管理相場

先日、「アベノミクスの新三本の矢は効くか」というミーティングを運用者とする機会があった。しかし、『1億総活躍社会』を目指すというアベノミクスに対する海外の運用者の評価は散々なものであった。海外勢は、「日本はジョージ・オーウェルの『1984年』というSF小説を想起させる不気味な方向に向かっているのではないか?」という感触を持っているらしい。

IMFから10月に発表された「世界経済見通し」では、日本の2015年の成長率は7月の0.8%から0.6%に引き下げられている。新三本の矢という具体策乏しいスローガンが叫ばれるなかで、日本の市場は政府による監視によってPKOだけの市場になりつつある。海外勢の関心は「クロダは10月末にETFの買い入れ枠の増額を発表するのか?」という一点だけだ。

10月末買いの季節がやってきた

さて、いよいよ筆者が毎年行っている10月末買いの季節がやってきた。筆者は来週から11月の第1週にかけて、「10月末買い・4月末売り」のためのポジション構築に動く予定である。

10月21日の日経新聞電子版で前田昌孝編集委員 が『「株はハロウィーンに買え」の高い勝率』(2015/10/21 5:30[有料会員限定])というコラムを書かれている。「日本株は買いづらい状態が続きそうだが、それでも10月下旬は株式を買うタイミングだ。1950年1月から2015年9月までの日経平均の月別のリターンをもとに、株価が1年間でどのように推移するかを調べると、1~4月末に値上がりした後、10月末にかけてほぼ横ばいで推移し、11~12月末に再び値上がりするパターンが読み取れる。年間値上がり率11.40%のうち9.52%を10月末から翌年4月末までに稼ぐというのが過去65年間の平均像だ。6カ月間の投資をした場合のリターンは10月末スタートが9.46%と最も高く、4月末スタートが1.77%と最も低い。つまり、10月末のハロウィーンのころに「日経平均」を買い、4月末に売却するのが最も効率がいい。2000年以降の15年間を振り返っても、10月末買い4月末売りで失敗したのは00年、02年、07年、13年の4回だけだ。不透明感が晴れるまで待っていたら、買いの好機を失うかもしれない」(日経新聞電子版【マーケット反射鏡】2015/10/21『「株はハロウィーンに買え」の高い勝率』から抜粋)

株が下がりやすい月というのは「5月」・「9月」・「10月」である。そこが逆張りの買い場となるが、半年程度保有する場合、「5月の買い」は9月・10月の下げ相場に巻き込まれてしまう。したがって、運用成績の落ち込み(ドローダウン)を避けて投資するには「10月末買いの4月末の売り」が消去法で残ることになる。

株式相場やクロス円相場は急落時にボラティリティ(変動率)が上昇しやすく、上昇および横這い相場ではボラティリティ(変動率)は低下していく。株式投資と豪ドル/円投資に関してあまり好ましくない現象は、ボラティリティの上昇である。株式市場のボラティリティが上がりやすい月は「9月」・「10月」である。この9月~10月のリスク商品の押し目は半年間という中期投資の買い場となりやすい。

長年の統計的な優位性という意味では、「株式投資やクロス円投資の始まりは10月末」である。今年も「10月末買い・4月末売り」という投資をするのに(リスクを取るのに)ふさわしい黄金の半年間が今年も到来している。

日経平均(月足) 10月末買いの4月末売り(2000年~2014年)
赤は失敗の年

(出所:石原順)

NYダウ(月足) 10月末買いの4月末売り(2000年~2014年)
赤は失敗の年

(出所:石原順)

相場に絶対の法則はない。筆者も四半世紀にわたり相場と関わってきたが、投資の世界はつきつめてやりだすと、終わりの見えないことばかりなのである。それでも相場とは一体何かと言うと、それは「確率に賭けるゲーム」であろう。筆者が心がけていることは、勝つ確率の高い(分の良い)時期(季節)に投資を行うということである。

「10月末買い・4月末売り」という半年間の円売り運用は株式市場の最高の6カ月循環をクロス円相場に転用したものである。「10月末買い・4月末売り」のアノマリーは、これまでの筆者の運用に対して優位性をもたらしてくれた。9月辺りから何処へいっても「今年もうまくいきますかね?」と聞かれる。このセリフを筆者は毎年のように聞いているが、今年も成功するかどうかは筆者もわからない。誰も将来を正確に予測することは出来ないからである。

円相場の「10月末買いの4月末売り」

株式市場の黄金の180日ルールを、筆者は円相場の取引にも応用してきた。2000年以降はNYダウと連動性が高い豪ドル/円相場にも、「180日ルール」は有効であることが多い。最近の相場では豪ドル/円とNYダウは以前ほど連動していないが、2012年~2013年の相場でも豪ドル/円の「10月末買いの4月末売り」は有効であった。

