• 急伸の最大の要因は“ドル強含みムードの後退”
  • 進行してきた“供給過剰の解消“
  • 再び増加し始めた“ETF残高と投機買い“

 

国内外の金(ゴールド)価格が上昇している。

 

2月12日(金)、ドル建ては一時、1,263ドル超、円建てでは4,447円/グラムまで上昇している。(ともに先物中心限月)

図1:ドル建て金チャート 短期・日足 (単位:ドル/トロイオンス)

出所:各種データソースより筆者作成

図2:円建て金チャート 短期・日足 (単位:円/グラム)

出所:各種データソースより筆者作成

図3:ドル建て金チャート 長期・月足 (単位:ドル/トロイオンス)

出所:各種データソースより筆者作成

図4:円建て金チャート 長期・月足 (単位:円/グラム)

出所:各種データソースより筆者作成

今週行われたイエレン議長の議会証言は、今後の米国の利上げのペースの鈍化を連想させる内容となった。

複数の米国の経済指標が示す足元の同国の経済の弱含みが、2015年12月に発表されて以降の利上げムードに大きく水を差す展開となっている。

同時に、中国の景気減速懸念の高まり、欧州・日本の金融緩和ムードの高まりなどを受け、さらに米国は利上げから遠ざかっているようである。

急伸の最大の要因は“ドル強含みムードの後退”

足元の価格反発が示すとおり、米国の景気の弱含み、利上げムードの後退が生んだドルの弱含みおよび米国の金利低下は、金(ゴールド)価格を反発させる要因になっているようである。

順調な景気回復傾向、そして今後のさらなる回復を見込んで利上げに踏み切った米国は、2016年も世界景気をリードするけん引役となると期待されていたものの、ここにきてそのムードが大きく後退している。

この米国が世界経済をけん引するというムードの後退という、ある意味、世界の景気回復への唯一といっても良い拠り所を喪失した失望にも似たムードは、底の深さを推し量ることも困難な“中国の景気減速懸念”や、再びはやされ始めた“緩和競争の激化”、などの従来からの負のスパイラルの構成物の“プラスアルファ”となっていると考えられよう。

このような状況の中、“危機時の逃避先”として米国債、円、そして金(ゴールド)が物色され、時を同じくして“危機のバロメータ”であるVIX指数が上昇するという状況は、現在が“金融危機入りしたことを示唆している”としても過言ではないのかもしれない。

本レポートでは、逃避先として物色されているとみられる金(ゴールド)の、基本的な需給の状況を中心に、足元の価格動向、投機資金の動向を確認していくこととする。

図5:米国債利回り(右軸 単位:%)とドル建て金価格(左軸 単位:ドル/トロイオンス)

出所:各種データソースより筆者作成

図6:日本国債利回り(右軸 単位:%)と円建て金価格(左軸 単位:円/グラム)

出所:各種データソースより筆者作成

図7:VIX指数の推移

出所:各種データソースより筆者作成

図8:ドルインデックスの推移

出所:各種データソースより筆者作成

進行してきた“供給過剰の解消“

2月11日(木)に、世界的な金の調査機関であるワールドゴールドカウンシルが公表した最新の需給データによれば、金の需給バランスは、供給過剰が解消する方向に向かってきたことを示している。

図9:金の需給バランス:年単位 (単位:トン)

出所:ワールドゴールドカウンシルのデータより筆者作成

図10:金の需給バランス:四半期単位 (単位:トン)

出所:ワールドゴールドカウンシルのデータより筆者作成

図9の年単位の需給バランスによれば、2003年以降のピークから年々供給過剰の度合は低下傾向にあり、2015年はほぼ供給と需要のバランスが一致(リバランス)した状況となっている。

また、図10の四半期単位の需給バランスによれば、2014年第4四半期および2015年第2四半期に一時的に供給過剰感が高まったものの2014年年初から2015年年末にかけては概ね供給過剰感は解消方向に向かい、2015年第3・第4四半期では需要が供給を上回りその度合を増していることが分かる。

金の需給バランスは、年単位で見た場合、供給過剰感が解消方向に向かっており、四半期単位で見た場合、すでに需要が供給を上回り始めてきているということである。

つまり、時間の経過とともに、コモディティ(商品)相場の変動要因で最も重視される「需要と供給のバランス」において、金では、引き締まる方向に進んでいる、と言えるのではないだろうか

供給面で特に需給バランスの引締めに寄与していると思われるのがリサイクルからの供給である。

2010年前後をピークに、2012年以降は減少に転じている。金価格の下落傾向が続いていたことで一部の不採算リサイクル事業からの供給が減少したものと思われる。

図11:リサイクルからの供給 (単位:トン)

出所:ワールドゴールドカウンシルのデータより筆者作成

一方、以下は消費面(インドの宝飾需要、中央銀行の売買)の推移である。

図12:インドの金の宝飾需要の推移 (単位:トン)

出所:ワールドゴールドカウンシルのデータより筆者作成

インドの宝飾需要の大きな割合を持つ同国の農村部の個人の消費について、農産物価格の下落が同地域の金消費量を押し下げるとの見方が出ていたものの、2009年以降増加傾向となり、2015年は2010年・2014年に次ぐ高水準となった。

また、FRB、日銀、イングランド銀行などの各国の中央銀行の売買では、2010年以降、買い越し幅が高水準で推移している。

図13: 中央銀行の売り買い(ネット) (単位:トン)

出所:ワールドゴールドカウンシルのデータより筆者作成

上記のデータより、金の需給はここ数年、引き締まり感を見せており、その需給の引き締まりは一般的には価格を上昇させる方向に作用することから、このような需給要因が、世界に蔓延する不安・懸念などの心理面による購買意欲の高まり以外の今後の金価格をサポートする要因となると考えられよう。

再び増加し始めた“ETF残高と投機買い“

先述のドルの動向・米国経済の弱含みなどによる金への資金逃避、および需給バランスにおける供給過剰の解消などにより、金価格の反発傾向が見られはじめてきているが、その最中、投機筋の買い越し幅の増加、金ETFの残高の回復の傾向が出てきている。

図14:投機玉の買い越し幅の推移 (単位:枚)

出所:CFTC公表データより筆者作成

図15:ETFの残高の推移 (単位:トン)

出所:各種データソースより筆者作成

図14の投機筋の買い越し幅の推移については、あくまでも短期的な値動きの要因と考えられる。(短期的とはいえ)買い越し幅が増加することは投機筋が短期的な価格反発を見込んでいること、短期的であるにせよ市場で買いが増加していることを意味するものと考えられよう。

また、図15の金ETF残高増加について、取引が活発化した2003年から残高減少が鮮明になった2010年まで、同残高は金価格急騰・高止まりの立役者であった。

このため、直近でのETF残高増加は、金価格の先高感を見込んだ買い手(主に長期のスパンで投資を行う投資家)が金を購入しているということの表れともいえよう。