2013年の債券急落(金利上昇)局面に似ている

ドイツを始め国債市場の流動性が低下している。流動性の危機は、日欧米のQEの副作用として起きている。QEは流動性を提供しているにもかかわらず、実際には市場の流動性が低下しているというのはおかしな話だ。しかし、当局が結果を作る人為的な相場の中で市場参加者は激減し、国債の保有者は「日・欧のQEがいつ終わるのか」と「米国がいつ利上げするのか」を懸念している。

ドイツ10年国債金利(日足)
ドラギECB総裁の「ボラティリティの高い局面に市場は順応する必要がある」という発言で市場の不安心理の高まり金利上昇

(出所:石原順)

ドイツDAX指数(日足)
ドラギECB総裁の金利に介入しないスタンスを受けて6月からDAX指数が下落基調に

(出所:石原順)

4月23日のレポート『おそらくヘッジファンドは人為的な価格形成中に資金回収をはじめるだろう』というレポートを書いたが、世界最大級の債券ファンドのPIMCOが、5月に保有していた米国債の3分の2を売却したことが、ブルームバーグの記事「Pimco Dumps Two-Thirds of Its Treasuries Before June Selloff」で報道されている。

米10年国債金利(日足)
PIMCOが5月に保有していた米国債の3分の2を売却

(出所:石原順)

NYダウ(日足) 金利が上がると株は割高になる
NY証券取引所の証拠金債務は史上最高のレベルに到達し、5月のM&A総額は2007年5月を超え史上最高額を記録している

(出所:石原順)

日本10年国債金利(日足) 官製相場でも米国債と連動

(出所:石原順)

日経平均(日足) 日銀のETF買いで凪相場が続いているが・・

(出所:石原順)

「PIMCOが大量に米国債を売却しても米国の金利はさほど上昇していないのだから大丈夫だ。ジャンク債もまだ崩壊していない」という強気の声も聞かれるが、米国ではミューチュアルファンドから資金が抜けて、危険な投資対象のジャンク債ではなく投資適格債から売られているという。

ブルームバーグの『債券市場大量殺りくの予感』という6月4日の報道では、「米国の10年国債利回りが今後2週間で2.6%まで上昇すれば、最上級格付け社債からテーパータントラムに匹敵する資金流出が発生する危険がありそうだ」、「米国の投資適格債の価格は6月に入ってわずか2日で1.1%下落した。米連邦準備制度が債券購入の縮小に動くとの思惑から2カ月で5%急落した2013年の状況を思い起こさせるペースだ。バンク・オブ・アメリカ のストラテジストは、痛みが今後さらに強まると予想している」というアナリストの見方が紹介されている。

FRBが久しくなかった利上げを検討する状況下で、債券相場のボラティリティが世界的に拡大方向に動いている。世界的な国債相場の急落(利回り上昇)で金融機関やファンドの中には大きな損失を抱えているところが多く、クオンツ系の裁定取引やハイレバレッジのポジションは損切りを余儀なくされていることを、5月14日のレポート『欧州の金利上昇で金融機関やファンドが大損失』で紹介したが、6月3日にドラギ総裁が記者会見で「ボラティリティの高い局面に市場は順応する必要がある」と発言してからは、市場の不安心理の高まりから再度金利が上昇し、さらに損失が拡大しているのが現状だ。

株が下がれば債券が買われるという逆相関も、QEのやり過ぎで債券市場がレベル感を失ってしまい、債券売り→株売りという悪循環が発生している。債券はもう安全な投資先ではなくなってしまった。債券と株の分散投資が意味を失っており、運用者はどこにも逃げ場がなくなっている。

債券市場は中央銀行の方針を反映する鏡のような市場だ。これまでの株式市場はゼロを基準にバブルが進行してきたが、金利が上がれば株は割高になり買えない。為替レートは2国間の国債の交換レートであり、金利の呪縛からは逃れられない市場だ。現在のすべてのバブルを異常低金利が支えている以上、金利の動きからは目が離せない。

