利用者激減中の財形年金に利用の妙味あり

今回、「なんとなく投資」をしている人にあえて、財形年金を勧めてみます。

もし読者のあなたが会社員であったなら、社内で財形貯蓄をやっているか確認をしてみましょう。財形貯蓄は簡単にいえば、給与から直接引かれる積立預金のことです。

積立預貯金は確実に資産を積み増していく資産形成の王道です。しかし銀行で積立定期預金などを設定した場合、引き落とし日に残高不足で積立が滞るような可能性もあります。給与振込口座に入金される前の段階で積立が行われるのが会社員にとってはもっとも確実であり、財形制度は会社員の資産形成制度として長年利用されてきました。

財形貯蓄制度のメリットは、確実な天引きに加え税制優遇があることで、住宅購入目的の住宅財形、年金受取目的の年金財形(財形年金)については利息に課税されません。

しかし、その税制優遇が住宅財形や年金財形に限られていること(目的を問わない積立である一般財形は利息に通常どおり課税される)、定期預金の金利があまりにも低金利であることなどから、その利用率は激減中です。

厚生労働省の調べによれば、財形貯蓄制度の実施率は41.4%です(2014年)。この15年で実施率は15ポイントほど下がっており、そもそも財形制度を実施していない会社が増えています。

さらに財形年金の実施率となると17.6%と財形実施企業の半数以下しか実施していないという結果になっています。

ところがこの財形年金、NISAやDC(確定拠出年金)とすこぶる相性がよい制度だということをご存じでしょうか。NISAやDCと平行して活用すると、むしろNISAやDCで積極的にリスクを取れるようになるのです。

財形年金がNISAやDCと相性がよい理由

財形貯蓄、というように財形制度は原則として預貯金ベースです。ごく一部の金融機関が投資信託を購入できるようにしていますが、ほとんどは銀行や労働金庫で積立定期預金を行います。財形を行う金融機関は会社が指定するので、自分だけ投信でやりたい、ということはできません。

これは、元本割れはないものの低金利の積立を余儀なくされるということです。財形年金は元利合計で最大550万円まで利息非課税のメリットを得られるものの、高くても年利0.2%程度の金利しか獲得できない状態にあります。

しかし、個人のポートフォリオを制度ごとにぶつ切りにせず、全体で俯瞰してみたとき、「非課税でかつ安全性の高い資産」を保有するチャネルは財形年金か確定拠出年金で保有する元本確保型商品に限られています。

過去、税制メリットを意識した資産の置き所の最適化、「アセット・ロケーション」について紹介しましたが、財形年金はその点で優先して保有したいアカウントです。

確定拠出年金でも元本確保型商品を持つことは問題ないのですが、確定拠出年金は定期預金も株式投資信託も選択できるアカウントであるため、期待リターンの高い商品を厚く保有したほうがお得ということになります。0.2%の非課税より、期待リターンが4.0~5.0%期待できる資産を保有し、譲渡益非課税を獲得したほうがお得だからです。

NISAとの棲み分けでも財形年金は妙味があります。なぜならNISAではリスク資産の保有しかできないからです。定期預金はもちろんMMFですら購入できないため、NISAの譲渡益非課税メリットは、株式投資信託や個別株を保有することで活用します。

しかし、資産のすべてをNISAで投資するわけにはいきません。リスクの取り過ぎ状態に陥ってしまうわけです。NISAと同時に手元で一定額を預貯金で持つことは基本的な選択ですが、同じ預貯金を持つなら非課税メリットが欲しくなります。

つまり、財形年金とNISAを併用することにより、どちらも譲渡益非課税でありつつ、安全性の高い積立と投資を平行できるわけです。

投資比率を意識しながら、3つのアカウントを活用する

アセット・ロケーションを具体的に行うためには、自分の財産に占める投資比率を意識することが必要です。

例えば、全財産に占める投資ウエートを「60%」としていた場合に、「財形年金120万円」「確定拠出年金500万円」「NISA50万円」「その他預金200万円」とあった場合、総額870万円の6割にあたる522万円までリスク資産を持てることになります。

すでにNISAで50万円保有しているので、確定拠出年金内では472万円までリスク資産を持つ、というように税制優遇のある3アカウントを活用していくわけです。

今後、財形年金の積立がはかどって安全資産が増えた場合、確定拠出年金での投資額引き上げと、NISAでの投資額増額などを行いながら、全体としての投資ウエートをキープしていきます。

全体の投資ウエートは、自分の投資が短期的な急落でも継続できるかを考えて決定するといいでしょう。具体的にはリーマンショックレベルの運用損が生じたとき、マイナス18%ほどの下落でしたから(全国の企業年金の平均利回り)、約20%のダウンを想定してみてください。

高金利になったとき、財形の魅力は再認識される

ところで、低金利低金利と連呼してきたものの、財形年金が低金利と決まっているわけではありません。市中の金利水準が低金利であるあおりが財形年金にも来ているだけであり、将来金利上昇時には財形年金も金利は上昇します。

現在は0.2%の20%が課税されたところで、0.14であってどうでもいいや、となるわけですが、2%の金利が20%課税されて1.6%になるとしたらどうでしょうか。0.4%の金利差は大きいと感じるはずです。

しかし、高金利になってからあわてて積立開始しては高金利の非課税メリットは大きく得られません。金利が上がった頃に資産残高100万円くらいあれば、利息非課税のメリットも大きく浮き上がってくるでしょう。

定期預金の積立が投資の強みになる、というのは「なんとなく投資」をしていると気がつかない視点です。今のうちから財形年金で月1~2万円でも積立をしておいてはいかがでしょうか。