マーケットを見るにあたっては、視点を変えないいわば「ブレることのない」見方で関係する要素を評価しようとする「分析の軸」を持つ外に、時には突拍子もないと思われる仮説について、将来の可能性を想像してみることが必要だ。

先週末、ザラバ中のことではあったが日経平均が15年ぶりに2万円台に乗ったことでもあり、今回は、これが比較的短期間に2倍の4万円になる可能性について考えてみたい。

株価2万円は通過点か

安倍政権としては、長らく待ち望んだ2万円なのだろう。甘利内閣府特命大臣(経済財政政策)は「小さなバブルは制御可能だ。ミニバブル程度であれば、歓迎するくらいの気持ちで対応を打っていきたい」と閣議後の記者会見で、少々奇妙な本音を晒してしまった。

政府としても「少しバブルっぽい」と思っているのだろう。しかし、同時に、「少々バブルの段階では、これを潰しはしない」という方針を示唆した。

日経平均2万円で東証一部の平均PER(日本経済新聞今期予想ベース)は約18.8倍になる。これは長期的にはやや高いけれども、「ミニバブル」だとするならば、まだ慌てて売る水準ではない。

投資家としては、「ミニバブルを認識しながら、20倍を超えてくる2万1千円台の水準位から少し株式のポジションを落とし始める」くらいをメインシナリオとして意識して置いていいと、筆者は引き続き考えている。

2012年の総選挙前から始まった「アベノミクス相場」は、幾つかの終わり方が考えられるが、バブルの一巡の形で終わるのが、経済循環のパターンとしては最も自然だ。

もっとも、既に見えている範囲でも、今年の後半に予想される米国の金融引き締めへの転換によって世界の投資資金が「リスク・オフ」に向かう可能性がある。米国の金融引き締めによるドル高が日本の株価にプラスをもたらす可能性はあるが、世界的資金の流れの変化が勝る可能性が大きいように思える。

また、現在のドル・円で120円程度の為替レートは日本企業の競争力にとって十分有利であり、また、概ねサブプライム問題前の水準だ。ここから大幅な円安を手段として使うことは、国際的な摩擦の点で懸念が出て来るし、総合的なプラス効果もこれまで円安ほどではなくなる可能性がある。

米国の金融引き締めの悪影響をクリア出来たとしても、2017年4月に消費税率10%への引き上げ実施を決めた「不景気の予約」の壁もある。

投資家としては、気持ち良くバブルを楽しませて貰えない可能性も考えておくべきだ。もっとも、その場合には、金融緩和がだらだらと長引くことになるから、相場が終わりきるのではなく、じれったいながらも長続きすると考えることが出来る。

暴騰も暴落もないという相場は想像しにくいが、経済と市場とが最高に上手く手名付けられたとして、2%のインフレ率が達成されて、2016年度か2017年度に、日本経済がデフレ脱却を果たしたとしよう。日銀が徐々に出口に向かい長期金利が上昇する一方、実質成長率は労働人口減の影響を受けて、そう高まらない公算が大きい。その場合の日本株の適正PERは益利回りを7%とみて14.3倍程度となるのではないか。その頃までにどのくらい企業利益が増えているのかが問題だが、こうなると、株価の上昇余地は限定的だ。

これらは、筆者が日頃考えていることであり、「株価はしばらくバブルっぽい上昇を見せる可能性があるが、天井はそう高くあるまい」といったストーリーをメインシナリオとして考えている。

日経平均4万円のシナリオを考える

だが、上記のメインシナリオに同意するとしても、投資家は「別の可能性」を考えてみる必要がある。

もともと株価は頼りないものだ。アベノミクスで軽く倍になったように、2万円の株価は、4万円にも、1万円にもなり得ると思わねばならない。

例えば、仮に自分がワルい証券会社にでも勤めていて、「日経平均4万円!」のストーリーをお煽る投資家向けのレポートを書けと社長に命令されたらどうするか、と想像してみるような思考訓練が必要だ。

読者なら、何を言ってみるだろうか?

