アセットアロケーションは分かるが、アセットロケーション?
今回は新しい投資の言葉の紹介を兼ねて、「なんとなく投資」卒業のヒントを考えてみます。新しい言葉とは「アセット・ロケーション」です。
投資を少し勉強した人であれば「アセット・アロケーション」という言葉を学んだことと思います。最適な資産配分作りのことで、異なる値動きをする投資対象(例えば株式と債券)を組み合わせて保有すると、期待リターンは保有割合に比例して決まりますが、リスクはそれより低くなることが知られています。このため効率的な資産配分は、最終的な運用成績を決める大きな要素と理解されています。企業年金運用や公的年金運用であれば資産配分における各アセットの保有比率を1%単位で最適化するため検討を重ねます(といっても公的年金の1%は1兆円以上なので割合の決定が重要なのは当然です)。
しかし、個人にとっては「銘柄選択」や「売買タイミング」の影響が大きいのも事実です。期待リターンの追求には熱心だがリスク管理(つまりうまくいかなかった場合への対応)は軽視する投機指南書においては、アセットアロケーションはむしろ期待リターンを低くする要因になってしまうため、ほとんど触れられることがない場合もあります。
一般に個人は資産配分を軽視する傾向があります。しかし、個人においても「資産全額のX割投資する」という部分、「投資金額のX割を株式に投資する」という部分の割合決定を行っているはずで、意識的ではなくともアセットアロケーションを検討しているはずですし、その割合決定は最終的なパフォーマンスに強く影響しています。
どのような上昇銘柄をみつけようとも、財産全体の1%しか保有していなければ影響はごくごく小さなものでしかありませんし、どのような下落相場であっても資産の半分を預貯金にとどめておけば、市場の影響は半分にとどまります。これは値下がり局面を考慮したリスクコントロールとして資産配分が機能した、ということです。
個人にとってアセット・アロケーションはムダ、というような議論は乱暴です。むしろ個人が実行可能なアセットアロケーションの議論を深めるべきだと思います(山崎元さんの連載はしばしばこのテーマを取り扱っていますので参照してください)。
しかし、アセット・アロケーションとアセット・ロケーションは異なります。誤植でもありません。それでは「アセット・ロケーション」とは何なのでしょうか。
税制上の有利や解約条件等の口座の条件を踏まえ、資産の適正配置を意識してみる
「アセット(資産)」の「ロケーション(置き場所)」と言葉を素直に読み解いてみると、アセット・ロケーションの目指すイメージが見えてきます。銀行の口座であったり証券口座であったり、より適正な配置を考えてみようというわけです。
このとき、金融機関の違いによる利回りの差異でもアセット・ロケーションは発揮できます。中長期的に積み立てている預貯金であれば、定期預金金利の高い銀行を選ぶべきです。
証券口座についても売買手数料が割安である先を選択したり、同一のアセットクラスでの投資においてはより手数料の低い投資信託を取り扱っている証券会社を選好するような行動もアセット・ロケーションといえそうです。
しかし、ここまでなら「有利な金利の銀行を選ぼう」「売買手数料が割安の証券会社を選べ」というマネー雑誌の特集になってしまいます。さらにアセット・ロケーションを効率化してみる方法はないかと考えてみたとき、見逃せないテーマがあります。つまり、「税制上の有利」です。
多くの人の関心を集めているNISAは税制上の優遇があるロケーションのひとつです。譲渡益非課税というのは、税率の原則が20%に戻った現在、きわめて魅力的です。ただし年間投資可能額が100万円までである点と売買チャンスは一度限りという点を意識した資産の配置が必要になります。投資をした年から5年目の年末までが期限という点も忘れてはいけません(ロールオーバーすれば最大10年にわたりNISAで運用継続することも可)。
確定拠出年金も運用益非課税(しかも何度売買をしてもよい)、掛金については所得控除(所得税・住民税の軽減になる。会社が出した掛金は会社の経費となる)、一時金受取時には退職所得控除が利用可能(自分で出したお金についても退職金の手厚い非課税枠が利用でき、超過分も課税対象は2分の1でよい)という強力な税制メリットがあります。個人型確定拠出年金に加入できる場合は利用しないほうが損ですし、企業型の確定拠出年金がマッチング拠出を行っている場合はこれを利用しない手はありません。
しかし、確定拠出年金についてもデメリット(制限)がいくつかあります。まず、年間の投資上限額は一定範囲に限られます。加入種別によりますが、会社員で企業年金のない場合だと月額23000円が上限です。また、解約の制限もあります。何度利益確定してもよいとはいえ、最終的な現金受取については60歳以降が原則です。
このように、アセット・ロケーションの検討にあたっては、メリットの確認だけでなく、デメリットの確認を必ず行うことが必要です。特に税制上の優遇措置には何らかの規制が生じるのが一般的だからです。
この点では、確定拠出年金へ資産をすべてシフトすることは現実的ではありません(毎月の積立なので実行は難しいでしょうが)。ロケーションの有利さだけに目をとらわれて後で下ろせないと泣きを見ないようにする必要もアセット・ロケーションのポイントです。
税制上有利なロケーション選択が、商品選択上でも有利になることも
先ほど、商品選択上のロケーション選択(金融機関選び)と税制優遇の観点から考えるロケーション選択に大別してみましたが、実は税制優遇のある口座が商品選択上有利になることもあります。この場合、アセット・ロケーションが二重の意味で価値を持つことになります。
まずNISAについては現物株もしくは投資信託など元本割れする可能性がある商品しか購入することができませんが、NISAの中では売買手数料を無料とする金融機関も多くロケーション選択は税制メリット以上に魅力的です。
確定拠出年金については、本連載で「あなたの会社の401kでお宝投信を探す方法」というコラムを掲載し、お宝ファンドが眠っている可能性を指摘しています。選択の余地があればこれを利用しない手がありません。特に信託報酬の低い投資信託はネット証券でも提供していない低水準のことがありきわめて魅力的です。
税制上のメリットを、さらに有利な商品設定が高めてくれる可能性があり、ぜひ利用してみたいところです。まさにアセット・ロケーション検討の価値が生まれるわけです。
元ネタは岡本和久さんの書籍から
実は今回のテーマ、岡本和久さんの近著で指摘されている事項をネタ元にしています(コピー&ペーストにならないよう、執筆中は書籍は開かずに書いています)。
しかし、この話題はすでに多くの方々が指摘していたテーマです。山崎元さんも過去に何度も指摘している話題ですし、私もコラムで書いたことのある内容と同種のテーマです。
むしろ「いい言葉を与えていただいた」という感じです。岡本さんによれば海外では議論が進んでおり、日本でももっと検討すべきとおっしゃっています。私もこれからは「アセット・ロケーション」という言葉をどんどん使っていこうと思います。
なお、岡本さんの近著はアセットロケーション以外にもドルコスト平均法に代わるアプローチとしてバリュー平均法を提案するなど、一歩ステップアップした確定拠出年金の運用ノウハウガイドになっています。確定拠出年金をすでに利用して、より歯ごたえのある書籍を求めていた方はぜひチェックしてみてください。
自分でやさしく殖やせる 「確定拠出年金」最良の運用術
岡本 和久 (著)
単行本(ソフトカバー): 234ページ
出版社: 日本実業出版社
ISBN-10: 4534051883
ISBN-13: 978-4534051882
発売日: 2014/5/22
アセット・ロケーション?
アセット・ロケーション検討の例
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