~45ドルあたりまでは戻してもおかしくない」との声も多い。米国の金融政策いかんではあるが、現状のマーケットでは<ドル安・新興国株高・コモディティ高>というアンワインド相場の流れが出てきたようだ。しかし、ロシアのプーチン大統領は、「今年中に原油が1バレル50ドルを超えることはない」と発言しており、原油高にもおのずと限界があることは頭に入れておきたい。

3月15日の相場で原油先物の日足が21日ボリンジャーバンドの+1シグマラインを下回った。週足で買いトレンドが発生していないので筆者はポジションを手仕舞ってしまったが、昨日の相場では再び+1シグマラインを上回ってきている。40ドルを超えてくると、もう一段の上げを予想する声も多い。

原油先物(日足) 買いトレンド相場継続中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

原油先物(日足) 昨日の相場では再び+1シグマラインを上回ってきている
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

原油先物(日足) ロシアのプーチン大統領は、「今年中に原油が1バレル50ドルを超えることはない」と発言
上段:100日EMA(緑)・200日EMA(紫)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

原油先物(週足) 方向感の示唆はない
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

FOMCを受けて市場はドル安相場継続

16日のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。ジェフリー・ガンドラックに当たったことがないと揶揄されているドットチャートだが、FOMC参加者の政策金利見通しはやはり下方修正された。これをもって、市場は今回のFOMCをハト派的と受け取ったようだ。「グローバルな経済や金融市場の動向はリスクとなり続けている」と、米国経済の一人勝ちは難しいとの認識を示した。

ここ数週にわたりレポートで取り上げてきた豪ドル/ドルは堅調な相場展開を続けている。一方、さえないのはドル/円だ。ドル安相場のなかで、依然、2月16日高値114円86銭を上抜くことが出来ず、ダブルボトムパターンを形成できていない。26日標準偏差ボラティリティが低下中の典型的なフラット調整相場といってしまえばそれまでだが、この円高が日本株の足を引っ張っている。

筆者は思惑や予断を排してチャートに素直についていくだけだ。相場は行きたいところに行く。

豪ドル/ドル(日足) 200日EMAを上抜く
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 2月16日高値114円86銭を上抜くことが出来ない・・
上段:移動平均リボン=1~3か月の市場参加者のコスト(赤の帯)・26日標準偏差ボラティリティ(青)・フィボナッチのリトレースメント
下段:14日修正平均ADX(青)14日修正平均ADXR(茶)

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。