はじめに

今月のテーマは「老後のお金」です。みなさんにセカンドライフの備えについてお伺いしました。準備の進み具合については、7割以上の方が試算を終えて、何らかの運用を開始されています。とはいえ、「目標額にはまだ遠い」とお答えの方も多く、資産づくりの試行錯誤を重ねている状況がうかがえました。

ゆとりがあり、不安の少ないセカンドライフを送るためには、早めの準備が効果的。つまり、いかに安定した資産運用を長期的に継続できるかが、成功の鍵を握ります。今回はそのヒントについて、楽天証券経済研究所の香川がまとめております。どうぞご覧ください。

楽天DIのまとめ

楽天証券経済研究所シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

今回のアンケート調査は5月29日(月)~5月31日(水)の期間で行われました。

5月末(31日)の日経平均終値は19,650円でした。19,196円で取引を終えています。前月末(19,196円)からは454円ほどの上昇となり、月間ベースでも2カ月連続の上昇です。

月間の値動きを振り返ってみますと、日経平均は月初に水準を切り上げるスタートを見せました。北朝鮮情勢の緊迫感の後退や、仏大統領選挙などの海外不安がひとまず薄らいだほか、堅調な米国景気、トランプ政権運営能力へ評価が見直されたことなどを背景に、これまでの下落分を取り戻し、さらに、連休明けには米利上げ観測とそれに伴う企業業績の上振れ期待をやや先取りする格好で、2万円の大台を窺う動きも見られました。

その後は、2万台に乗せきれない上値の重たさや、トランプ米大統領周辺で「ロシアゲート疑惑」が持ち上がったこともあり、軟調な動きを見せる場面もありましたが、相場自体は大きく崩れることなく、概ね堅調な展開が続きました。目立った方向感は出なかったものの、株式市場を取り巻く環境はかなり改善している印象となりました。

今回のアンケートでは3,200を超える回答を頂きました。DIの数値は前回調査と比べて強弱まちまちとなりましたが、足元の相場の落ち着きを反映しつつも、中長期的なシナリオに対してまだ警戒している様子が窺える結果になっています。

次回も是非、本アンケートにご協力頂ければ幸いです。

1.日経平均の見通し

「ムードの改善に期待」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所が作成

今回の日経平均の見通しDIですが、1カ月先のDIはマイナス1.50、3カ月先のDIはマイナス2.81となりました。

前回のDIがそれぞれマイナス4.88とプラス0.92でしたので、1カ月先のDIは改善する一方、3カ月先DIは悪化する結果となりました。ただ、今回はDIの値よりも回答の内訳(強気・弱気・中立)の方が重要な意味を持つかもしれません。

図を見れば一目瞭然ですが、中立派の占める割合が大きくなっています。とりわけ、1カ月先の中立派は60%を超えていますが、調査開始以来で初めてのことになります。5月の相場が堅調だった割に、日経平均は2万円を何度かトライしつつも乗せきれませんでしたし、海外の不安材料もまだ不透明感が燻っている中では、先行きの楽観や、中長期的な上昇シナリオになかなか結びつけられない心理が窺えます。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所が作成

ただし、今回のアンケート終了後の6月1日には日経平均は2万円台にあっさり乗せ、翌週の5日も維持していますので、現在の投資家心理は、今回のDIの結果よりもかなり良くなっていると思われます。

この日(6月1日)に見せた日経平均2万円台乗せは、海外市場からの流れは決して良くはなかった中、取引開始前に発表された1-3月期の法人企業統計の内容が好感されたことをきっかけに買いが入ったと見られています。

もちろん、直近のレンジ相場によって市場のエネルギーが溜まっていたことや、月初の日経平均は前月(5月)まで11カ月連続して上昇している傾向があること、もともと日本株の割安感(海外株市場に比べてPERが低めの水準にとどまっている)が指摘されていたこと、メジャーSQが迫る中での需給要因なども支援材料となりました。

実際の法人企業統計では、経常利益が前年同期比で26.6%増加し、過去最高を記録した2016年10-12月期以来の高水準だったことや、設備投資もリーマンショック前の水準を回復したことなど、企業の稼ぐ力が改めて評価されたことが考えられ、これまでの為替の円安期待以外の材料が注目されて日本株が買われたことは良い傾向と言えそうです。

