- 米シェールオイル生産における「新規油田生産」と「既存油田生産」という分類
- 既存油田の生産量の強含みと同時に起きていたことは、油田の“予備軍”の増加
- 足元の新規油田の生産率向上と稼働リグ数の増加は、将来の新規・既存双方の油田からの生産量増加をサポート
シェールオイルの生産と一口に言っても、米エネルギー省(以下EIA)のデータでは、油田は「新規油田からの生産(New well production)」と「既存油田からの生産(legacy production)」に分類される場合もあります。
これらの動向をみてみると「既存油田からの生産における前月比マイナスの幅が、およそ2年前からすでに縮小傾向に転じており、その傾向は今なお進行中である」という内容でした。(既存油田からの生産量は、減少はしているものの一時に比べて“減少のスピードが緩やかになっている”ということです)
以前にレポートにて何度か、米国のシェールオイル主要7地区の原油生産量はそろそろ増加に向かうのではないか?としました。この点について、今回はEIAのデータを元に「新規油田」「既存油田」に分けた生産動向のデータで見ていきたいと思います。
米シェールオイル生産における「新規油田生産」と「既存油田生産」という分類
以下は、米国の7つのシェールオイル主要生産地域における原油生産量の合計と、同地区の新規・既存の油田からのそれぞれの原油生産量の前月比を表したグラフです。
図:米シェールオイル主要7地区の原油生産量合計および、同地区の「新規油井」「既存油井」それぞれの原油生産量合計の前月比
(単位:百万バレル/日量)
※2017年1月と2月はEIAによる見通し
EIAは、新規油田(new well)を“前月に生産を開始した油田(A new well is defined as one that began producing for the first time in the previous month.)”としています。また、新規油田からの原油生産量の前月比は、全体の原油生産量の前月比より既存油田の原油生産量の前月比を差し引いた筆者の推計です。
2011年ごろより、急激に同地区の原油生産量の合計が増加していったことが分かります。いわゆる“シェールオイル・ブーム”の始まりです。
また、2015年初旬より、主要7地区の原油生産量はやや減少傾向になっています。注目したのはその時、新規油田および既存油田の状況はどのようになっていたのか?という点です。
この時の「新規油田の原油生産は大幅に減少」、「既存油田の原油生産は増加」、というものでした。
特にこの期間は原油価格が急落・低迷した期間であったことから、“米国のシェールオイル企業は、OPECの減産見送り(2014年11月のOPEC総会)を契機とした原油価格の急落・低迷により、活動が大幅に縮小し、その結果同地区からの原油生産量が減少した”とされました。
しかしながら、新規油田から原油生産量の減少の勢いほど、全体の原油生産量が急激に減少しなかったのは、既存油井からの生産量について、前月比のマイナス幅が縮小傾向になった(生産量の“減少傾向の勢いが緩んだ”)点が背景にあったことにも注目したいと考えています。
既存油田の生産量の強含みと同時に起きていたことは、油田の“予備軍”の増加
つまり、“見た目”同地区の原油生産量は減少に転じている、という事象の中で、米国のシェール業者の活動において、新規開発が縮小し、既存の油井からの原油生産に重点が移っていたということです。
当時より“なかなかシェールの生産量が減らない”などとさまざまな話が持ち上がっていますが、なかなか減らなかった背景には既存油井からの生産が支えていたのだと考えられます。
さらに、業者が当時より行っていたことがあります。それは、「掘削済・未仕上げ油井(drilled but uncompleted DUC)」を蓄えてきた、ということです。
図:シェールオイル生産の3過程(探索・開発・生産)における「稼働リグ数(drilling)」「掘削済・未仕上げ油井(drilled but uncompleted DUC)」および「仕上げ後未生産の油井の数(completed)」の位置付けについて
図:主要7地区の「掘削済・未仕上げ油井(drilled but uncompleted DUC)」(単位:基)
上図より、2015年1月ごろより、主要7地区のDUCの増加のスピードが増したことがわかります。これは上述の新規から既存油井へ重点が移った(新規油田からの生産の縮小)が始まった時期と重なります。
まとめれば、シェール業者は2015年1月ごろを機に以下の行動に出ていたということが推測できます。
- 新たな開発を縮小する。
