グローバルマクロ戦略のファンドの運用成績が好調
ロング・ショート、アービトラージ、マーケット・タイミング、リラティブ・バリュー、イベント・ドリブン、マーケット・ニュートラルなどファンドの運用スタイルは様々だが、ファンド全体の運用パフォーマンスがさえないなかで、グローバルマクロ戦略のファンドの運用成績が好調だ。
グローバルマクロとは、株式、債券、通貨、コモディティなど世界のあらゆる資産に投資機会を見出す投資戦略である。グローバルマクロファンドの代表といえば、レイ・ダリオのブリッジウォーター・アソシエーツだが、スイスフラン・ショックなどのブラック・スワン相場にも影響を受けず、ブリッジウォーターの運用成績は非常に安定している。
世界最大のグローバルマクロファンド<ブリッジウォーター・アソシエーツ>のパフォーマンス
一方で、今年も株式ファンドのパフォーマンスは、ほとんどがインデックスに負けている。現在、多くのファンドは現金比率を2008年のリーマンショック以来の水準まで上げている。ギリシャや中国の問題から下落リスクを回避するファンドが増えているためだ。筆者の知り合いの運用者も、北半球の人間は11月までの相場下落のヘッジを行い、夏休みモードに入っている。
株式投資の「答え」はもう出ている
何年も言い続けているが、株式投資の「答え」はもう出ているのである。チャールズ・エリスの『敗者のゲーム』やバートン・マルキールの『ウォール街のランダムウォーク』が指摘しているように、アクティブ運用の投信やファンドの3分の2はインデックス運用に負けているのである。(これは日本だけのことではなく世界的な傾向で、時期によって多少の上下はあっても平均するとそうなる)
ブローカーの話では、2014年の全ヘッジファンドの平均リターンは3.78%に過ぎない。ゼロ金利環境を考えると、3.78%でも立派だが、高い運用報酬を考えると割が合わない。今年も米国株のアクティブ運用ファンドは、S&P500のパフォーマンスを大きく下回っているという。
相場でギャンブルのような臨場感やスリルを味わいたいというのでなく、長期にわたって事業として収益をあげたいのであれば、最も運用コストが安い株価指数先物や株式インデックス連動型のETFを買うべきだろう。
あとは、株式インデックスをいつ買っていつ売るかの問題である。その答えももう出ていて、「株は10月末に買って、翌年の4月末に売却する」のが優位性の高い取引手法である。「10月末買い・4月末売り」という半年投資が相場に有効かどうかは様々な見方があるが、50年以上の母集団に対して「10月末から4月末までの半年間のパフォーマンス」が「4月末から10月末までの半年間のパフォーマンス」を上回っていれば有効である。過去のデータを見る限り、「10月末買い・4月末売り」というパターンの優位性は現在も継続している。
日経平均の年間変動パターンと6カ月投資のリターン
(1945年1月から2015年1月までのNYダウの月末値をもとに日経新聞前田昌孝編集委員作成)
下の日経平均のチャートをみてほしい。日経平均は昨年10月末から4月まで上げた後、5月以降は上がっていると言ってもレンジ相場に過ぎない。そして、夏枯れの相場の時期である7月以降は乱高下相場になっている。アベノミクスという中央銀行が値付けを行っている人工的な相場環境でも、「10月末買い・4月末売り」というパターンは生きているのである。
日経平均(日足) 10月末から4月末のゾーン(緑)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)・2%以上の相場変動ライン(赤)
日経平均(日足) 夏相場の特徴は乱高下?
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)・2%以上の相場変動ライン(赤)
役人中心の日経平均とドル/円相場、下は買うけど上は買わない
「日本株は上海株と消去法的に連動している。円相場は日本株と連動している」という単純なロジックが海外のファンド運用者の共通認識である。消去法的な連動とは、上海株や日経平均は外部要因で大きく下げることはあるが、悪材料がないとPKOで上げていくという構造である。
役人が主導する日本や中国のPKO相場では、「下は買うけど上は買わない」という明確な特徴がある。下のドル/円のチャートをみれば、大きく上がるのは日銀の追加緩和があった時だけだ。現在、筆者の周辺のファンド運用者からは、「こんなに日本株が高いのに日銀が追加緩和なんかするわけないよ」という声しか聞こえてこない。
ドル/円(日足) 大きく上がるのは日銀の追加緩和があった時だけ・・
移動平均リボン=1~3か月の市場参加者のコスト(赤の帯)
125円超の黒田ラインも意識されるなか、今のドル/円相場は高いところを買う人はいないということである。IMMの投機筋のポジションをみると偏りがないので、123円台の押し目を買うところがあるようだが、それも来週のFOMCにむけたイベントドリブンファンドの思惑的なポジションのようだ。
シカゴIMM 投機筋の円のポジション(CFTC 7月17日発表)
押し目買いに有効な指標は?
役人が主導するPKO相場の答えは「押し目買い」である。押し目買い売買に有効な指標はエンベロープ(移動平均線乖離)である。1時間足なら13時間エンベロープの-0.3%乖離および-0.6%乖離、日足なら13日エンベロープの-1%乖離および-2%乖離が押し目買いのポイントとされる。
ドル/円(1時間) 13時間エンベロープ
上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間エンベロープ±1%(青)・9時間RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場
ドル/円(日足) 13日エンベロープ 9日RSI40以下は買い場?
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日エンベロープ±1%(青) ±2%(赤)・9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場
ボリンジャーバンド、エンベロープと並んで、相場の動く範囲を計測する指標として運用者の間で重宝されているのが3日間のATRバンドだ。昨今のドル/円相場は、3日ATRバンドの±1ATRのバンドから逸脱することはほとんどない。
ドル/円(日足) 3日ATRバンド 日足相場の輪郭
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:3日ATRバンド ±1ATRバンド(赤)
ATR(アベレージトゥルーレンジ)はTR(窓開けを含めた1日の最大値幅)の平均で、TR(真の値幅)は、以下の3つの数字のうちの最大値である。
- 当日高値-前日終値
- 前日終値-当日安値
- 当日高値-当日安値
リチャード・デニスの作った投資集団タートルズは、ATRを使った「ユニット」(投資資金の1%を1日でリスクにさらす取引量)という考え方で建玉管理をしている。1ユニットあたりの取引量は、ポジションを取った値段からATRの幅だけ逆に動いたら資金の1%を失う取引量になっている。ストップロス注文は2ATRで、2ATR動いて総資産の2%を失う設定になっている。
相場が1日にどのくらい動いているのか?厳密に言えば、窓開けを含めた1日の最大値幅を知らないとリスクコントロールはうまく機能しないのである。
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