年収が増えたら貯めるよ、と誰もがいい、しかし実行はしない

資産形成を行わなければと誰もが思うものの、なかなか実行されないのが常です。「年収が増えたら貯めますよ」と言い訳を許す人が多いのですが、こうした人たちには2つの落とし穴があります。

まず「年収が上がらない」というトラップで、この場合いつまでたっても貯め始めることがない恐れがあります。こういう言い訳をするヒマがあったら、毎月少額でもいいので貯蓄原資をひねり出す努力をするべきですし、強制的に積立貯蓄か積立投資を行うことが有効です。

もうひとつのトラップは「年収が増えた分、生活費も上げてしまい、貯められない」というものです。ここでいう年収増は転職に限りません。社内での昇進があったりベースアップがあった場合も含みます。

後者のケースでは、たいていの場合、出費も増えていたりするので(子どもの学費がかかるとか)、年収増も「やれやれ、助かった」とばかりにそのまま出費増にあて、そのままにしてしまいがちです。

このままいくとどんなに年収が増えても貯められないまま時間が過ぎ去っていくことになります。

なんとなく投資どころか、「なんとなく投資原資すら作れない」状態は避けるべきです。少し対策を考えてみましょう。

私が年収が上がったときの経験談(自慢話ではなく失敗談)

私の話を少ししましょう。自慢話というより失敗談です。

最初の会社に私は5年と数カ月働きましたが、最初の数年は会社の業績も良かったので年収が増えました。新卒でありスタートラインが低かったおかげでもありますが、やはり年収が上がるのはうれしくてどんどん使ってしまいました。最後のあたりは次のボーナスを当てにして買い物をしていましたからとてもリスキーな状態です。もちろんFPの資格を取る前の話です。

印刷媒体の売り上げが下がり始める時代に世の中が入り始め、自分の年収もややダウンし始めたため、転職を決意しました。仕事の内容についてのギャップもあったので年収だけが転職理由ではありませんが、幸いにして転職をした先では年収アップが実現しました。

しかし新しい職場に移って難しかったのは「年収アップ分、お金を使ってしまう」ことでした。すでにその職場にいる同僚は自分と同じあるいはそれ以上の年収をすでに得ているわけで生活水準も高いわけです。ところが、こちらはまともに貯金もせずに5年暮らした生活を立て直そうとしているわけですから、同じレベルに合わせてはいけないはずです。しかし、お昼や夜の食事をつきあうだけで予算はオーバーしてしまいます。

そこで、「仕事がまだ終わらないので飲みはまた今度に」とか「ぼくはマクドナルドが好きなのでお昼はバリューセットにします」などと言い訳して日中の予算を抑えるところから生活コストの圧縮に取りかかりました。

さらに趣味の買い物(基本的にオタクなのでDVDやゲームやコミックにすごい金額を投じていた)も転職前と同じレベルかそれ以下を心がけるようにしました。

ようやく、お金を貯められるようになったのは転職から半年以降でした(この会社は1年で辞めることになる)。しかし、この失敗経験があったおかげで独立後数年の不安定な収入状況でもなんとかやりくりができたと考えています。

年収が上がった分を投資原資とする覚悟を

私の個人的体験談にずいぶん文字数を使ってしまいましたが、年収が上がったタイミングはかなり意識を高めてお金の管理をしなければならない、というケーススタディにはなったかと思います。

何せ年収アップに気をよくしてお金を使いたくなるのは当然ですし、職場の同僚に合わせるだけでも出費がうなぎのぼりになります。靴やスーツの予算を高め、昼食や飲み代の予算をアップするようなことを安易にするべきではありません。

同じ会社に勤めていての昇格昇進についても、安易に部下の飲み代を肩代わりするようなことはすべきではありませんし、ご褒美出費などしている場合ではありません。

マネープランにおいて「生活コストが安くても苦にせずやりくりできる」ほどの強みはないのですが、せっかくの長所を年収アップとともに手放してしまうのはもったいないことです。

年収増の際に出費増を許してもよいのは、避けようのない出費を埋めるためであり、借金を避ける対応にとどめておくべきでしょう。

原則としては年収増は貯蓄ないし投資をする好機と考え、生活水準はキープし、年収増を投資原資に転換するくらいの心構えが欲しいところです。

年収が増えた幸運は資産増で活かせ

年収増は一般的に下方硬直性があって見直されるたび上がる傾向が強いものです(特に日本においては)。であれば、年収増の好機に増額分を投資に回すことができれば元本だけでも大きな金額になります。

仮に30歳の転機において得た20万円の年収増であっても、30年の人生を思えば600万円の投資原資です。年利4%もつけば1122万円に達します。たった20万円で老後の柱がひとつ立つわけです。その後に年収増を全額投資できれば住宅ローンや子の教育資金にもほとんど困らずやりくりできるでしょう。(もちろん20代と同じ生活水準を40代でも維持できないので全額投資は不可能だと思いますが)

人生においては、実際の資金ニーズより早く積立等を行い資産を確保し、高額の出費が必要になったときに借り入れを極力減らすことが重要です。このとき、出費が増えるタイミングより早く年収が増えることほど幸運なことはありません。

早期に資産の積み上げを図ることができる人ほど、リスク資産の力を借りやすくなります。また1期間あたりの積立額を少なくすることもできます。

もし幸運にも年収がアップした人は、その幸運を逃さず、「年収増=投資原資増」にしてみてください。

年収増をできるだけ資産増につなげる