低ボラ・バブル相場
ここ数年、ヘッジファンド全体の運用収益は悪化している。ブルームバーグが集計したデータによれば、マクロファンド全般の2013年の運用成績はマイナス2.2%である。長期にわたって高収益を上げ続けてきたファンドの運用者からも、「この2~3年の相場はリスクだけ高くて、リスクに見合うリターンがない」との嘆きが聞こえてくる。
そして今年も非常に変動率の低い「低ボラ・バブル相場」がここまで続いている。下のチャートは米国の株価指数S&P500の日足と投資家に人気のあるMACDの売買シグナルである。このシグナルに従って売買をしても<骨折り損のくたびれ儲け>的な成果しか得られていない。日足ベースの順張り的なスウィング売買がなかなかうまくいかないのである。
S&P500(日足)とMACDの売買シグナル
ジリ高のうちは米国株も安心?
S&P500はずっと上げ続けているのに、なぜ順張りが儲からないのか不思議に思われるかもしれないが、チャートを見るとS&P500の相場が上に走り出したのは5月下旬からである。年初から4月末まではプラス2.8%しか上昇していない横ばいレンジ相場だった。昨日の高値更新でプラス6.8%まで上昇してきたが、米国株の運用者の間では「相場が走り出すと逆に怖い。ジリジリ上がっていく方が安心できる」と警戒する声も出ている。急騰の後には急落がつきものだからである。
S&P500(日足) 年初からの上昇率とトレードチャネル
運用の要諦はボラティリティ(価格変動率)管理
2014年の運用で成績が安定しているファンドは、徹底したボラティリティ(価格変動率)管理を行っているところが多い。ボラティリティをみるにはATR(アベレージトゥルーレンジ=最大値幅の平均値)か、オプションボラティリティを使うのが一般的だ。
NYダウの日足チャートを見てみよう。下のチャートの緑のゾーンがボラティリティの低下している局面である。ボラティリティがピークアウトして(天井を付けて)低下していくこのゾーンでの「買い」は、比較的リスクを軽減できると思われる。
上げ相場はジリジリとしか上がらないが、下げ相場はあっという間に下げることが多い。よって、価格変動の測定は実践の売買で有効なツールとなり得るのである。
<本当に強い買いトレンド相場>ではATRやボラティリティが上がりながら株が上げることもあるが、ファンドのなかには上昇6年目に入った米国株の秋相場に対する警戒もあり、「ボラティリティの高いところは買いたくない」との慎重な見方をしているところが多い。
NYダウ(日足) ボラティリティの低下期間中は安定した「買い」相場となりやすい?
18日移動平均線の+3%乖離局面は周期的な天井圏か?
(「相場の変動率」を解析する指標(計算式)が「ATR(アベレージトゥルーレンジ)」で、相場の変動が大きい傾向なのか小さい傾向なのかを分析する場合に有効)
上段:8日ATR(赤)・20日
中段:日足と18日移動平均線3%乖離
下段:オプションボラティリティ(緑)
S&P500(日足) 大きな買い場はストキャスティクスのダブルループ発生場面?
上段:1日ATR(緑)・8日ATR(赤)・20日ATR(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±2シグマ
下段:ストキャスティクス5.3.3
日本株はPLO(Price Lifting Operation)で長期抵抗線を再び試す展開
史上最高値を更新してきたS&P500の上昇を受けて、日経平均も連動性を強めてきた。先週のレポートで「年金勘定の株買い」について述べたが、ファンド勢は「これはPKO(Price Keeping Operation=株価維持操作)ではなく、 PLO(Price Lifting Operation=価格吊り上げ操作)だ」 との認識を持っている。
その動きに便乗した海外投資家の日本株買いが4週連続続いているが、彼らは成長戦略を評価しているのではなく、日本株が上がっているから買っているだけである。あとは空売りの買戻しだ。
15000円台に入っても年金勘定の株買い(PLO)が続いているが、PLOが効くのは米国株が上がっているからである。PLOで日本株だけが上がることはないので、日本株に投資している投資家は、やはり米国株の動向に注意を払うべきであろう。
日経平均(月足)1990年代からの長期抵抗線(赤) 昨年12月以来の長期抵抗線超えが視野に・・
日本株投資主体別売買動向 5月から信託(年金勘定)が買いの主役に
米国株上昇6年目のハードル
日本も米国も自作自演の株高・通貨安・金利安(金融抑制策)作戦が展開されているが、過去の相場では、<米国株上昇期間は概ね5年>となっている。現在の米国株は既に5年3か月間上げ続け、今年は<上昇6年目という高いハードル>に直面している。
米S&P500株価指数月足の対数(LOG)チャート 上昇6年目のハードルは高い?秋以降の相場には注意が必要?