しかし、2014年の豪ドル/円の「10月末買い4月末売り」売買は、ドル高相場の中でクロス円の動きがさえなかったことから、マイナスのパフォーマンスに終わっている。豪ドル/円は2014年10月末98円74銭から11月には102円83銭まで上昇したが、4月末は94円33銭となり、値幅で4円55銭、率にして4.6%のマイナスとなった。豪ドル/円は「8月」に安値を付けることが多いが、今年も8月に82円04銭まで下落しており、言葉は悪いが、4月末に売却していれば「投げ当り」となっている。

豪ドル/円(月足) 10月末買いの4月末売り(2000年~2014年)
赤は失敗の年

(出所:石原順)

過去25年間の相場で、豪ドル/円の「10月末買いの4月末売り」がワークしなかった年は1992年、1995年、2000年、2006年、2008年、2014年と6回ある。しかし、NYダウに比べると成功確率は落ちるが、豪ドル/円の「10月末買いの4月末売り」も概ね有効であると言えるだろう。NYダウ相場同様に、2008年のリーマンショック相場の壊滅的な打撃も回避できている。

その他のクロス円相場も2014年は豪ドル/円相場と同様の結果が出ており、クロス円相場は受難の年となったが、ドル/円はドル高相場の波に乗って良好なパフォーマンスとなった。

ユーロ/円(月足) 10月末買いの4月末売り(2000年~2014年
赤は失敗の年

(出所:石原順)

ドル/円(月足) 10月末買いの4月末売り(2000年~2014年)
赤は失敗の年

(出所:石原順)

「10月末買い・4月売り」という半年投資で最も重要なのは、「時間的・心理的(金銭的)な余裕の確保」である。大きなレバレッジを掛けて無理をしてはいけない。筆者も「10月末買い・4月末売り」の優位性に拘りすぎて、建玉管理(ポジションの持ちすぎ)で失敗したことが何回かある。余裕をもってスタートしなければ、結果として10月末より4月末の値段が高くなっても、その途中の相場急落によりマージンコールとなり、市場から退場させられることになりかねない。

相場は科学ではないので、データだけを過信してはいけない。上のチャートを見ればわかるように、「10月末買い・4月末売り」の成功確率は高いが、大きな損が出ている年もある。また、株は7年~10年に1回は急落や暴落が起きる可能性がある商品であり、クロス円もそれに巻き込まれる格好で急落している。急落から身を守るには、ストップ・ロス注文をあらかじめ置いておくしか方法はない。相場は攻めだけでは勝てない。守りはそれ以上に重要なのである。殊更に、そう書いておく。重要なのは「10月末買い・4月売り」売買を毎年継続することと、リスク管理(ストップ・ロス)を徹底することの2つである。

ADXと相場の転換ポイント

先週のレポートで取り上げたADX(平均方向性指数)による<相場の転換点の計測>に関する反響が大きかったので、現在の状況を以下に載せておく。なお、ADXには単純平均と指数平滑移動平均のバージョンがあるが、筆者の使っているのは、単純平均で計算されたADXである。

ドル/円(日足) 3日ADXの反転に注目
上段:3日単純平均ADX(赤)
下段:9日RSI40-70の売買シグナルと3日ADXの相場転換シグナル

(出所:石原順)

ドル/円(1時間足) 3時間ADXの反転に注目
ドル/円(1時間足)相場では<3時間ADX(単純平均バージョン)>が70以上や30以下になった時が相場転換の領域となっている
上段:3時間単純平均ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間エンベロープ±0.3%(青) ±0.6%(赤)・9時間RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場

(出所:石原順)

NYダウ(日足)3日単純平均ADXと相場の転換ポイント
NYダウは3日単純平均ADXが70以上や30以下になった時が相場転換の領域で、相場は間もなく反転する確率が高くなる
上段:3日単純平均ADX(赤)
下段:9日RSI40-70の売買シグナルと3日ADXの相場転換シグナル

(出所:石原順)

日経平均(日足)3日単純平均ADXと相場の転換ポイント
NYダウは3日単純平均ADXが70以上や30以下になった時が相場転換の領域で、相場は間もなく反転する確率が高くなる。
上段:3日単純平均ADX(赤)
下段:9日RSI40-70の売買シグナルと3日ADXの相場転換シグナル

(出所:石原順)

挑戦すれば失敗するかもしれない。しかし、成功するかもしれない

ブローカーによると、「今の市場は閑古鳥が鳴いている」のだという。米利上げをめぐっての不透明感は今後も継続しそうだ。だが、「不透明感が晴れるまで待っていたら、買いの好機を失うかもしれない」のである。相場を見ているだけでは仕方がない。リスクをとらなければリターンはないし、挑戦しなければ何も始まらないだろう。

「挑戦すれば失敗するかもしれない。しかし、成功するかもしれない。一度も挑戦しなければ、成功することは不可能になる。自分だけの道を進め。他者の用意した人生を生きるな。失敗なしでは学べない」(カーティス・フェイス)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。