先週、「逆張りポイントまで下がったドル/円とNYダウ、今年の相場は逆張り手法が有効か?」というレポートを書いたが、この逆張りの買いポイントはうまく機能した。

NYダウ円(日足) 逆張りポイントである18日移動平均線-3%乖離水準から反発

上段:18日エンベロープ±3%(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ドル/円は<逆張りポイント>である13日エンベロープ-2%水準から切り返し、118円台に浮上している。13日移動平均線の抵抗を上抜けたので、21日移動平均線や移動平均リボンの上限である119円が次の抵抗となる。

ドル/円(日足) 逆張りポイント13日エンベロープ-2%水準から反転上昇  

上段:13日エンベロープ±2%(青)
下段:下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 移動平均リボン(1~3か月の市場参加者のコスト)の上限は119円03銭

上段:13日エンベロープ±2%(赤)・移動平均リボン(緑)
下段:14日RSI

(出所:石原順)

ドル/円の週足を観ると、いったん強いドル買いトレンドは終了し、調整相場に入った可能性が濃厚となっている。このシナリオが否定されるにはここから早い時期に21週ボリンジャーバンド+1シグマを上抜き、119円超の相場に復帰する必要があるだろう。日足はとりあえず21日移動平均線を上回るまでは円高方面への警戒は怠れない。大きくは120円と115円のどちらかをブレイクしない限り、レンジ調整が続く可能性が高い相場である。

高いところを買っても儲からない相場なので、今後もエンベロープやボリンジャーバンドの下限を確認しながらの押し目買いに徹したい。クロス円相場の方は1月からドル/円の上値が重くなっているため、全般的に円高バイアスと強い相場となっている。円売りという意味では、円高バイアスのより強いクロス円相場よりドル/円相場のほうがくみしやすい。

ドル/円(週足) 21週ボリンジャーバンド+1シグマを割り込む 標準偏差の動きはワイドなレンジ調整相場を示唆?

上段:26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 次のトレンドは120円~115円のブレイク待ち?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/円(左)とポンド/円(右)の日足 大幅下落もいったん小休止?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

原油先物(日足) 原油安で資源通貨売りに 強い原油売りトレンドはいったん終了し調整相場に移行したと思われるが、なべ底を形成しながらの弱い戻りしかない

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

直近の利下げ通貨カナダ/円(左)とトルコリラ/円(右)の日足 利下げと原油安でカナダ売り

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/円(左)とNZドル/円(右)の日足 昨日はカナダ安がオセアニア通貨に飛び火

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

スイスフランショックの舞台裏

スイス中銀は2011年9月にスイスフラン高を防ぐため、ユーロに対する為替レートの上限を1ユーロ=1.20スイスフランに設定した。スイスフラン高を防止し1.20の水準を防ぐため、外国為替市場での無制限介入(自国通貨売りは外貨調達の必要がないため無制限介入が可能)、つまり、スイスフラン売りユーロ買いを実施してきた。

ところが、先週1月15日、スイス国立銀行は「スイスフランの上昇防止のために設定した、対ユーロ相場の上限を撤廃する」と発表した。これに驚いたのがスイスキャリートレードを行っていた投機筋である。不意を突かれた投資家のパニックとマージンコールによる強制決済でスイススフランはユーロに対して40%も急騰した。前代未聞の大変動相場である。

シカゴIMM スイスのポジション(CFTC発表 1月13日時点)

投機筋のスイス売り26444枚が溜まっていた

ユーロ/スイス(日足)  人工的な自作自演の金融政策や為替政策(介入)には限度がある

ドル/スイス(日足) 前代未聞の大変動

50日ボリンジャーバンド±11シグマ

(出所:石原順)

スイス中銀が対ユーロ相場の上限を撤廃した理由として、1月22日のECB理事会や1月25日のギリシャの総選挙(ギリシャ危機)があげられている。ECBがQEに動けばスイス中銀が1ユーロ=1.20スイスフランに押さえ込むことは厳しくなることや、ギリシャの総選挙でスイスフランへの買い圧力が強まることが想定されるからだ。また、GDPの7割というユーロ資産のP/Lがユーロ安で劣化しているので、これ以上のユーロ買い介入に対して反対の声も強くなっていた。

しかし、あるグローバルマクロのファンドから送られてきたレポートを読むと、スイス中銀の今回の<はしご外し>の理由は、スイスから金が抜けている(マネーが逃げている)ことにあるのだという。

『スイスが世界の富裕層のお金を集めていた理由は、1934年に制定されたスイス銀行法の「顧客の秘密厳守」にある。この法律が脱税の温床になっているのではないかと言われていたが、2012年以降はマネーロンダリングに関する規制が厳しくなりスイスからマネーが逃げているという。また、ドルに対してスイスフランが大幅に下がっていることから、スイスフランの安全通貨としての魅力も薄れている。ロレックスの時計やネスレのコーヒーがいくら売れたところでたかが知れている。スイスは金融で食っている国である。スイス中銀は「ユーロとスイスフランが米ドルに対し大幅に下落し、国内産業への脅威も後退したため、上限を設定する大義は薄れた」とコメントしたが、マネーロンダリングの規制強化で存在感が薄れつつあるスイスの金融機関にとってスイス安はありがたくない現象なのだろう』と、レポートには書かれている。