- すでにスタートしている開発において、不採算と思われるものを中断する。例えば、(全てではないが)掘削までは終えたとしても、仕上げを行わない。
①および②によって新規油田が新たに出現する頻度は低下し、おのずと生産は既存油田からがメインとなる。
原油価格の急落・低迷を見、業者はこのような行動に出、その結果、新規油井からの生産が減少した、ということだと考えられます。
また、①の、新たな開発は行わない(リグを稼働させて掘削を行わない)状況下では、稼働リグ数が減少、②の、すでにスタートしている開発を中断する(掘削までは終えるが、仕上げを行わない)状況下では、上述の「掘削済・未仕上げ油井(DUC)」の増加、という事象が想定されます。
なぜ、業者はこのようなことを行うのでしょうか?考えられることは、原油価格下落・低迷の折、コストを抑える必要があるため、探鉱→開発→生産という一連の流れの中で最も費用がかかる「開発」をやめる、もしくは中断する(せざるを得ない)ということなのだと考えられます。
ここで一つの疑問がわいてきます。
新規油井からの生産を中断しただけで、なぜ既存油井からの生産量が継続して前月比プラスとなったのか?という疑問です。
足元の新規油田の生産率向上と稼働リグ数の増加は、将来の新規・既存双方の油田からの生産量増加をサポート
一つの仮説として、「技術革新」による“新規油井における生産効率の向上”が上げられます。
図:主要7地区における新規油井の1リグあたりの原油生産量の平均(単位:バレル/日量)
2017年1月・2月はEIAの推計
上図から推測できることは“新規油井”は、登場したタイミングが新しければ新しいだけ“生産効率が高くなる”ということです。
原油価格の低迷時でも少なからず行われてきた開発の末に生産を行うこととなった新規油井においては、(全盛期に比べて数こそ多くはないと想定されるものの)、1油井あたりの生産量は大きく向上していると考えられます。
この点が後に既存となった油井からの原油生産量を強含ませている一因になっていると考えられます。つまり、既存油田に生産を“シフトした”というよりは、時間がたてばたつほど生産効率が高い既存油田(前月までは新規油田)が自然に出現し、その結果、既存油田からの生産が強含み始めた、ということであると推測できます。
上図が示す通り、原油相場の動向にほぼ関わらず新規の1油井当たりの原油生産量が増加していることからすれば、今後も引き続き原油相場に関わらず、増加して(生産効率が高まって)いくものと推測できそうです。
近年の生産効率の向上の例については、掘削が終わったリグについて、解体せずに組み立てられたまま別の場所に横移動させて新たに掘削を開始する(リグの解体・再構築のためのコスト・時間の削減)、一つの坑区において、複数の坑井を掘る(新たに探鉱するためのコスト・時間の削減)などが上げられるとされています。石油産業の発祥の地であり、民間企業が石油開発を担う米国のなせる業なのかもしれません。
また、昨年より顕著になっている“稼働リグ数の増加”と“生産効率の向上”は相乗効果をもたらすと考えられます。
図:主要7地区の稼働リグ数 (単位:基)
上述の生産効率の向上の件より、現在掘削中の油井(将来の新規油田)が新規油井として生産を活動した時の生産効率は、現在の新規油田の生産効率よりも高くなっていることが想定され、さらに言えば、過去、現在と同じ数の稼働リグ数だったころ(例えば2009年半ば頃)に掘削された油田と、今後生産が始まる油田では、油田の数は同じでも生産量が異なる(より新しい油田からの生産量が多くなる)ことが想像されます。
上図より、2009年半ば頃の稼働リグ数が400基強、現在も400基強ですが、新規1油井あたりの原油生産量は2009年半ば頃が100バレル/日量であったのに対して、現在は6倍の600バレル/日量となっています。
このことは、(目先すぐではなく)将来の新規油田からの生産増加、既存油田からの原油生産量の強含みの継続のサポート要因になるものと考えられます。生産効率の持続的な向上が、100ドル等のかつての高値を必要としなくしている一因になっているとも考えられます。
さはさりながら、いくら効率化が進んでいるとはいえ、まずは積み上がったDUCが取り崩されて新規油田になる流れ(=仕上げ後未生産油井の増加)が顕著になるまでは、なかなか生産量が増加する状況にはなりにくいと思われます。
引き続き、稼働リグ数をはじめ、開発段階の重要な過程である「仕上げ」前後の指標の「掘削済、未仕上げ油井(DUC)」および「仕上げ後、未生産油井(completed)」に注目していきたいと思います。
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