ローン活用についてセミナー講師をしたら老後資産形成の話になった

先日、若い世代へのマネープランの講演機会がありました。テーマが「お金の借り方返し方」で、まだ家を買う前、といった世代が集まっていました。

クレジットカードの使い方に始まって、教育ローンや住宅ローンの設定についてヒントをお話したのですが、なぜか最後は「老後を意識せよ」という話になりました。

子どもの学費の準備不足時に使う教育ローン、家を買うに当たって組むことになる住宅ローンが老後となんの関係があるのか、と思う人も多いと思いますが、実は密接な関係があるのです。

そしてそれは「なんとなく資産形成」を図るレベルから脱却するヒントにも満ちています。今回は老後資産形成をにらんだ借金の心構え、という話をしてみたいと思います。

老後を意識する人は投資家率も高く資産形成状況は上々

会社が確定拠出年金(日本版401k)を採用している場合、会社は基本的な投資教育を行い社員に受講させます。これは法令上の義務なので、どんなに少なくとも1度は勉強の機会が設けられています(本当は反復学習が重要だが)。

当然ながら投資教育のみならず、「老後のためにコツコツ資産形成することの重要性」も教え込まれます。

フィデリティ退職投資教育研究所の調査では、「確定拠出年金に入っている人」と「入っていない人」のあいだには明確な違いがあることが分かっています。

確定拠出年金に加入している人とそうでない人を比較すると、証券口座保有比率は「45%vs27%」という大きな差がつきます。実際に実行されている老後のための貯蓄額でも「922万円vs569万円」という大差がついています。

老後を意識するきっかけが得られると、資産形成が実行されることが分かります。投資の基礎においても、確定拠出年金加入者のほうが理解度が高いそうです。

住宅ローン返済、教育資金準備と同時に老後資産形成を行う必要性

ベストセラーになった「サラリーマンは二度破産する(藤川太著)」においても、老後のためのお金の準備を考えるほど、住宅購入の危険性は大きいことが指摘されています。

簡単にいえば、「1,000万円の重い住宅ローン負担がなければ、老後の貯金を1,000万円作る余裕が作れる」ということです。

しかし約半数の人は30代で住宅ローンを組み、老後のことをあまり意識せず物件を決めてしまいます。50代になって気がついてももう遅いのです。

教育ローンも同じ問題を内包しています。学費の準備が足りなかったからと安易に借りると、返済が終わる前に定年退職になり、退職金で残債を相殺する羽目になります。これでは老後の資産は半減です(半分ですめばまだラッキーかもしれない)。

老後をにらんだローン組成術

もう一度ローンの話題に戻りますが、現役時代のローンが加重であることは老後資産形成に直結します。長い目で資産を増やしていき、老後を豊かにしたいと考えるのであれば「なんとなく」借金をしている場合ではないのです。

だとすれば、ローンの鉄則は下記3点になります。いずれも資産運用の成績と同じかそれ以上にあなたの資産形成を大きく好転させてくれる要素です。

  • 鉄則1)返済完了時期を定年年齢以下にする
    まず、返済終了を60歳より後に遅らせないことです。長期に及ぶ借り入れは長期にわたる利息返済期間を設定する、ということです。
    また退職金での精算を行えば老後の資産形成どころか老後の資産消滅になってしまいます。60歳で返し終えることができない借金という発想そのものが間違いなのです。
    なお、定年が65歳ないしそれ以上に引き上げられる可能性はありますが、期待するには現在の労働環境はリスキーだと思います。
  • 鉄則2)可能な限り、借りずにすませる(貯めるか安く買うか)
    次の鉄則は、可能な限りローン設定額を低くする、ということです。借りなければベストで教育ローンは極力避けるべきです(住宅ローンを借りずに家を買える人はほとんどいないのでこれはやむを得ず借りることになる)。
    ローン借入額を少なくする方法は、安い物件を選ぶか、頭金を多く確保するかの2つしかありません。セールストークに舞い上がって背伸びした物件選びをしてはいけません。身の丈に合った物件を選ぶことはきわめて重要です。また、頭金を可能な限り積む努力はすべきで、勢いで家は買うものではありません。
    教育ローンについても、借りずに済ませる努力が必要です。児童手当を誕生からずっと貯めていくと高校と大学の入学費用がクリアできますが、最低でもそれくらいの積立目標を設定する必要があります。
  • 鉄則3)少額でもいいので同時並行的に老後資産形成を行う(できればリスク資産で)
    最後の鉄則は、自分の老後資産形成を同時並行的に行うことです。これは毎月1万円、ボーナスから5~6万円程度の金額でもいいので取り組むべきです。
    毎月自動的に引き落としがされるのが理想的で、目の前の家計と切り離して半強制的に行うことと、解約が手間暇がかかる口座を設定することがポイントです。
    確定拠出年金のように「下ろしたくとも法律的にも解約を認めていない」仕組みは、税制メリットも合わせて優先的に利用したい器です。NISAを利用した積立投資もあわせて利用していくといいでしょう。
    さらに、期待リターンが高く十分に分散投資された金融商品を長期保有することを考えるのが老後資産形成には有効です。メンテナンス負担も軽減されますし、最終受取額も増加するからです。株式を組み入れた投資信託などを活用してみたいところです。