(対数チャートとは、縦の目盛りに値動きの絶対値ではなく値動きの比率をとったチャート)
株や通貨のボラティリティが上昇すると、保有量は一定でもそれにあわせてポートフォリオのリスク量は上昇していく。ファンドや年金などは上がったリスク量を減らすため、株や通貨を売却する動きに出る。バブル相場に便乗しながらも、今後の相場はボラティリティの上昇に注意すべき時間帯に入っている。
通貨ファンドが今後有望と考えている通貨ペアは何か?
インフレ率をみると、ユーロ圏は消費者物価の下落傾向が続いているが、米・英は消費者物価が2%近辺、日本は3%を超えてきている。消費者物価が2%を超えてくると、さすがにインフレ懸念から追加の緩和はやりにくい。現在、追加緩和の余地があるのは欧州である。
通貨を専門に運用するファンドによれば、このうち、米・日はまだ中央銀行のポートフォリオの拡大が続いており、欧州はこれからポートフォリオの拡大に動く。となると、メジャーカレンシーとしては、消去法でポンドが買われやすいのだという。
消費者物価の推移(対前年比)
中央銀行の総資産の変化率
米・日はまだ中央銀行のポートフォリオの拡大中、一方で欧州はこれからポートフォリオの拡大に動く
6月13日にはカーニー英中銀総裁が、「利上げは市場予想より早期に実現する可能性がある」と発言しており、「今年の10月から来年の1月までに英国は利上げに動く」という観測が強化されている。
筆者はポンドという通貨があまり好きではないが、通貨ファンドの一部はポンド買いに熱心なようだ。もちろん、彼らもポンドのようなトリッキーな動きをする通貨の高いところは買わない。ひたすら、急落時の押し目買いに徹しているようだ。
ポンド/ドル(日足)と底値買いのシグナル
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3
ポンド/円(日足)と底値買いのシグナル
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3
このようなストキャスティクスを使った底値買い手法は、ポンドと同じく利上げサイクルとなっているNZドルや相対的に金利の高い豪ドルなどの円キャリー・トレードでも利用されているようだ。
相場に絶対はない。また、長期にわたって必ず儲かるといったテクニカル指標も存在しない。特にカウンタートレード(逆張り)はストップロスが必須の売買手法である。ストキャスティクスやRSIなどの「買われすぎ・売られすぎ」指標は、トレンドが発生すると壊滅的な損失を被ることがある。これらの指標はあくまで、「そろそろ買ってもいいかな?」という「目安」として使うべきであろう。
NZドル/円(日足)と底値買いのシグナル
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3
豪ドル/円(日足)と底値買いのシグナル
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3
ドル/円は短期も長期も三角保合(もちあい)
ドル/円は現在、稀にみる低ボラ相場が続いている。ファンド運用者の多くが「政府や中央銀行が相場の主役となった副作用が低ボラ相場だ」と語っているが、「短期」も「長期」も三角保合(もちあい)相場となっている。
さすがの投機筋もドル/円の値動きの乏しさには辟易しているらしく、「とりあえず日足の三角保合をブレイクしたら電話してください」と、様子見に徹している。米長期金利に方向感が出てくるまで、いましばらく低ボラ相場が続きそうだ。
ドル/円(日足)と三角保合相場
ドル/円(月足)と三角保合相場
米10年国債金利(日足) 金融抑制政策で金利は上がりにくい?
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド
日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。
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