確定拠出年金は会社員の7人に1人に普及

企業型確定拠出年金制度の普及が続いています。国内の代表的な企業年金制度は、厚生年金基金、確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(企業型。DC)がありますが、厚生年金基金については廃止を促す法律が施行されたこともあって、解散が続いています。一部は確定給付企業年金に移行する見込みですが、5年後にはほとんどが解散をしていると予想されています。

確定給付企業年金は純然たる企業年金を会社側で積み立てる仕組みですが退職給付会計が積立不足の決算計上を厳しく求めるため、上場企業には好まれない制度となってしまいました。グローバル企業では、「海外はDC型制度なのに、日本人社員だけDBというのは公平感が出ない」という悩みも抱えています。確定給付企業年金は2013年3月末の796万人をピークに微減が続いており、今年の3月末で782万人です。これは新規設立がほとんどなく、定年退職者等の自然減が続いているためと思われます。

DC制度はこうした流れに反して加入者が増え続けています。昨年度に500万人を突破、この4月にスタートした企業を加えると約530万人まで加入者を伸ばしました。企業数も2万社を超えています。

500万人を超えたということは、正社員の7人に1人以上のところまで普及してきたということを意味します。

401k制度の泣き所は「投資教育」

さて、確定拠出年金は自己責任で資産運用を行わなければなりません。確定拠出年金の場合は、全加入者に投資経験にかかわらず一律に運用商品が提示されることになり、投資未経験であろうと投資意欲がなかろうと、証券口座を強制開設するような性格があります。(実際にはリスク資産として売買できるのは投資信託のみであり、個別株は売買できない証券口座ですが)

ところが、全員がアクティブに投資を行っているわけではなく、残高ベースで約4割は定期預金等の安全資産になっています。また個人レベルでも3~4割の人は全額を安全資産にしたままです。

日本の会社員の多くが投資未経験であることを鑑みれば、適当な資産配分(リスクを取り過ぎず、かつ取らなさすぎず!)で資産運用を行ってもらうためには、何らかの教育が必要です。

そこで、確定拠出年金法では投資教育の実施を会社に義務づけていますが、企業の実施率はおおむね6割で、制度導入から5年経過しても約7割の実施率にとどまります。

理由としては、「何を教えればいいのか分からない」とか「予算が取れない」といったものです。予算の問題はともかく、教育内容の不明を理由に未実施というのでは社員も困ります。530万人の3割が仮に投資教育を未受講のまま過ごしたとすれば、約160万人に影響が及びます。

そこで、2015年4月に、企業年金連合会は「継続教育実践ハンドブック」というドキュメントを公開しました。これは、「投資教育担当者の虎の巻」なのです。

401k投資教育の虎の巻を無料で読んでみよう

「ハンドブック」は企業事例集と、投資教育マニュアルの2部構成で作られており、基本的には企業内の確定拠出年金担当者(人事部にいることが多い)のためのハンドブックとなっています。しかし、個人にとって参考になるのはマニュアルパートのほうです。

マニュアルパートはさらに、「投資教育実施マニュアル」と「投資教育内容のガイドブック」に分かれていて、このうち「投資教育内容のガイドブック」が個人投資家が投資について基本を学ぶ参考となります。

多くの人が、投資については何冊かの本を読んだり、セミナーを聞いたりしてチャレンジしていますが「超長期投資」を前提としたテキストやセミナーはあまりありません。

確定拠出年金の場合、22歳の新卒から60歳まで運用が続けば38年も投資を継続することになります(原則として解約できない)。また、老後資産形成である以上は高いリスクを取って元本が半減するような投資も避けるべきです。

「ガイドブック」は会社の担当者が社員に「最低限これだけは教えて欲しい」「ここは間違えないで説明して欲しい」という内容をコンパクトにまとめているため、長期投資を個人が行うための投資学習本にもなるわけです。

