為替の歴史は政治の歴史でもある。米国の通貨政策というのはご都合主義という面も多いが、それでも通貨の長期トレンドを決める最大の材料は、<米国の通貨政策の変更>である。通貨の歴史をみると、「基軸通貨国である米国の通貨政策でしか動かない」というのが通り相場だ。

「ドル高転換のポイントとその時期-あるヘッジファンドの分析」というレポートを2013年7月4日に書いた。ここで紹介したあるグローバルマクロファンドの米国通貨政策の見通しは、「オバマ政権の2期目はドル高政策に転換した可能性がある」というものであった。そして今、この観測沿ったドル高相場が到来している。

ドルは米金利が各国金利に比べて相対的に高い時期に買われる

筆者は長きにわたって<通貨を動かすファクターとその相関関係>について検証してきた。その結果、「米国の貿易赤字」も「雇用統計」も「介入」も通貨市場の動きを説明することはできなかった。長期的な検証を行うと、これらは通貨の変動と大きな相関関係はないのである。最終的に通貨の動きを説明できるファクターは1つしかなかった。それは<米国の金利>である。

筆者の通貨研究でわかったことは、

  • ドルの動きを説明できるのは米国の金利のみである
  • ドルは米金利が各国金利に比べて相対的に高い時期に買われる

という2点である。つまり、米国と他国との相対的な金利差の水準の結果としてドル高やドル安が起こっているのである。

現在のドル高相場は、「ドルは米金利が各国金利に比べて相対的に高い時期に買われる」というドル高の典型的なパターンであろう。世界景気の停滞感は強いが米景気は比較的堅調であり、原油安の定着で米国を除くほとんどの国が金融緩和ラッシュとなっている。米金利が相対的に高いというドル高の条件が整っているので、ドルは独歩高となっている。

イタリア(左)とスペイン(右)の10年国債金利

(出所:石原順)

日本(左)と米国(右)の10年国債金利

(出所:石原順)

話を先のグローバルマクロファンドの<米国通貨政策の見通し>に戻そう。このグローバルマクロファンドの2013年5月時点の分析は、「オバマ政権の2期目はドル高政策に転換した可能性がある」というものであった。当時、「FRBが量的緩和の縮小の観測気球を上げだした2013年5月頃から、2期目のオバマ政権はドル高政策に転換した可能性がある」「高金利で米国(ドル)への資金流入を誘い、ドル高傾向を促すことで資金流入による株高と債券高を狙うという2期目のクリントン政権の政策を、2期目のオバマ政権もコピーしている可能性がある」と述べていたが、現在、この観測に沿ったドル高相場が到来している。

クリントン政権とオバマ政権のドルインデックス先物相場(月足)

1期目はドル安政策・2期目はドル高政策(1期目=水色・2期目=緑色のゾーン)
(*ドルインデックス(US Doller Index)は、米ドルの総合的な価値を示す指標)

(出所:石原順)

ドルインデックス先物(月足)  120カ月(10年)移動平均線を上抜き、長期三角保合を上離れ

(出所:石原順)

米国は「強いドル」の旗は降ろさないものの、選挙要因からの口先牽制には注意が必要か?

日銀のQE効果はすでに薄れ、<追加緩和期待>という円売り材料は後退している。ドル/円は穏やかな円安を継続しているものの、円は全体としてみると円高基調となっている。現在は円売り相場ではなく、ユーロを中心としたドル買い相場に転換している。

米国の財政赤字と経常赤字は他国からのファイナンスに依存している。これがドル基軸通貨体制を支えている。QE3をやめた米国が恐れているのは、ドル安・米国債安(米国債金利上昇)である。膨大なポートフォリオを抱えるFRBにとって、米国債安となれば米国債の評価が落ちて損が出る。したがって、出口を模索する米国が穏やかなドル高を模索するのは当然と言えよう。

「バブルがないと完全雇用が達成できない」というバブル温存派のイエレンFRB議長にとっても、緩やかなペースであればドル高は都合がいい。また、ドル高期待が高まれば、米国への資本流入が強まり、それは米国株や米国債のサポートにもなる。米国がドル高に文句を言わないのは、以上のような背景からだろう。

ドルの上昇ピッチが速いが、それでも米国が「強いドル」を放棄することはないと思われる。ただし、米国の利上げが年央に来るようだと、現在のドル高がさらに暴走する可能性が出てくる。「強すぎるドル」はグローバルマネーのドル回帰を加速し、新興国をはじめ、世界中の金融市場に亀裂をもたらすかもしれない。

米国のドル高転換を2013年に予測していたグローバルマクロファンドの幹部は、「米国では来年の大統領選挙に向けて、夏以降、特に予備選のある年末には<強いドル>に対して注文がつく可能性が高まる。ドル高による米企業業績の伸び悩みが起こってきているからだ。米国内のTPP反対派はドル高反対派と重なっているが、そうした選挙事情が絡むと、為替相場もややこしくなってきそうだ。米国のシンクタンクのレポートを読むと、「日本や欧州の為替操作で米国の雇用が失われている」との指摘が多い。今後日本からの対米輸出が増えて<通商問題>が浮上すれば、いつも割を食う(通貨高=円高になる)のは日本であることを我々は知っている」と述べている。となると、ドル高基調相場に乗っていくには、やはり年前半が安全ということになろう。

ランダム(無秩序)ではない相場

年央以降のドル相場にやや不安はあるものの、「偉大なるドメスティック・カントリー」と呼ばれる米国が現在のドル高に対して「直ちに文句を言うことはない」という観測から、ユーロ主導のドル独歩高が展開されている。ドルインデックスの100ポイントやユーロ/ドルのパリティ(1ユーロ=1ドル)をターゲットにドル買いを推進しているファンドは多い。

日本の投資家は為替市場をみる場合、どうしても円相場中心の発想になってしまうが、現在、投機筋が結集しているのはユーロ/ドル相場である。ランダム(無秩序)であるとされている金融市場で、ランダムではない相場が展開されている。トレンドフォローの投資家にとってはたまらない相場である。

逆に言えば、現在のドル高トレンド相場がピークアウトしない限りは、クロス円相場の上値は重いままだ。これが、現在の相場のポイントである。

ドルインデックス(日足) 買いシグナル点灯中

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) ユーロ売りシグナル点灯中

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)

下段;21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足) 豪ドル売りシグナル点灯中

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足) ドル買いシグナル点灯中

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。