スチュワードシップコードって何?

「(日本版)スチュワードシップコード」という言葉が、機関投資家のあいだで話題となっています。これは、「責任ある機関投資家の諸原則」と題される金融庁のレポートにより示されたものです。

機関投資家には、投資先企業に対する理解にもとづく建設的で目的をもった対話を通じて、企業価値の向上と持続的成長を促す責任があるとされ、それは顧客や受益者の中長期的なリターン拡大にも資するとしています。

今回、その基本原則が示されましたが原則は7つあり、下記のとおりです。

  1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
  4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
  5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
  6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
  7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

機関投資家の運用のあり方について責任を問うものとしてはSRI投資(社会責任投資の略)やESG投資(ESGは環境、社会、ガバナンスの略)のアプローチがありましたが、スチュワードシップコードはこれらと排他的に位置づけられるものではなく、重なる視点を持ちつつ併存していく考えとみられています。

金融庁によれば、8月末時点で159の機関投資家等がコードの受け入れを表明したとのことで、ホームページで定期的にリストを公開していく考えだそうです。受け入れた機関投資家や金融機関は自社のHPなどに自社の指針を開示するなどしています。

今回の方針については機関投資家、つまり年金運用等の主体とその委託を受けている運用会社等を対象としたものであって、個人投資家には適用を求められているものではありません。

しかし「なんとなく投資」を脱出するための参考になるところがないか、考えてみると投資に関する視点が広がるきっかけになりそうです。少し考えてみたいと思います。

機関投資家の社会的責任を問う立場として

個人とスチュワードシップコードの関わりは大きく2つの視点がありそうです。第一の視点は、私たちの資産を運用する運用機関や機関投資家がスチュワードシップコードの受け入れを表明しており、私たちは受益者としてこれに関わる場合です。

スチュワードシップコードは、機関投資家が企業と対話するだけではなく、その取り組みを報告することが求められています(第6原則)。報告をする相手は顧客ないし受益者です。

たとえば公的年金の運用を行うGPIFは我々の将来の年金原資の一部を運用しているわけですが、今回のスチュワードシップコードを受け入れており、その方針を予め示し、また取り組みを開示することになります。

投資信託を運用する投信会社の多くもスチュワードシップコードを受け入れており、方針の提示と報告を行うことになります。企業年金等の機関投資家についてはまだ受け入れを表明した機関は少なく、今後の動向が注目されるところです。

個人投資家が自分の資産を運用に委ねている相手が、スチュワードシップコードに応じているなら、どのような取り組みを行っているかチェックすることが個人投資家にも問われてくることでしょう。

このとき、「中長期的なリターン向上」といううたい文句が目の前のパフォーマンスが冴えないことの言い訳となっていないかチェックする目線は持ちたいところです。あるいはスチュワードシップコードのために高コストがかかり運用コストが高まるようなことがないかも注視すべきです。

スチュワードシップコードは利益相反について指針を示すよう求めており(第2原則)、顧客や受益者の利益を損なうことを許しているわけではないからです。

世の中が豊かになり、企業が成長し、その果実は投資家にも及ぶのが理想的な投資のあり方ですが、スチュワードシップコードはその一助となるか、機関投資家のスタンスが問われていきます。

個人の企業選びに私家版スチュワードシップコードを考えてみる

もうひとつの視点としては、個人が「私家版スチュワードシップコード」を考えてみるという発想です。個人が自分なりにスチュワードシップコードを考えてみることは自由ですし、おもしろい投資行動です。

個人投資の多くは投資方針をもたず、推奨銘柄や相場観に支配されがちです。もし「私家版スチュワードシップコード」がなんとなく投資するのではなく、戦略的な投資行動の検討に役立つなら一考の余地があります。

もちろん、機関投資家のように大株主ではありませんから、個人投資家が議決権行使で企業に揺さぶりをかけることはできません。個人的に企業との対話を求めても応じてくれる可能性は低いと思います。

しかし、株主総会における議決権行使をサボらないことは重要な意思表示のひとつです。個別銘柄について投資している場合は株主総会に出席できない場合も議決権は行使することをオススメします。企業との対話、という観点では株主総会への出席も実行してみたいところです。

きスチュワードシップコードの第3原則では、投資を行う企業の状況をしっかり把握することを求めていますが、これは個人投資家においても当てはまります。投資先企業の選定や投資済み企業の評価に際して、しっかり企業のIR情報などをチェックしていくことが欠かせません。

目の前の株価の上下動だけで投資判断をするのでは、株価を形成する本来的要因であるはずの実態の企業活動が考慮されていないからです。

いいと思う企業、長く資金を投じて企業活動を応援してみたいと思う企業に投資をする、というのは投資の基本的あり方です。初心者の域は抜け出している人ほど、一度立ち返ってみるといいでしょう。

ただしパフォーマンスが下がることのないよう注意すること

ただし「私家版スチュワードシップコード」に夢中になりすぎないよう注意が必要です。なぜならスチュワードシップコードはあなたのパフォーマンスを引き上げる保証にはならないからです。

特に「いい企業」に投資をしようと考えすぎることが、投資妙味を損なう可能性と、投資コストを高める可能性については、個人投資家は十分に警戒をすべきです。

我が家はシャープ製品だらけですしシャープの環境貢献への取り組みなど企業姿勢には常々感心していますが、だからといって硬直的にシャープ株を保有することがパフォーマンス向上にならないことは誰でも理解できるところでしょう(むしろ割安かどうか考える視点を同時にもつことで、企業の本来的価値を評価できる可能性もある)。

また、何らかのテーマを掲げて銘柄選定を行ったり議決権行使を行うことを運用方針に掲げる投資信託などではそれらのコストが運用コストに計上されることになり、信託報酬はインデックスファンドより確実に割高になります。社会的責任の行使が結果として個人投資家のコスト増にしかなっていない、ということはしばしば生じている問題です。企業の中長期的成長ではなく投信会社の利益となっていないか、これを回避する方法はないか考えてみると、「私家版スチュワードシップコード」もおもしろくなってくるでしょう。

スチュワードシップコードについて個人投資家が考えてみるポイントをいくつかまとめてみました。投資は利殖の重要な手段ですが、単なる利殖としてのみ捉えるのは視点が狭すぎるもったいない話です。

今回の提言は投資のあり方を自問自答するきっかけとして興味深いものです。リンク先の資料も13ページくらいしかなく、本文はその半分に過ぎません。一度目を通してみてはどうでしょうか。

個人が考える「スチュワードシップコード」