「継続教育実践ハンドブック」は、企業年金連合会ホームページから無料でダウンロードできます。今ならトップページにバナーが出ていますが、参考までに該当ページのリンクを示しておきます。

https://www.pfa.or.jp/jigyo/jimushien/dc/index.html

※「会員以外」のところにあるPDFから所定の指示に従ってメールを送る仕組みです(回りくどいやり方なのは、最近公的団体への不正アクセスが増えており、WEBフォームが閉じられているため)

投資のベーシックスキルを速習できるチャンスを活かそう

投資マニュアルのパートはA4で25ページくらいのテキストですから、それほどボリュームが多いわけではありません(本文内ノンブルでP209~234、PDFのページ数ではP221~246)。

夏の仕事がちょっとヒマな時期に会社で一気読みしても一日で読み終えることができると思いますし、タブレットがあればPDFファイルを開いて数日間ほどの通勤時間で通読できると思います。

本文を通読いただければ、投機的にならず、普通の会社員が行う資産運用を考えた場合に最低限度知っておきたい知識をまとめたテキストであることがおわかりいただけるかと思います。

確定拠出年金をスタートしていて、よく分からないけどなんとなく投資信託を買っている人、あるいはなんとなく定期預金100%にしている人の参考になるのはもちろんですし、確定拠出年金とは無関係に投資をしている個人にとっても読める作りになっています(一部、確定拠出年金に特化した記述があります)。

もし、あなたが投資について経験が浅く、「売買で儲けるもの」「短期的にどう増やすかが勝負」「ズルいことをすれば人より先んじて儲けられるのでは」「為替の売り買いも投資」のように思っているようなら、本テキストは投資の基本認識を整えるよい教本となるはずです。

ちなみに、このテキスト、私が原文を書いて(嘱託で、企業年金連合会のDC担当調査役の席がある)、検討会議を開催、有識者や関係団体に校閲をしてもらったものです。内容的にはそう悪くないものだと思います。ぜひ参考にしてみてください。

超長期の資産形成においては、ほったらかしでも投資ができる

最後に、ここまでコラムを読んだ読者のために、テキストで書かれていない「本音」の確定拠出年金運用テクニックを少しご紹介しておきましょう。

確定拠出年金は基本的に60歳まで受取ができない仕組みです。その代わりに運用益非課税のメリットが何度売買を繰り返しても継続します。このメリットを活かすためには期待リターンの高い投資を行いたいところです。

一方で、老後資産形成として考えれば確定拠出年金の資金は余裕資金ではまったくありません。つまり、余裕資金で好きに個別株を売買する投資とは方針を変えるべきです。これは極端な下落リスクを伴う運用手法は避けるべき、ということです。

さらに、会社員が仕事をしながら行う投資ですから、手間や負担はできるだけ軽い投資方針を選択すべきです。そうすると、期待リターンの最大化とあわせて、下落時の損失抑制に気を配ることが必要です。

そうなると、分散投資を前提とすること、パッシブ運用をベースとすること、低コストの投資商品を選ぶこと、などが帰結として導き出せます。定期預金等の元本確保型商品の保有ウエートは高くする必要はないでしょう。

安全資産を保有する場合は、手元で定期預金を持ち、確定拠出年金の資産とトータルでリスク管理を行えると理想的です(会社が、個人資産と確定拠出年金との統合ポートフォリオについて教育することはまずない)。

低コストのパッシブ運用をコアにできれば、毎日時価のチェックをする必要はありません。年に1~2回届く、運用レポート(紙ベース)の届くタイミングで運用状況を確認、特に問題なければそのまま運用を継続すればいいですし、必要なら若干のリバランスを行う程度でいいでしょう。

「ほったらかし投資術」といえば山崎元/水瀬ケンイチ著のベストセラーが思い浮かびますが、同書でも確定拠出年金の活用が触れられています。私も確定拠出年金こそ、ほったらかし投資が向いているのではないかと思います。