• 各機関が公表する“見通し”を参照する際は、修正の過程にトレンドや一貫して変わらない事象がないかに注目すべき
  • 「原油供給過剰の解消」のタイミングは、1年後ろ倒しになり2017年初旬の見込みに
  • EIAが公表した直近13回分の見通しから分析する、2016年の「生産」「需要」「在庫」

【生産面】米国の生産は減少見込みへ。一方、OPECは増加傾向
【需要面】米国の需要増加を背景に、夏場ごろ世界需要は2016年のピークを迎えるか
【在庫面】米国の在庫は年後半に減少見込み

1月10日(日)に行われた「新春講演会」内の特設ブースセミナーで、
「2016年の原油相場を見通すためのアイディア集」をお話しさせていただきました。
資料はこちらからご覧いただけます。

 

今回のレポートでは、EIA(U.S. Energy Information Administration:米エネルギー省エネルギー情報局)が公表しているSTEO(Short Term Energy Outlook :エネルギー短期見通し)を参照し、今後の原油価格の動向を探るヒントを得たいと考えている。

 

EIAのSTEOは、年に1回あるいは半年・四半期・3か月に1回、などの頻度で公表される統計とは異なり、毎月1回という上記の頻度に比べて比較的短いスパンで公表される部類に入る。

このため、長い間隔が空いて公表される統計に比べ、STEOは直近のマーケットの動きやファンダメンタルズを比較的反映しているのではないかと考えられる。

STEOの内容には、原油の需要・供給についての過去・現在および翌年末までの毎月の需給の見通し(数値)が含まれており、1月12日(火)に公開された最新版では、世界・主要国それぞれの生産・消費について2016年1月から2017年12月までの各月の見通しが記されている。

今回のレポートでは2016年の需給の見通しについて、過去1年間の各月に公表された予想がどのように修正されて現在に至ったか、1年間の見通しの“変化”に着目することとしたい。

各機関が公表する“見通し”を参照する際は、修正の過程にトレンドや一貫して変わらない事象がないかに注目すべき

見通しは米国の公的な機関であるEIAが信頼できると判断した情報元を元に、長い年月をかけて蓄積してきたノウハウの中から計算された見通しであると思われるが、見通しはあくまで見通しであり、単月のだけの見通しを鵜呑みにすることはできない。

EIA自身、自らの計算等の根拠に基づき、自らの見通しを修正しているが、その見通しの“変化”にトレンドがあるのであれば、そのトレンドに着目することは、今後の原油価格の今後を考える上でのヒントになるのではないかと考えている。

見通しの修正のトレンドとは、例えば、OPECの原油生産量の見通しについては以下のとおりである。

OPECの原油生産見通しの推移と変化

図1: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年のOPECの原油生産量の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 生産見通しが公表される毎に引き上がる傾向にある。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 年初比、年末は生産が増加。

という具合である。

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
“一貫して変わらない事象がある”

上記2つの特徴は、単月で公表されるその時点での見通しとは異なり、その前後に公表された見通しを考慮しているため、単月の見通しのみを参照するよりも確度が高い情報が期待できると考えている。

以下は、2016年1月12日(火)に公表された、2016・2017年の世界の原油需要と供給、およびそのバランスの見通しである。

「原油供給過剰の解消」のタイミングは、1年後ろ倒しになり2017年初旬の見込みに

図2: 2016年・2017年の世界の原油供給・需要および需給バランスの見通し

単位:世界供給・需要(左軸)、需給バランス(右軸)いずれも百万バレル/日量

出所:2016年1月12日(火)公表のSTEOより筆者作成

図2のとおり、世界の原油需給の見通しについて、2016年1月12日(火)のSTEOによれば、原油価格の下落の主な要因の一つである、「世界的な供給過剰」は、2017年以降に解消するとされている。

世界の原油需要・供給ともに増加見通しであるが、2016年の年初から年後半にかけて、需要の増加が供給の増加を上回り、2017年2月に需要が供給を上回る見通しである。

この統計より、長らく原油価格を弱気にさせた「世界的な供給過剰」が2017年初頭に解消するのであれば、原油価格の反発は2017年以降になるのか?という考えが浮かんでくるが、このデータはあくまで見通しであること、そして何より、この見通しは1月12日に公表されたその時点でのみの見通しであることを考慮する必要があるため、この統計だけをみて原油価格の反発の時期を探るのは難しいものと思われる。