今回のスイス中銀の措置は、JPモルガン・リサーチが「スイス国立銀行(SNB)が管理された方法で上限を撤廃しなかったことが最も意外感のあることで、ユーロ/スイスフランは下限が完全になくなったために、自由に変動している。欧州中央銀行(ECB)の政策との関連性をすべてなくすというのはSNBにとって最も分かりやすい選択肢だが、ユーロ/スイスフランが適正水準を下振れするという最大のリスクを伴うものだ」(チューリヒ 15日 ロイター)とコメントしている。

JPモルガン・リサーチが指摘するように、ユーロ/スイスをのペッグを管理された方法で撤廃する選択肢もあったはずだ。この場合、投機筋に向かわれてスイス買いの流れは変えられないだろうが、管理された方法で上限を撤廃すれば、3か月から半年かけて20%~30%くらいのスイスフラン高が進んだのではないか?少なくとも、今回のような数分から数時間で大変動するという金融テロ(マージンコールの惨劇)にはならなかっただろう。

ある米系ファンドの運用者は、『新興国ならともかく、スイスの行動は先進国の中銀としてはあり得ない措置だ。だが、今回のスイス中銀の<はしご外し>は、20年くらい前のブラジルなどの中銀がよくやっていた手口である。時間をかけてスイス高にすると、儲けの半分以上はファンドにとられてしまう。今回はしごを外したのは、スイスの金融機関を救済する為だろう。スイスの銀行はリーマンショックやマネーロンダリング規制の後遺症に苦しんでいる。今回のスイス高でスイスの金融機関のアセットは相当改善したはずだ。スイスフランショックの損失ばかりが報道されているが、相場は誰かが損をした分、誰かが儲けている。スイスの銀行は儲けているはずだ』と語っている。

今回のスイスフランパニックの教訓は、人工的な自作自演の金融政策や為替政策には限度があるということだ。スイスフランの取引で損をしたファンドからは、「ジョーダン・スイス国立銀行総裁の今回の措置は金融テロだ」との怒りの声が多く聞かれるが、リーマンショック以降にわかったことは、中央銀行の政策というのは<なんでもあり>である。そして、相場に<ありえないなんてありえない>ということである。

ドラギバブルがやってくる?

MIT学派(バブル必要論)の人脈からいって、マリオ・ドラギがQEに動くのは時間の問題であったが、いよいよ今晩のECB理事会でその計画が明らかになりそうだ。

「欧州中央銀行のドラギ総裁は、最大で1兆1000億ユーロ(約150兆円)規模となる量的緩和(QE)計画を提案した。デフレを防ぎ、ユーロ圏経済を回復させる決意だ。総裁を含むECB理事会は月500億ユーロずつの資産購入を2016年末まで続けることを提案したと、ユーロ圏の中銀当局者2人が明らかにした。ドラギ総裁は域内最大の経済規模を誇るドイツの反対があっても米国型のQE実施を促し、ECBをリスクを負って積極的に行動する中銀に変えようとしている。ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁らは、各国政府の構造改革意欲をそぐとしてQEは必要ないと主張してきた。政策委では、資産購入によって生じるリスクをユーロ圏全体で共有するのか、19の各国中銀がそれぞれ背負うのかが討議される見込みだ。ドラギ総裁はECBのバランスシートを2012年序盤の3兆ユーロ前後に膨らませようとしている。現在は約2兆2000億ユーロだが、向こう数週間で2000億ユーロ相当の長期融資が返済期限を迎えるため、その分だけ縮小する可能性がある。当局者の1人によると、新たな購入対象は国債が中心となる公算が大きいものの、社債など他の資産についても討議される。購入が3月1日より前に始まることはないという」(21日 ブルームバーグ)と報道されているように、ドラギはドイツの反対を押し切ってQEに踏み切ると思われる。

もう細かいことはどうでもよい。今のドイツのDAXの上昇をみれば答えが出ている。しばらくはドラギのQEが金融市場のカンフル剤となりそうだ。もっとも、ECBのQEで株が上がっても、欧州の景気はさほど良くならないだろう。そこは、日本と同じである。

独DAX指数(日足) QEによる不景気の株高に?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

官製相場とか自作自演相場と言われている日本の株式市場だが、下の日経平均とNYダウの相場の波形はほとんど同じである。海外の株のファンドマネージャーから「アベノミクスとはいったい何か?株が他の国より上がるということではないのか?」「黒田は株が上げたいのではないのか?それともQQEの目的は財政ファイナンスで、株価のPKOはおまけなのか?」といった類の質問が筆者のところに来ているが、この件に関しては長くなるので別の機会に言及したい。

日経平均(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

NYダウ(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。