米金利が上がらなくてもドルが上がっている理由は?

今年も過去3年と同じくヘッジファンドの運用成績はさえなかったと言われている。今年の運用成績が低迷している理由は、金利の動向を読み間違えたことが大きい。金利の動向を読み間違えたということは、景気の動向を読み間違えたというふうに置き換えることが出来るが、世界経済全体でみても2014年は貧富の差が拡大しただけの不景気な年だったと言えるだろう。

日経平均(日足) 強引な官製相場で2007年高値18300円が視野に・・

(出所:石原順)

「米国も日本もドイツも株は上がっているではないか?何が不景気だ?」という声が聞こえてきそうだが、それは金融当局のバブル必要論から<不景気の株高>が起きているだけである。以下の10年国債の金利のチャートを見てほしい。我々は既にこの異常に慣れ切ってしまっているが、凡そこの世のものとは思えない金利が並んでいる。これだけ金利が低ければ、運用難の中で株も上がるだろう。

ドイツ(左)と日本(右)の10年国債金利(日足)

ドイツも日本化している?

(出所:石原順)

スペイン(左)とイタリア(右)の10年国債金利(日足)

イタリアでも2%割れ

(出所:石原順)

米10年国債金利(日足)

比較感の問題だが、米国債の2%台の金利は魅力的に映る

(出所:石原順)

投機的とも思えるスペイン国債やイタリアの国債の金利低下が進むのをみて、「誰が買っているのだ?」という疑問の声が多いが、それは現地の銀行がリスクフリー(自国国債を自国通貨建て買う場合、リスクウエイトはゼロ)の国債買っているのである。金融規制が厳しくなる中、欧州の銀行は国債を買わざるを得ないのである。日本の銀行が失われた20年のなかで国債ばかり買っていたのと同じ現象が起きているのだ。さらに、来年はECBのQEが予定されており、異常低金利は長期化しそうだ。

そんな状況の中で、米10年国債の2%台の金利は魅力的に映る。米金利が上がらなくてもドルが上がっているのは、他国に比べて相対的にドルの金利が高いからである。米国の為替政策の結論は、「米国は好景気の時にはドル高を志向し、不景気の時にはドル安を志向する」ということだ。また、ドルが買われる局面は、「他国と比較して相対的に米金利の高いときだけ」である。

ドルインデックス先物(月足)

ドルインデックスは三角保合を上放れドル高に

(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

アベノミクスも金融抑圧政策の別名に過ぎない

先進国経済は日本化(ジャパナイゼーション)している可能性がある。人口減少や技術革新の頻度の低下等により貯蓄過剰となっており、低インフレ局面が長期化している。したがって、現在のFRBはゼロ金利政策の解除を焦る必要がないばかりでなく、ローレンス・サマーズは「バブルがないと経済はマイナスの自然利子率に陥ってしまう」と述べている。こうした長期停滞の考え方はMITコンセンサスと呼ばれ、現在の中央銀行の政策のメインストリームを形成している。これを理解しないと、今後も相場を読み間違えてしまうだろう。現在の金融システムを維持するためにはバブルが欠かせないのである。

さらに、リーマン危機を受けてどの国も債務残高が危険ラインに到達している。これを簡単に解消するにはハイパーインフレしかないが、そんなことはできないので金融抑圧政策が行われている。政府の借金圧縮(いわゆる財政健全化)のための「増税」や「歳出削減」は、国民やマスコミから文句が出やすい。一方で、「金融抑圧」は目に見えない政策なので、実際は大変な不利益を被っている国民に十分理解されない。

2%のインフレが10年も続けば、政府の債務は実質20%軽減される。だが、多くの国民はそれを認識しづらい。いわゆる「茹でカエル」状態だ。多くの借金を抱える国が、「インフレ率より長期金利を下げたい」という<金融抑圧の誘惑>にかられるのは当然の帰結なのかもしれない。

債務残高の国際比較(対GDP比)

(出所:財務省)

もう何度も申し上げているが、日本や米国などの先進国では「金融抑圧」によって国民の富が政府に移転していく。早い話が、国民が貧乏(実質資産が目減り)になる一方で、政府は債務を実質的に圧縮していくのである。金利が物価上昇率より低いマイナス金利の状況になると、個人は預貯金で運用していても、実質の資産は目減りしていく。

アベノミクスも金融抑圧政策の別名に過ぎない。いずれにせよ、我々が生活防衛のためにすべきことは、株式や外貨(外債)などリスク商品に資産を分散することであろう。

良い円安の限界はどこか?

ドル円は120円近辺まで上昇してきた。世論調査で「与党が300議席を獲得し圧勝する」という報道が出ており、選挙結果を気にしていたファンド勢の一部が前倒しで円売りに動いているようだ。本日のECB理事会や明日の米雇用統計の結果によっては120円を超えて円安が暴走する可能性もある。もう2007年6月高値124円が視野に入っているという声も多いが、ドル/円相場は良い円安の限界域に入っていることにも注意が必要だろう。125円を超えて円安が暴走するとしたら、それは悪い円安である。120円の大台達成となれば、ファンドから利益確定のドル売りが出る可能性もある。

焦点は120円を超えて円安が暴走するのか否かだが、筆者が運用者にヒアリングしたところ、「しっぽまで取るかどうかだが60カ月移動平均線の乖離水準を考えると、120円レベルではとりあえず半分は利食っておく」という慎重な意見が多かった。一方で、「選挙で自民党が大勝ちすれば当局からの円安牽制も125円くらいまで出てこないのではないか?来年前半にECBがQEに動く可能性があり、ドル高はまだまだ続く」という強気の意見も少なくない。

ドル/円(月足)と60カ月移動平均線乖離(エンベロープ)

10%乖離(緑)・20%乖離(青)・30%乖離(紫)
目先の相場は147円からの61.8%戻しまでか?それとも2007年高値124円までの全値戻しか・・

(出所:石原順)

日銀のETF買いをあてにした日本株買い、石油メジャーとOPECが画策する<シェール業者潰し>や<ロシア・イラン包囲網>による急激な原油安、中国の利下げと官製IPOバブルなどに便乗し、運用パフォーマンスが悪かったファンドも、11月以降は円売り・日本株買い・原油売りなどで大きな収益を上げ、鼻息が荒くなっている。

原油先物(日足) 石油メジャーとOPECが画策する<シェール業者潰し>で暴落中

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

上海総合指数(日足) 官製IPOバブル相場

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

バブル相場にロジックはない。ドル/円相場は「イケイケドンドン!」というノリと勢いの相場になりつつある。相場にオーバーシュート(行き過ぎ)はつきものだが、そこはスイング売買で対処し、筆者は「ドル/円の120円超の相場では、中期的なポジションのとりあえず半分は利食っておこう」と思っている。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。