引続き、海外からの不安材料は燻っていますし、注意が必要ではありますが、仮に相場が軟調になっても、ファンダメンタルズを背景に日本株を買えるムードになってきたことは今後の楽観シナリオにつながるものとして期待できそうです。

FX DI:DIは3通貨全てマイナス続く。一方で中立見通しも増える。

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

楽天DIとは、ドル円、ユーロ円、豪ドル円について、今後1ヵ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスならば円の「先安」見通し、マイナスならば円の「先高」見通しになります。また、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

5月の楽天DIは、引き続き3通貨ペア全てがマイナス。ドル円のマイナス幅が先月より広がる一方、ユーロ円と豪ドルではやや縮まりました。

ドル円:DIはマイナス。中立見通し増える。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所が作成

「ドル円は、1ヵ月後どう動いているとお考えですか?」という質問に対して、現時点(111.25円)よりも「円高」になると考えている回答者は、3,273名中1,242名(約38%)でした。次に多かったのは「中立(約34%)」で、「円安」になるは約28%でした。

円高見通しを持つ投資家が最も多かったのですが、その割合は先月に比べて2.6ポイント減りました。一方で円安見通しの割合はそれ以上に少なくなっています。逆に最も増えたのは「中立」でした。

ドル円のDIは-9.9で、5ヵ月連続のマイナス。マイナスは先月に比べて6.4ポイント増加して円の先高観が強まっていることを示していますが、全体としてはドル円に対して強い相場観を持てない投資家が増えています。

とはいえ、マーケットには円安期待もまだ根強く残っているようです。円安派の根拠は大きく2つあって、ひとつはいうまでもなく、トランプ大統領が打ち出した経済政策です。インフラ投資や大型減税、そして金融規制緩和などの政策は、要は、アメリカにどんどん投資せよと言っているわけで、世界の投資マネーが米国資産に向かうことでドル高になるという理由です。ところが、トランプ大統領は、オバマケア代替法案を撤回に追い込まれ、しょっぱなからつまずいてしまいました。

さらに、5月にはロシア疑惑という政治問題が持ち上がりました。トランプ政権は、今後かなりの時間をこの問題の対応でエネルギーを消耗することになり、投資家が期待していた経済政策にはとても手が回らないだろうと、あきらめムードが漂い始めています。

もっともドル円は、トランプ氏が大統領に就任した今年1月の118.59円を高値にして、4月までにすでに10円以上も下落しています。

それでもなお、円安見通しを持つ人が少なからずいるのは、もうひとつの支えである、米利上げ期待があるからでしょう。5月のドル円は、FOMCが利上げに向けて強気な姿勢を示したことで、114円までドル高・円安に戻りました。

マーケットは、FOMCが今月を含めて年内3回利上げすると予想しています。ただ、そのことはすでにドル円に織り込まれています。現在の状況では、利上げペースがこれ以上多くなることはなく、逆に減る可能性の方が高まっています。連銀総裁の中でも、今年2回か3回かで意見が分かれています。またブラード米セントルイス連銀総は、「FOMCの利上げ予想はマーケットの先を走りすぎている」警鐘を鳴らました。

トランプ大統領の経済政策と米利上げという、円安を支える2大根拠は、脆い状況です。ドル円が、これから大きく円安に向かうのは難しいかもしれません。

ユーロ円:DIは6ヵ月連続マイナス。見通しは中立が多数。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所が作成

ユーロ円は、「中立」と考える回答者が最も多く、3,273名中1,442名(約44%)いました。次に多かったのは、「ユーロ安/円高(約30%)」でしたが、「ユーロ高/円安」も約26%いて、ユーロ高派とユーロ安派に大きな開きはありませんでした。

ユーロ円のDIは、-3.02で6ヵ月連続のマイナス(ユーロ安見通し)となりましたが、マイナス幅は先月(-3.48)よりやや縮みました。

5月は、フランス大統領が波乱なく決着して、この半年近く投資家を不安にさせていた欧州の政治リスクは急速に後退しました。経済に目を向けると、欧州の景気は順調に回復中で、ECBの利上げまで取り沙汰されるようになりました。

