<原油暴落→ジャンク債の急落→株急落>という負のスパイラル
12月5日以降の相場は、<原油暴落→ジャンク債の急落→株急落>という負のスパイラルで動いてきた。基本的に原油価格の急落は日本や米国の経済にとってプラスの要因である。話がややこしくなったのは、エネルギー関連のジャンク債がジャンク債市場の2割弱(2,972億ドル)を占めているからだ。ジャンク債バブルが崩壊する可能性があるため米国株が軟調となり、市場はリスクオフ相場となった。
原油先物(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
iシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:出来高
Eog Resources(日足)
Eog Resourcesはシェールオイルの優良企業で採算コストは40ドルと言われている
筆者は1987年のブランクマンデー以降の全ての金融危機を体験しているが、相場人生の中で1998年の危機相場ほど恐ろしい思いをしたことはない。1998年の相場ではドル/円が147円から108円まで急落するなど、ブラックスワン相場となった。アジア通貨危機から始まった金融危機は飛び火してロシア危機となり、ヘッジファンドLTCMが破綻するなどまさに負の連鎖が起こったのである。
最近のロシアルーブルやロシア株の下落を見て、こうした1998年の再来を懸念する声が高まっている。当時と状況は違って金融危機に対するセーフティネットは整備されているが、一方でリーマン危機から6年間バブルが続いており、当時と比べ物にならないくらいバブルの規模も大きくなっている。ロシア包囲網を観ても分かるように、金融戦争によるグローバリーゼーションの縮小が始まっていることを懸念する声も多くなっている。
外為市場では<原油暴落→ジャンク債の急落→株急落>という負のスパイラルのなかで、資源・新興国通貨の急落が起きた。資源・新興国通貨は原油と株の動き次第の相場となっている。また、ロシア危機のあおりを受けて、インド、インドネシア、マレーシアが自国通貨買い介入に動いている。
豪ドル/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
カナダドル/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
南アランド/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
トルコリラ/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ロシア中央銀行がロシアルーブル安阻止の利上げ
こうした相場の流れを止めたのはロシア中銀の緊急利上げだ。ロシア中銀はなんと12月16日の早朝という時間に、主要政策金利を10.5%から17%に引き上げた。原油価格急落とルーブル下落の対する緊急措置である。
ドル/ロシアルーブル
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ロシア10年国債金利(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ロシアRTS指数(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
ルーブル安はドル建ての原油輸出収入のルーブル換算が膨らむため、ロシアの財政には悪いことではない。ブルームバーグの報道によると、1~11月のロシアの財政収支は1兆2,700億ルーブルの黒字と、黒字額は前年同期の6,000億ルーブル、12年の7,890億ルーブルを上回っているという。
筆者は黒田日銀のバズーカ2は事実上の通貨切り下げ政策と財政ファイナンスであり、円安傾向は変わることはないと思っている。だが、そこは相場であり、常に行き過ぎとその反省を繰り返すことになるだろう。現在はその反省局面だ。
ルーブル安容認はロシア政府には好都合だが、ルーブル建てで生活しているロシア国民はインフレで苦境に陥る。さすがに国民生活(インフレ)が大変ということで、ロシア中央銀行がロシアルーブル安阻止の利上げに動いた。これでロシアの混乱がいったん落ち着き、買い戻されているのが今のマーケットである。
ドル/円は方向感がなく次のトレンド待ちの状況
先週のレポートで、『さて、ここからの焦点は現在の調整円高相場がどこでとまるかだが、ブローカーや運用者の意見を集約すると、「117円あたりではないか」という声が多い。「10月は4円89銭の円高相場があったが、今回の円高も概ね5円幅の117円近辺となるのではないか?」「10月の下げ幅-4.44%を今回の相場に当てはめると、116円43銭となる」など、市場関係屋の多くは116円~117円レベルを想定しているようだ。「10月安値から12月高値の上げ幅の38.2%押しの115円半ばまでの押しを想定している」という意見もあるが、いずれにせよ、調整後はドル高に復帰するという見方が大勢である』と書いた。
ドル/円は117円では止まらず、結局38.2%押しの115円半ばまで下がった。12月16日安値の115円56銭は38.2%押しの水準であるとともに、ドル/円日足相場の下げの限界水準と言われる13日移動平均線-3%水準でもある。相場はいったんここで下げ止まり、現在は戻りを試す動きとなっている。一方で、ドル/円日足の標準偏差ボラティリティは調整が進んできたが何の方向性も示唆していない。ルーブルの急落に歯止めがかかり株も上がったが、ドル/円は次のトレンド待ちの状況である。
ドル/円(日足)とフィボナッチのリトレースメント
ドル/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
FOMCは<バブル温存+金融抑圧>
昨日のFOMCは市場予想の「patient(忍耐強く)」と「considerable time(相当の期間)」が併記されるという玉虫色の声明となった。市場はこれを都合よく解釈し、とりあえず株は大幅高となった。イエレンが出てくると、<バブル温存+金融抑圧>を背景にこういう結果となる。
NYダウ(日足)18日エンベロープ(移動平均乖離)±3%(赤)水準でいったん下げ止まり
NYダウ(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
来年の半ば以降には利上げがあるだろう。しかし、それは金融政策の正常化に向けた<アリバイ作り>に過ぎない。政策(短期)金利は当局のコントロール下にあり、上げてだめなら、下げることもできる。来年、政策金利を上げてもFRBは「金利が大幅にあがる」との観測を持たせないようにするだろう。
米10年国債金利(日足)
結局、イエレンFRB議長は「長期金利の超低金利維持」を重視しているだけなのかもしれない。ジャンク債バブルへの警鐘は鳴らしているが、米国株がバブル相場になることについては関心が薄いのだろう。それは、長期金利が大幅に上がらない限り、資産インフレを容認することを意味している。
日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。
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