イエレンのリスクシナリオの筆頭は長期停滞

イエレンFRB議長は2014年12月17日の記者会見の時点で、「(サマーズのいう)長期停滞が存在するとの見方はFOMCにはない」と発言していた。ところが、2015年3月27日の講演では豹変し、サマーズの「長期停滞論」をリスクシナリオの筆頭にあげている。これを聞いて筆者は米国の利上げは後退(ビハインド・ザ・カーブ)するという感触を持った。

昨日のFOMCでは、2015 年の米経済見通しが下方修正され、ドットチャート(政策金利見通し)が下方シフトした。この結果を受けて、FOMC後はドルが全面的に売られる結果となっている。FOMCはイエレンが優柔不断なのか、MITコンセンサスでバブルを温存しているのかわからないような、かなりハト派的な内容だった。

FOMCメンバー17人によるドットチャート(政策金利見通し)

(出所:FRB)

フェデラルファンド(FF)金利先物

(出所:石原順)

「金融政策はホテルカリフォルニア化するリスクがあった。いつでもチェックアウトできるが決してホテルを去ることはできないという、イーグルスのヒット曲だ」という発言で有名なタカ派のフィッシャー前ダラス連銀総裁(3月19日に退任)が、「1937年の過ち」は繰り返したくないという超ハト派的発言して市場関係者を驚かせた。「1937年の過ち」とは、大恐慌後の早すぎた金融引き締めとその後の緊縮財政で1937年~1938年にかけて通称「ルーズベルト不況」が到来したことを指す。

米国の雇用は改善し、株などの資産価格が上昇しながら、利上げができないとは一体どういうことだろうか?おそらく、市場が期待しているほど米景気は回復していないのであろう。サマーズの長期停滞仮説が正しいなら、米国経済の潜在成長率は低いままで、景気は回復しないはずである。

英国の銀行HSBCが最大5万人削減のリストラに動くという。「事業も売却し年間経費の約50億ドル(約6200億円)削減を目指す」と報道されているが、HSBCのリストラで先進国の長期停滞観測がより強化されているようだ。オリンピックまではバブルすると言われている日本から、HSBC、シティバンク、GEキャピタルなどが撤退していくのはなぜだろう・・。

英・米の投資家は、とにかく逃げ足がはやい。リスクを避ける方法はFIFO(First In, First Out)だという明確な投資哲学を持っている。一方、最後までバブル相場に付き合って大きな損をするのが日・独の投資家である。まじめで相場の最終局面になって大量買いに動くのが日本人とドイツ人の特徴だ。

金融危機への対応として起こった中央銀行バブルは、7年に及ぶ負債(借金経済)のバブルであり、現在の資産価格の上昇はゼロ金利と負債を原動力とする興奮状態に過ぎない。強気相場の終了時期を当てるのは困難だが、結果を作る人為的な価格形成が崩壊するパターンを、そろそろイメージしておく必要があるだろう。

ドル/円相場は122円~125円のレンジ相場

ドル/円相場は26日標準偏差ボラティリティがピークアウトした後のレンジ調整相場となっている。目先は122円~125円のレンジ相場となりそうである。

筆者は相変わらず、1時間足のエンベロープ売買を行っている。1時間足のエンベロープ売買に向いているのは、ドル/円、ポンド/ドル、ユーロ/ドルで、特に最近のポンド/ドル相場の動きは通貨ファンドの運用者を狂喜させている。

米国の利上げ観測が後ずれしているなかで相場の方向性がつかみにくくなっているが、エンベロープ売買は相場の動く範囲を示唆するツールとして有効に機能している。

ドル/円(1時間足)
13時間エンベロープ ±0.3%バンド(黄)・±0.6%バンド(緑)

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

ポンド/ドル(1時間足)
13時間エンベロープ ±0.3%バンド(黄)・±0.6%バンド(緑)

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

ユーロ/ドル(1時間足)
13時間エンベロープ ±0.3%バンド(黄)・±0.6%バンド(緑)

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

日足・1時間足のエンベロープの売買手法については、この月末に出版する『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ──標準偏差ボラティリティトレード』(石原順) で、楽天FXのマーケットスピードFXを使って解説している。

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。