先日、NewsPicksでニュースを見ていたら、株価4万円の材料に使えそうな記事を見つけた。GEが金融部門を売却し、最大900億ドルの株主還元を行うというロイター発のニュースだ。

そうだ、「株主還元バブル」という手があった!

あの自信家で貪欲だったジャック・ウェルチ氏が選んだ後任CEOであるジェフ・イメルト氏が決めたことだ。GEの株主にとっていいことなのだろうし、同時に経営者も得をする話なのだろう。ニュースの末尾には、GEの株価は11%近く値を上げたとある。

もともとGEにとって金融はコア・ビジネスではないし、近年、政府の規制が厳しくなって不自由にもなってきた。加えて、現状では、金融ビジネスが高く売れそうだ。このビジネスの売却代金を自社株買いや配当の形で株主に渡すなら、ROEを高めることが出来るし、EPS(一株利益)も多分高めることが出来よう。

自己資本が薄くなる分、社債保有者や銀行から見たGEのリスクは高まるが、株価は上昇するだろう。

ここで、経営陣の評価と報酬をEPS又はROEに連動させること、或いは経営陣が自社株のストック・オプションを持つ事を想像してみよう。

経営者は、上手いビジネスを考え実行しなくても経営的・財務的なテクニックだけで株主にいい顔をしながら、自分の報酬を高めることができる。リアルなビジネスが改善しなくても、株価は上がる。うまい話ではないか。

金融業界にとってはどうか。GEのような会社がビジネスを売り買いしてくれると、証券会社はアドバイザーとしての手数料や仲介手数料を稼ぐことが出来る。MBOで非上場化したり、再上場で株式を売り出したりといった、株式市場への出入りも頻繁に出てくるだろう。

投資家に売り買いさせて儲けるセカンダリー・マーケットの手数料稼ぎとは別の、企業を相手にした発行市場でのビジネスがあれこれ発生するから、金融・証券業界としても悪い話ではない。

「社員の長」から「株主の利益代表」に

日本でもこの手は使えるのではないか。

先ず、経営者のインセンティブを変えるのと共に、経営者が株主寄りの経営をした場合に褒められるような環境を作ってやるといい。経営者の評価をEPS(一株利益)やROEに連動するのと共に、サラリーマン社長にも大いにストック・オプションを持たせるといい。

いままで「社長」といっても、しょせん「社員の長」だった、日本の上場企業の社長連中を、横並びでバランスを取りつつ競争もさせながら、米国のCEO連中並みの金銭感覚とお手盛りの世界に連れて行けばいいのだ。

多額の報酬を得るために必要なのは、やる気と欲望であって、能力や優越性ではないので、理屈上は何ら難しいことではない。

目下「企業のガバナンス改革」を看板に掲げる一連の動きは、その状況に向けた環境整備だと思うと納得しやすい。たとえば、社外取締役は、ROEのような分かりやすい評価指標が使いやすいし、株主還元も応援してくれるだろう。社長に対する厳しい監視役になるよりは、お手盛りの応援団になることの方が、人間関係を考えると現実的ではないか。

日本の社長さん達の意識の変化に少々時間が掛かるかも知れないが、自分達に好都合な変化なので、横並びのバランスさえ取って進めるならば、実現は難しくあるまい。既に上場企業の経営者の報酬は、デフレ下で従業員の平均賃金が下落ないし伸び悩む中で顕著な上昇傾向を辿ってきていた。彼らには既に十分な金銭欲がある。

加えて、横並びの競争意識に火が着くと、後は話が簡単だ。豊富なキャッシュ性の資産を抱えた日本の企業間に自社株買い競争が起こるだろう。

このストーリーが軌道に乗れば、「日経平均4万円」は大それた目標などではなく、単なる通過点に過ぎないのではないだろうか。

たまには、こうした空想をしてみよう。読者は、この空想にリアリティをお感じになっただろうか。筆者は、「数年内にあり得るシナリオの一つ」くらいの実現性を感じている。

もちろん、「日経平均1万円割れ」のシナリオも同時に考えてみることが大切だ。