ユーロ円は、4月から5月の1ヵ月間のうちに10円以上も値上がりして、年初来高値をつけました。それにもかかわらず、DIはユーロ安見通しのままで、ユーロ円相場に対して中立的立場をとる投資家は4割以上もいます。よっぽどユーロの信用がないということでしょうか・・・。

豪ドル円:DIは5ヵ月連続マイナス。4割以上が中立見通し。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所が作成

豪ドル円は、「中立」と考える回答者が半数以上を占め、3,273名中1,841名(約56%)いました。次に多かったのは、「豪ドル安/円高(約24%)」で、「豪ドル高/円安」は約20%でした。

豪ドル円のDIは、-3.06で5ヵ月連続のマイナス(豪ドル安見通し)となりましたが、マイナス幅は先月(-3.12)に比べてやや縮んでいます。

3.今月の質問:「老後のお金」について

楽天証券経済研究所 チーフグローバルストラテジスト 香川 睦

[今月の質問 1] 老後のお金に対するお考え、ご準備について教えてください。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

[今月の質問 2 ] 老後資金の準備を進めている方にお伺いします。老後資金はどのような資産、運用商品によってまかなうことをお考えですか。 ※複数回答可

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

[今月の質問 3 ] 老後に必要な金額は、毎月どのくらい必要だとお考えですか? 1人当たりでお答えください。

最低限必要な金額(生活費)

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

楽しく過ごすための金額(生活資金+ゆとり資金)

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

6月の質問は、「老後のお金に対するお考えやご準備について」でした。

ご回答の概略をまとめると、(1)「準備を進めている」とお答えした方が全体の約7割を占め、(2)「老後資金の準備方法」については、(多い順番に)「株式投資」が53.5%、「預貯金」が48.6%、「公的年金」が約45.2%、「投資信託」が38.1%、「退職金」が32.9%とお答えとなり、(3)楽しく過ごすための金額(生活資金+ゆとり資金)については、「20万円以上」と答えた方が全体の約73%、「30万円以上」と答えた方が約40.%占める結果となりました。平均的な年金受給額は夫婦二人で20万円前後(現役時代の総年収によります)と言われていますので、老後にゆとりある生活を過ごすには、「年金受給額を上回る必要額」について準備していくことが必要となります。

個人として老後(退職後)の資金を準備するには、ゼロ金利の預貯金や国内債券では難しい状況です。可能な範囲で、リスク(短期的な価格変動性)を覚悟し、インフレ率(物価上昇率)を上回るリターンを得られる投資商品で資金を貯めながら増やしていく自助努力が必要です。

下記のグラフは、約20年前(1997年初)を100とした場合の「外国株(日本を除く世界株式)」、「外国債券」、「国内債券」、「国内株式」、「国内預金」のパフォーマンスを円建てで示したものです。預金はリスクがほとんど無い代わりにリターン(利回り)が期待できない状況であるのに対し、外国株、外国債、国内債、国内株はリスク(短期的なリターンのブレ)を経た場合の中長期のリターン(利回り)が得られた市場実績がわかります。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

世界最大規模(約144兆円)の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2014年10月に「デフレを脱却した今、国内債券を中心とした運用では必要な利回りを得られない」(三谷隆博理事長)と判断。基本ポートフォリオ(運用資産の配分方針)を既存の方針(国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期債5%)から、新方針(国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%)へ大きく変更しました。新方針では、株式が全体の5割を占め、外国投資が全体の4割を占めるまでとなりました。こうした新方針にもとづき運用されているGPIFの運用成果が改善してきたことが知られています。

「豊かな老後」を過ごすためには公的年金の受給だけでは足りないとされます。一般個人も「足りない資金」を自分で形成していく必要があります。一つの資産形成法として、上記したGPIFの新方針に倣い、「資金をバランス良く配分しながら貯めながら増やしていく」自助努力をお勧めしたいと思います。こうした資産形成のキーワードとして、「長期投資」、「積立投資(定時定額投資)」、「国際分散投資」が重要であることは言うまでもありません。

4.今後、投資してみたい金融商品・今後、投資してみたい国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

投資せずとも原油価格の推移へは注意を払いたい!?

