割安株投資といって真っ先に思いつくのが、PERの低い銘柄へ投資するという手法。初心者向けの株式投資の教科書にも、必ず書いてあります。でも、低PERランキングの上位銘柄から選ぶと、たくさんの落とし穴が待ち構えています。

低PERランキングには「訳あり銘柄」がいっぱい!

初心者向け、入門者向けの株式投資の教科書には、必ずといっていいほど、PERのこと、そしてPERが低いほど株価が割安であることが説明されています。

これを踏まえて、PERが低い銘柄を探して投資するという個人投資家の方も大勢います。手っ取り早いのが、投資情報サイトなどに掲載されている、低PERのランキングです。

PERが低い銘柄の中でも、より低く、割安な銘柄が簡単に探せるとあって、このランキングを使って投資対象とする銘柄を選ぶ方も多いようです。

でも、筆者がある日の低PERランキングに載っている上位銘柄を調べたところ、ほとんどの銘柄が「訳あり」の低PERになっていました。今回は、その「訳あり」の内容について解説していきます。

低PERランキングの訳あり(1)~特別利益の存在

非常に多いのが、多額の「特別利益」が計上されているためにPERが低くなってしまっている銘柄です。

企業が本業によりどれだけ利益を上げることができるかが分からなければ、PERで株価が割安かどうかを測定することができません。

しかし、PERの計算式は、「株価÷予想1株当たり当期純利益」となっていて、使われるのはあくまでも予想1株当たり当期純利益です。

この当期純利益の中には、特別利益、つまり特殊要因・臨時的な要因によりたまたま生じる利益が含まれてしまっています。この特別利益は、企業の実力に関係なく生じているものです。

したがって、多額の特別利益が生じるような場合は、特別利益の影響を除いた本来あるべきPERを計算しなければなりません。

その際、筆者は暫定的に「経常利益×65%=あるべき当期純利益」として計算します。経常利益をベースにするのは、経常利益には特別利益の影響は含まれないこと、そしてなぜ65%かといえば、現状の法人税等の税率が35%弱のため、「100%-35%」として計算すれば税引き後の利益が試算できるからです。

この点に注意して、低PERランキング上位の銘柄のPERを再計算すると、もともと2倍とか3倍だったものが、10倍以下にまで低下しました。PER10倍の水準は、利益成長が見込めない銘柄であれば、全く割安ではありません。

こうした作業により、低PERランキングに掲載されている銘柄が実は割安ではなかった、ということが分かるのです。

なお、この逆に、多額の特別損失が生じているために本来の実力がPERで測定できないケースもあります。この場合も上記と同様、経常利益×65%で本来あるべき当期純利益を計算して、PERを計算しなおしてみてください。

ちなみに、多額の特別損失が生じる見込みの銘柄は、利益が小さくなるのでPERが高くなる、もしくは赤字であれば測定不能になるため、そもそも低PERランキングには載ってきません。

低PERランキングの訳あり(2)~流動性が低い

2つ目は、「流動性」です。多額の特別利益が生じていないもののPERが低い銘柄の中には、流動性が低いものがよくあります。流動性が低いとは、言い換えれば日々の売買高が小さい銘柄のことです。

なぜ流動性が低い銘柄のPERが低いのか、それは多くの投資家にとって、「流動性が低い」=「リスクが高い」と認識しているからです。

もう少し分かりやすく言えば、マーケットの環境が悪化して株をキャッシュに換えたいというとき、買い手が少なすぎて売るに売れない、売れたとしても非常に安い価格になってしまう、というリスクがあるのです。

また、機関投資家、プロ投資家など、多額の投資資金を扱う投資家は、流動性が低い銘柄に投資資金をつぎ込むことが非常に難しいため、初めから投資対象外としています。そのため、買いたい投資家が絶対的に少なく、株価が上がりにくい、という事情もあります。

しかし、この流動性が低いというリスクを甘受できるのであれば、それ以外の要素、つまり業績が今後継続的に伸びていく見込みがあるような銘柄に投資するのは1つの戦略として有効です。かの有名な個人投資家だった竹田和平さんも、流動性の低い銘柄の大株主に名を連ねていました。

ただし、一度買ったら売りにくい、という点だけは十分に肝に銘じておいてください。

低PERランキングの訳あり(3)~業績の変動が激しい

もう1つ、低PERランキング上位の銘柄に多いのが、業績の変動が激しい銘柄です。代表的なのは不動産株で、PER5倍前後の銘柄がゴロゴロしています。

なぜ不動産株のPERが低いかと言えば、不動産市況が急速に悪化した場合、業績が落ち込んで赤字転落となり、場合によっては破たんしてしまう恐れもあるからです。

リーマンショックの際も、前年まで増収増益だったにもかかわらず突然大赤字に陥った不動産株が数多くありました。この株も破たんしてしまったのか、という銘柄もいくつもあります。

こうした銘柄の扱いで悩ましいのは、足元では増収増益が続いていて、今後の見通しも同様であるため、「どう考えても割安だ」と思えてしまうことが非常に多いことです。

したがって、業績の変動が激しい銘柄に投資する際は、単に低PERで割安と思うのではなく、今後の景気動向によっては一気に業績が悪化して株価が売られる可能性もあることをよく踏まえたうえで実行するようにしましょう。筆者であれば、上昇トレンドのときしか保有しないようにします。

また、バイオ関連株などに多いのですが、たまたま特殊要因で今期は多額の利益が計上される予定だが、来期以降はその利益が見込めない、というケースもPERは低くなりがちです。PERはあくまでも今期の予想数値と株価とを比べたもので、来期以降の数値はPERには反映されないからです。これは、会社四季報などをみて、業績が好調なのが今期だけではないかを確認すれば多くの場合は解明できます。

低PERランキングの最上位から割安株を探す必要はない

低PERランキングの上位20銘柄は、いずれもPERが5倍を切っていました。しかしそのうち筆者が投資対象としてもよい、と思えたのは数銘柄しかありません。そしてその数銘柄も、上でご説明したような訳あり株に分類されるものです。

PERが低いほど割安といっても、低すぎるのにはやはり訳があります。プロ投資家も常に割安な銘柄がないかどうか監視していますから、低PERで放置されている銘柄については、何か原因があるのではと、疑ってみるクセをつけるようにしてください。

個人的には、ランキングの上位から順番に探すよりも、PER8倍~10倍程度の銘柄を探し、そこから投資に値する銘柄をピックアップしていく方がうまくいく可能性が高いと思います。例えばPER8倍の銘柄で、今後増収増益が予想されるならば、見直し買いにより株価が2~3倍になることも決して珍しくありません。

割安株投資には、まだまだ落とし穴がたくさんあります。それらを知り、避ける方法を知っておくことが非常に重要です。次回以降のコラムでも引き続きお話しいたします。

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