- 各種メディアで報じられているとおり、米シェールオイル生産は回復傾向。
- “米シェール主要地区”を国とみなせば、世界第5位の生産国
すでに様々なメディアで報じられているとおり、米国のシェールオイルの生産が拡大する見通しが出ています。
1月18日(水)、国際エネルギー機関(IEA)の事務局長が発言した内容は以下のとおりです。
- 産油国の減産により原油価格が上昇すれば、米シェールオイルの生産量は大幅に拡大する見通し。
- 原油価格が56から57ドル/バレルであれば、多くの米国内のシェール業者にとって採算が合うだろう。
原油価格の上昇が米国のシェールオイルの生産拡大に結び付く趣旨の発言でありました。
具体的なデータとして、1月17日(火)に、米エネルギー省(EIA)が、米国内のシェールオイル主要7地区の開発および生産活動に関するデータを公表しました。
本レポートでは、その「Drilling Productivity Report」のデータを中心に、米国のシェールオイル生産の事情を述べたいと思います。
米国内のシェールオイル主要7地区とは、EIAが提唱する米国内の主要な7つのシェールオイル生産地区のことで、本レポートではこの7地区の原油生産量の合計を米シェール主要地区の原油生産量としています。
参考:米国内の主要な7つのシェールオイル生産地区
各種メディアで報じられているとおり、米シェールオイル生産は回復傾向。
図:米シェールオイル主要地区の原油生産量の前月比
単位:百バレル/日量 原油はドル/バレル
米シェールオイル主要生産地区の原油生産量について、減少のスピードが鈍くなってきていることが示されています。
2016年4月以降、原油価格の上昇と呼応するように、前月比マイナスが縮小し、数度、前月比プラスに転じた月をはさみ(7月・10月)、来月(2017年2月)には、ここ1年間で最も前月比プラスの幅が大きくなるとされています。
実際の生産量は以下のとおりです。昨年11月に公表された同じ「Drilling Productivity Report」に掲載された生産量と比較をしています。
図:米シェールオイル主要生産地区の原油生産量(見込み含む)とその比較
単位:百バレル/日量 原油はドル/バレル
2017年1月公表のデータ(青線)は、そろそろ下げ止まりを示唆するような形で、先述のとおり、1月から2月かけての増加分(前月比)はここ1年間の中で最も大きくなることが見込まれています。
また、2016年11月に公表されたデータとの比較では、以下の点を伺うことができます。
11月公表のデータ(オレンジ線)より、2016年7月以降、同地区の原油生産量は下落の一途を辿り、同年11月も12月も下落の傾向は変わらないとしていました。一方、1月のデータでは、2016年10月から11月にかけておよそ20万バレル/日量の生産量の上方修正が行われた(11月時点での見込みよりも実際に10月・11月に生産された量が20万バレル/日量程度多かった)、今年の1月・2月には下げ止まりの様相を呈する、などが伺えます。
上方修正の背景には、やはり11月よりも5ドル程度上昇している原油価格の動向があげられるように思います。
“米シェール主要地区”を国とみなせば、世界第5位の生産国
図:米国の原油生産の推移 (単位:バレル/日量)
単位:百バレル/日量 原油はドル/バレル
上図は、米国の原油生産量の推移を示しています。米原油生産量の合計、米シェール主要地区の原油生産量、そして合計からシェール主要地区の生産量を引いた、在来型原油生産量です。在来型はメキシコ湾や米南部等で生産されているシェールではない原油です。
米国のシェール主要地区の生産量はEIAのDrilling Productivity Reportより推計、在来型は同Short-Term Energy Outlook(STEO)の米国の生産量よりシェール主要地区の生産量を引いた値です。
合計は2015年よりやや減少しています。一方、在来型はほぼ同じペースで増加し続けています。合計と同じように減少しているのがシェール主要地区の生産量です。
2014年後半から2016年前半にかけてみられた、原油価格の急落・低迷が、シェール主要地区の原油生産量を減少させて全体も減少した、在来型は変わらず増加、という形でした。在来型の生産コストは当時急落した原油価格よりも下だったということも想像できます。
このように考えれば、米国の原油生産量の合計は、原油価格急落時でも大きな増減産が見られなかった低コストの在来型が一定の速度を保って増加している状況に変わりがなければ、この在来型の緩やかな増加の流れに、シェール主要地区の原油生産量の増減が加減される、つまり、緩やかで大きな在来型の増加の波をメインの波として、シェール主要地区の生産量が上乗せ・下振れ分を作る、というようなイメージになると考えられます。
ただ、述べたいのは、シェールが世界の原油供給のスウィングプロデューサーである、といった大掛かりなことではなく、シェールは“米国の”原油生産量を増減させるスウィングプロデューサーであるのではないか、ということです。
とはいえ、米国が世界の原油供給においてNo1になった(EIAのShort-Term Energy Outlookより)のは、シェール主要地区からの原油生産の貢献が大きいことから想像できるとおり、やはり今後も、世界の原油需給を大きく左右する存在である米国の、その米国の生産に影響を及ぼすシェール主要地区の原油生産の動向を重要視せざるを得ないということだと思います。
2016年12月時点の米シェール主要地区の原油生産量はおよそ471万バレル/日量(4.71百万バレル/日量)でしたが、米シェール主要地区を仮に1つの国と見立てた場合、どのような状況になるでしょうか。
図:2016年12月の世界の原油生産量の上位10位 米国を、在来型・シェール主要地区に分割。分割の仕方は上述のとおり。
米国のシェールオイル主要生産地区は、2016年12月時点でOPECの主要加盟国であるイラクやイランを超える供給能力があったことが分かります。現在の見込みを当てはめれば、2月にシェール主要地区の生産量は4.75百万バレルに増加することから、カナダの生産量が変わらなければ、順位が4位に上がることとなります。
冒頭のとおり、(米国の原油生産を左右する鍵を握る)米シェールオイル主要生産地区の原油生産量は増加する見込みとされています。
トランプ政権の下、エネルギー政策がどんどん推し進められれば、“需給ではなく政策によって”従来型もシェールも、その生産が拡大する可能性はあるのかもしれません。
次週以降、主要地区の地区別の傾向にもふれてみたいと思います。
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