毎月継続してアンケート調査を実施している「今後投資してみたい投資先」について、今月は「原油」と回答した人の割合について追ってみたいと思います。

「今後、投資してみたい投資先」で“原油”を選択された方は、原油のおおよその値位置を認識され、価格の方向性に一定のイメージを持たれているのではないか?と考えております。

その上で、例えば原油価格に連動するETF・ETN、もしくは国内外の先物、または原油価格と近しい値動きの個別株など、間接・直接問わずさまざまな原油投資のいくつかを具体的にイメージされている方もおられるのではないかと思います。

以下のとおり、「今後、投資してみたい投資先」で“原油”を選択された方の割合の推移と、インターネットやテレビ、新聞等で目にする原油価格の代表例である「WTI原油価格」の推移を同じグラフに表示してみました。

図:「今後、投資してみたい投資先」で“原油”を選択された方の割合(左軸)と、
WTI原油価格の推移(右軸 単位:ドル/バレル)

出所:楽天DIおよびCMEのデータより筆者作成

2013年から2014年前半までは“原油”と回答した人の割合と原油価格は同じ山谷を描いているように見えます。一方、2014年後半からの原油価格の急落開始後、原油価格が26ドル台というリーマンショック後の安値を下回る水準まで下落して一旦の底を見るまでの間、 “原油”と回答した人の割合が急激に上昇したことが分かります。(逆相関の期間)

価格下落時に投資してみたい人の割合が上昇したことから、上述の原油関連の投資対象を“逆張り”で仕掛けてみることを検討された方がおられたのではないか?と想像しております。原油価格は歴史的な安値となった26ドル台から大きく反発し、2017年6月6日現在、47ドル台での推移となっております。

ただ、現在は原油価格が反発したことなどを受けてか、“原油”と回答する人の割合は4%を下回るまで下落してきています。

筆者がこのような状況で思うのは、個人投資家の皆様の中で原油が今後投資してみたい投資先として見られなくなってきているとはいえ、“原油関連の投資商品への投資はせずとも”原油価格の推移に引き続き注目することは大事なのではないか?ということです。

原油価格の動きが、エネルギーセクターの割合が高いとされる米国の株価指数の動きに大きく影響する(引いては日本の株価指数の動きに影響する)と見られる点、エネルギー調達コストの動向を知る上で重要な要素である(日本のエネルギー関連企業の財務内容に影響を与える)と見られる点、などを考慮すれば、原油価格の推移への関心を持ち続けることは、株式を含め幅広い投資対象への投資の実践・検討において、有用であると個人的に思っております。

表:今後、投資してみたい金融商品
2017年5月調査時点(複数回答可)

投資対象 割合 前回比
国内株式 62.66% ▲ 2.48%
外国株式 26.34% 0.08%
投資信託 33.88% 7.06%
ETF 19.00% 0.58%
REIT 10.14% ▲ 0.57%
国内債券 4.77% ▲ 0.03%
海外債券 7.18% 0.63%
FX(外国為替証拠金取引) 10.85% ▲ 2.30%
15.55% ▲ 2.15%
原油 3.15% ▲ 1.33%
その他の商品(コモディティ) 1.68% ▲ 0.84%
カバードワラント 0.98% ▲ 0.58%
特になし 8.00% ▲ 0.43%

出所:楽天DIのデータを元に筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域)
2017年5月調査時点(複数回答可)

国名 割合 前回比
日本 44.36% ▲ 1.68%
アメリカ 38.68% ▲ 2.89%
ユーロ圏 7.70% 2.34%
オセアニア 6.66% 0.31%
中国 6.05% 0.69%
ブラジル 5.13% ▲ 0.10%
ロシア 4.40% ▲ 0.60%
インド 31.90% 2.60%
東南アジア 23.34% 1.04%
中南米(ブラジル除く) 2.72% 0.12%
東欧 1.80% ▲ 0.32%
アフリカ 6.05% ▲ 0.11%
特になし 11.18% ▲ 0.25%

出所:楽天DIのデータを元に筆者作成