金融戦争とボルカー・ルールで原油バブルは崩壊
OPEC(石油輸出国機構)と米シェールオイル企業との「我慢比べ」が続いている原油相場が下げ止まらない。このシェールオイル企業潰しの動きの中で大きなダメージを受けているのはロシア経済であろう。
原油先物(日足) ついに50ドル割れ・・
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
Eog Resources(日足)
Eog Resourcesはシェールオイルの優良企業で採算コストは40ドルと言われている
ロシアRTS指数(日足) 原油安を受けてロシアRTS指数は半値以下に・・
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
原油下落の背景には世界的な需要の低迷があるものの、今回の原油の暴落は「サウジの体力勝負によるシェールオイル企業や新興産油国潰し」がマーケットテーマになっている。これに米国のロシア・イラン包囲網などの政治的な思惑も重なり、<原油を使った金融戦争>の様相を呈している。サウジは原油価格が20ドルになっても減産しないと発言しており、原油相場は底なし沼のようになっている。
原油安は日本や米国経済にとって良いことである。それでも年初から相場が荒れているのは、オイルマネーのファンド解約が出ていることと、昨年末にロシアのクルディン元財務相が「来年ロシアはデフォルトするかもしれない」と発言したことで、ロシアが意図的に2015年分の1200億ドルの対外債務をデフォルトする(債務の利払いや償還を一時停止する)かもしれないという観測が浮上しているからだ。
<売り>を得意とするファンドの運用者は、「国民には2年間辛抱しろと言っているが、このままプーチンが座して死を待つとは思えない。プーチンはロシア包囲網への報復として軍事行動を起こすか、あるいは国や民間の対外債務をデフォルトさせることで、欧州や米国を道ずれに金融危機を起こす可能性がある。ロシアの民間の対外債務が焦げ付いて一番困るのは欧州(ドイツ)だろう」と語っている。このまま原油安・ロシアルーブル安・ロシア国債金利上昇が止まらなければ、そういった観測も無視できなくなってくる。
ドル/ロシアルーブル(日足) ロシアルーブルはいったん下げ止まったが、再下落相場に
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ロシア10年国債金利(日足) 通貨防衛の利上げはもう限界か・・
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
筆者は原油の下落は40ドル近辺まで下がればいったん終了するのではないかとみているが、NY原油先物の投機筋の買いポジションが相変わらず高水準なのが気になっている。「銀行が証券、デリバティブ、商品先物・オプションの短期的な自己勘定取引を行うことは禁止される」というボルカー・ルールの影響で商品先物市場は参加者が少なくなったが、トレンドフォロー系の投機筋の商いが原油先物市場に集中しているため、買い建て玉は減っているものの歴史的にみると高水準だ。
NY原油のポジション(2014/12/30時点 CFTC発表)
買い建て玉は減っているものの歴史的にみると高水準
また、原油先物は1998年の10ドル近辺から2008年には150ドル近辺まで上昇したが、この間の上昇は約15倍である。他の物価水準や賃金の上昇と比較すると、異常な上がり方となっている。現在の50ドル近辺の値段でも1998年と比較すると約5倍の上昇である。1973年の第1次オイルショックでも5ドル、1979年の第2次オイルショックでも10ドルまでしか上昇しなかったことを考えれば、現在の原油価格が異常なのかもしれない。いずれによ、原油価格が落ち着くまでは金融市場もボラタイルな展開となりそうだ。
原油先物(月足) 他の物価水準や賃金の上昇と比較すると、2000年以降の上がり方が異常なのか・・
投機筋は動きの悪いドル/円からユーロ/ドルに乗り換え
ギリシャは昨年12月29日に次期大統領を選出する3回目の投票を行ったが、与党候補の就任が否決された。これにより議会は解散となり、総選挙が1月25日に行われることになった。野党急進左派連合(SYRIZA)は緊縮財政と引き換えに金融支援を確保してきたこれまでの方針を「破棄する」としており、仮に野党急進左派連合(SYRIZA)が政権を取った場合、欧州連合(EU)との摩擦は避けられないことから、欧州債務危機が再燃するのではないかという思惑が拡がっている。
ギリシャの総選挙が実施される1月25日まではユーロ売りで攻めたいという投機筋がユーロ売りを進め、ユーロ/ドルは1月7日に1.1801まで下落した。また、ユーロ圏12月消費者物価指数が2009年10月以来のマイナスに低下しており、1月22日のECB理事会での追加緩和期待が高まっている。とりあえず1月22日のECB理事会の結果が相場の流れを決めそうだ。
ユーロ/ドル(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ユーロ/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
2015年 FOMC・ECB・日銀 金融政策会合開催スケジュール
ユーロを売る材料には事欠かないことから、投機筋は動きの悪いドル/円からトレンドの出ているユーロ/ドルやユーロクロス相場に乗り替えている。ドル/円は10月末の黒田バズーカ2以降、円売りポジションが積み上がったが目先は目新しい材料がない。そのため、高値掴みのポジションの一部が巻き戻されている。
ドル/円は相変わらず次のトレンド待ちの状況で、現在は相場の方向性を示唆していない。12月8日高値の121円83銭を上抜かない限り、しばらくレンジ相場が続きそうだ。明日の米雇用統計がその足掛かりとなるか注目したい。
シカゴIMM 円のポジション(2014/12/30時点 CFTC発表)
円売りポジションが積み上がっている
ドル/円(日足) 次のトレンド待ち
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ドル/円 2015年相場の予想レンジ
米雇用統計の推移
明日発表される12月の米雇用統計の予想中央値は、非農業部門雇用者数は+24万人、失業率は5.7%
日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。
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