• 直前になって風向きが変わった産油国会合
  • 今後サウジが立ち向かうべき課題は3つ
    課題①:OPEC加盟国内で生産枠の調整
    課題②:ロシアとの再調整
    課題③:米シェールオイル復活へのけん制

 

サプライズでした。

 

難しいと見られていた産油国の会合が合意しました。

「OPEC、8年ぶり減産で合意」というニュースを目の当たりにし、様々な情報源を見ながらしばらく考えていました。

ふと思ったのは、「誰が」「何に」「どのように」合意したのか?ということを置き去りにしたまま、「合意」だけが先走っていないだろうか?ということと、これからどのような新しい課題が待ち受けているのだろうか?ということでした。

つまり、当初の想定が大きく異なって会合が終了したからです。

表①:今回の会合の予定と実際

出所:筆者作成

これはだいぶ当初の予定とは異なる内容です。

ロシアはなぜ合意しなかったのでしょうか?なぜ合意内容が増産凍結から減産に変わったのでしゅうか?なぜ非公式だったものが公式になったのでしょうか?

そしてこの変化がもたらす課題はどのようなものなのでしょうか?

表②:会合前後の流れ

出所:筆者作成

直前になって風向きが変わった産油国会合

上記の表②より、サウジの姿勢がロシア寄りからイラン寄りになったことが伺えます。

8月8日の非公式会合実施決定のアナウンスの時点ではイランは会合に参加することを表明していませんでした。その後、9月5日・13日にサウジとロシアが接近する動きが見られました。

ただ、非公式会合の直前になりサウジがイラン寄りになったのは、ロシアは産油国の足並みが揃うことが合意の前提としており、その姿勢を崩さなかったためだと考えられます。これによって、非公式会合の前日の27日(火)にサウジの当局者がイラン(リビア・ナイジェリアも)について現状からの更なる増産を容認することを表明しました。

ロシアとの交渉において、「足並みを揃える」ことがいかに難しかったかということだと思われます。

また、このイラン寄り(ロシア抜き)の決断とほぼ時を同じくして、会合そのものが非公式から、臨時会合に格上げになりました。つまり、この時点でサウジを含めたOPECはロシアを抜いたイラン寄りの決定を正式なものにすることをとしたことになります。

さらに、合意の内容は、「増産凍結」ではなく「減産」であったことについては、価格への影響度を考慮してのことと思われます。これ以上生産量を増やさないとする「増産凍結」よりも、生産量を減らす「減産」の方が価格を押し上げる効果が大きいと考えられるためです。

図:各国の石油輸出による収入と原油価格の推移

出所:UNCTADのデータより筆者作成

上図より、サウジアラビアとロシアの石油輸出による収入と原油価格の動きが同じような格好になっていることが分かります。

特にサウジアラビアにおいては、直近の石油輸出による収入が2009年の水準を下回る状況となっており、同国の財政が非常に厳しい状況に陥っていることが伺えます。(上記のデータは2015年までですが2016年も原油価格が大きく上昇しているわけではないため、収入が劇的に改善はしていないものと思われます。)

サウジアラビアもロシアも、原油価格の上昇により外貨獲得を増やすことが急務であることには違いはありませんがその手段として、サウジアラビアはロシア抜きでも先ずは減産をアナウンスし(合意であり実施ではありませんが)、目先の価格の反発を期待したいと考えた節があるように思えます。

今後サウジが立ち向かうべき課題は3つ

今回の選択を受け、サウジアラビアが11月30日のOPEC総会までに取り組むことは以下の3点になろうかと思われます。

課題①:OPEC加盟国内で生産枠の調整
課題②:ロシアとの再調整
課題③:米シェールオイル復活へのけん制

仮に、サウジアラビアが今年行ってきたおよそ60万バレル/日量の増産分の中から40万バレルを生産余地としてイランに渡すことで、イランは400万バレルまでの生産枠(400万バレルまであと残りおよそ40万バレル)を得ることができます。ただ、サウジアラビアはOPECとして減産へ一歩近づくことができますが、これでも全体としてあと50万バレル/日量の削減分をねん出しなければなりません。

さらに、課題②についてはハードルが高いように思えます。ロシアが今回の会合から離脱した理由と考えられる「産油国の足並みが揃わない」という課題です。

また、課題①を、組織内での融通ではなく、各国が減産(少なくとも増産凍結?)という足並みを揃えた解決に導かなくては、課題②に取り掛かれない可能性があると考えられます。

ロシアがOPECの組織内での生産枠の融通を認めるかどうか、決裂した4月の会合を含め、これまでの経緯から難しいと考えられるのではないかと思います。

そして、仮に今回の減産合意による将来の生産量減少を期待した原油価格のさらなる上昇が見られれば、今度は米国のシェールオイル生産の復活という3つ目の課題が出てくる可能性があり、さらに難しいかじ取りを迫られることも考えられるかと思います。

このように考えれば、今回の会合の結論である「OPECの8年ぶりの減産合意」は、かえってサウジが立ち向かわなくてはならない課題を大きくしたと言えるのかもしれません。

減産に合意できたものの、その後の交渉が難航している、減産を実行できなかった、という展開も想定しておきながら、まずは11月30日の定時総会まで、サウジ、イラン、ロシア、米国の動向に注目していきたいと思います。

(参考)

米エネルギー省が公表している見通しを元に作成した、2016年12月以降、OPECにより70万バレルの減産が行われた場合の原油の需給バランス

出所:米エネルギー省(EIA)のデータを元に筆者作成