世界の投資家にとって2015年は忘れ去りたい年?

リーマンショックの影響による景気回復に向けた歳出の増大が、世界中で財政赤字の拡大を招いた。政治家は財政再建をしなければならず、その結果、景気対策は中央銀行に押し付けられることになった。中央銀行はマーケットの言うことをずっと聞いてきた(いわゆる市場との対話)結果、株だけは上がってきたのがこれまでの7年間である。しかし、「市場から催促されても打つ手がなくなっている」のが現在の日本の状況であろう。

日経平均(月足) 「10月末買い・4月末売り」 現在の株安は毎年の循環

(出所:石原順)

NYダウ 「10月末買い・4月末売り」 現在の株安は毎年の循環

(出所:石原順)

ブルームバーグの報道によると、「世界の投資家にとって2015年は忘れ去りたい年になりつつある。リターンを見ると、株式や商品、為替ファンドはいずれもマイナスで、若干プラスの債券もインフレ率で打ち消されてしまう状況だ。世界株の指標であるMSCIオールカントリー世界指数(配当含む)は年初来で6.6%低下。7-9月(第3四半期)はこの4年で最大の下落率となった。株価上昇と過去に例がない大規模な金融緩和の好循環が3年続いた後、中国やブラジルなど新興国経済の減速と企業利益の落ち込みで市場は現在冷え込みつつある。アナリストは今年の世界経済成長率見通しを年初時点の3.5%から3%に下方修正。トレーダーが年内の米利上げ見通しを後退させる中、市場の混乱で世界の中銀に刺激策延長を求める圧力は増している」という。

こうした状況の中、日本株に対する照会が増えている。ある欧州系のファンド運用者は、「現在、日本株をオーバーウエイトにしていて、過去数十年間は見向きもしなかった日本株を大量に買っている」という。「なぜ、そんなに買っているのだ?」と聞くと、「日本株は日銀のETF買い(PKO)とバイバック(自社株買い)で上がると思った」らしい。海外の運用者が聞いてくるのは、「黒田日銀は10月に追加の緩和をするのか?」の一点である。

日銀の追加緩和といっても、買う国債がない状況で、これ以上国債の買い入れを増やしても仕方がない。<ツイスト・オペ>も噂されているが、ゼロとゼロの交換をしても意味がないだろう。付利の撤廃もなさそうだ。こんなことは海外投資家も百も承知している。焦点は玉が尽きてきた日銀のETF買い入れ枠の増額の有無であろう。

日銀のETF買い入れ目標は、年間3兆円となっているが、現在の買い入れペースでいくと10月いっぱいで大半を消化してしまう。株式相場が0.4~0.5%下がれば日銀のETF買いを当てにしている日本の株式市場にとって、日本株の下支え要因である日銀の買い入れがなくなることは、売りを誘発する要因となろう。そのため、日銀が10月末にETFの買い入れ枠の増額(1~2兆円程度)に動くのではないかという思惑が市場にはある。

昨年10月末の日銀の追加緩和は2015年10月に消費税を10%にするためのものだったが、消費増税は2017年4月まで1年延期され、追加緩和が無駄うちとなってしまったという苦い経験が日銀(財務省)にはある。次回の消費増税の実現に向けた株高、あるいは来夏の参議院選挙に向けた株高を演出するなら、追加緩和は来春がベストの時期であろう。原油安の影響で統計上の物価指数は下がっているが、対前年比で発表される物価指数やインフレ率は来年は上がってくる可能性が高い。

10月末に日銀が追加緩和を発表するとしたらETFの買い入れ枠の増額だが、露骨な株価PKO策を行うための大義名分が必要になる。筆者が日銀の立場なら、日経平均株価の17000円~18000円、ドル/円の120円は居心地の良い水準であり、追加緩和をしたいと思うようなレベルではない。となると、日銀の追加緩和の有無は海外の株式市場の動向次第となる可能性がある。

もう、打つ手がない状況で、日銀としては追加緩和を温存したいと思われる。しかし、何かの理由で海外の株式市場にパニック色が強まった場合は、パニックを大義名分に追加緩和を実施するだろう。いずれにせよ、10月末に日銀が追加緩和を見送った場合は、その反動に気を付ける必要があるだろう。

相場の転換点の計測-相場転換の予兆のシグナルは?

現在の人為的な中央銀行相場は、株式インデックスも通貨もトレンドを発見するのが大変である。トレンドが発生しない相場なので、いわゆる順張りのブレイクアウト手法の運用者は非常に苦労している。

タートル・ブレイク1(20日高値抜け・10日安値抜け)の売買シグナル
日経平均 2015年相場 

(出所:石原順)

タートル・ブレイク1(20日高値抜け・10日安値抜け)の売買シグナル
日経平均 2010年~2015年相場 順張りは機能していない

(出所:石原順)

順張りが儲からないとなると、逆張りが有効な取引手法として浮上する。以下の話は筆者が関係するファンドで使われている運用手法で、そのファンドのアルゴリズム取引の根幹にかかわるのですべてを話すことはできないが、相場の転換点を模索する手法の一つである。

筆者は「相場の転機のシグナル」としてADXというテクニカル指標を使っている。ADX(Average Directional Movement Index)は Wilderによって開発されたトレンド系の指標で、「トレンドの強さ」を測定するものだ。テクニカル指標DMIのDI+,DI-を使ってDXを計算し、そのX日間のアベレージ(移動平均)を取ったものがADXである。

ここで問題なのは、ADXといってもいろいろなバージョンがあって、移動平均に単純移動平均(SMA)を取るものと指数平滑移動平均(EMA)を取るものがある。筆者は単純移動平均で計算しているが、どちらが良いという話ではなく、計算式が違うのである。同じ3日ADXでも、数値は業者やチャートソフトによって異なるので、注意していただきたい。

結論をいうと、日経平均は3日ADXが70以上や30以下になった時が相場転換の領域で、相場は間もなく反転する確率が高くなる。最近のドル/円相場では3日ADXが60以上や40以下になった時が相場転換の領域となっている。この手法は今まで公開してこなかったが、読者の皆さんの短期から中期のトレードの参考になるのではないかと思われる。

日経平均(日足)2015年4月~2015年10月
上段:3日単純平均ADX(赤)
下段:9日RSI40-70の売買シグナル

上段の3日ADX(赤)が70以上あるいは30以下になると相場が転換しやすい

(出所:石原順)

日経平均(日足)2014年10月~2015年10月
上段:3日単純平均ADX(赤)
下段:9日RSI40-70の売買シグナル

上段の3日ADX(赤)が70以上あるいは30以下になると相場が転換しやすい

(出所:石原順)

ドル/円(日足)2015年3月~2015年10月
上段:3日単純平均ADX(赤)
下段:9日RSI40-70の売買シグナル
上段の3日単純平均ADX(赤)が60以上あるいは40以下になると相場が転換しやすい

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。