例えば、2015年1月13日(火)に公表されたSTEOより作成した以下の図2を見てみると、「世界的な供給過剰」は2015年後半に解消すると見込まれている。

図3: 2015年・2016年の世界の原油供給・需要および需給バランスの推移見通し

単位:世界供給・需要(左軸)、需給バランス(右軸)いずれも百万バレル/日量

出所:2015年1月13日(火)公表のSTEOより筆者作成

図2と図3より、「世界的な供給過剰」が解消するタイミングの見通しは、2015年の1年間の月日を経て、1年以上、後ろ倒しになったことを表している。

図1の2016年・2017年の見通しだけを見て、供給過剰の解消が2017年であるとは到底言えないのであり、あらためてここで、これらのデータはあくまで見通しであり、その見通しは当然のごとく、それまでの、およびこれからの予想を含んだファンダメンタルズを反映しながら修正されていく、ということを意識しておかなければならない。

「世界的な供給過剰」の解消のタイミングは、今後、月に1回公表されるSTEOにおいて、見通しが後ろ倒しにもなりながら、実際に供給過剰の解消という時を迎える、というイメージになるのではないかと考えている。

先のOPECの原油生産量の例にならえば、以下のとおりとなるだろう。

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 供給過剰が解消するタイミングが後ろ倒しになっていっている。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 供給過剰は解消する見込みである。

見通しが修正されるということは、供給過剰の解消が前倒しになる、あるいは解消されない、という可能性を含んでいるが、ここで“解消する”としたのは、2015年1月に公表された見通しも、2016年に公表された見通しも、タイミングにずれはあれども、ともに“解消する”ことを示唆するものであったためである。

このように、定点での見通しを参照するだけではなく、「変化することが前提の“見通し”が推移・変化する上でトレンドが生じている事象はないか?一貫して変わらない事象はないか?」を見ていくことが重要なのではないかと考えており、この観点に立ち、以下のとおり、2016年の原油需給の見通しを示した、2015年1月から2016年1月までのSTEOのいくつかの重要と思われる項目を、「生産」「需要」「在庫」の見通しの推移を追い、その傾向を探ることにした。

EIAが公表した直近13回分の見通しから分析する、2016年の「生産」「需要」「在庫」

【生産面】米国の生産は減少見込みへ。一方、OPECは増加傾向

2016年の原油生産は、OPEC生産増加、米国・非OPEC生産減少などの個別の状況をこなしながら、年後半は全体的に減少する見通し。OPECの生産量については見込みがさらに引き上げられ、米国の生産量については見込みがさらに引き下げられる可能性があろう。

  • 世界の原油生産量は2016年2月から10月まで増加、10月から年末まで減少の見通し。
  • 米国の原油生産は公表される毎に見通しが引き下がる傾向にある。
  • 米国の原油生産は2016年9月から年末まで生産が増加する見通し。
  • OPECの原油生産見通しは公表される毎に引き上がる傾向にある。
  • OPECの原油生産は、2016年まで徐々に増加見通し。
  • 非OPECの原油生産は57.0百万から59.0百万バレル/日量で推移した2015年の見通しと比べ、2016年1月での予想が大きく下方修正されている。
  • 非OPECの原油生産は2016年2月から8月まで供給が増加、10月から年末まで減少する見通し。

世界の原油生産量の見通しの推移と変化

図4: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年の世界の原油生産の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 特になし

“一貫して変わらない事象がある”
→ 世界の原油生産量は2016年2月から10月まで増加、10月から年末まで減少の見通し。

米国の原油生産の見通しの推移と変化

図5: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年の米国の原油生産の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 米国の原油生産見は公表される毎に見通しが引き下がる傾向にある。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 米国の原油生産は2016年9月から年末まで生産が増加する見通し。

OPECの原油生産見通しの推移と変化

図6: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年のOPECの原油生産量の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ OPECの原油生産見通しは公表される毎に引き上がる傾向にある。

“一貫して変わらない事象がある”
→ OPECの原油生産は、2016年まで徐々に増加見通し。

非OPECの原油生産量の見通しの推移と変化

図7: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年の非OPECの原油生産量の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ (数か月単位のトレンドではないが)非OPECの原油生産は57.0百万から59.0百万バレル/日量で推移した2015年の見通しと比べ、2016年1月での予想が大きく下方修正されている。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 非OPECの原油生産は2016年2月から8月まで供給が増加、10月から年末まで減少する見通し。

【需要面】米国の需要増加を背景に、夏場ごろ世界需要は2016年のピークを迎えるか

2016年の原油需要は見込みが上振れする傾向にある。特に米国の需要増加などにより年の中頃に増加する傾向が見込まれる。中国は年初の増加からほぼ横ばいで推移する見込み。

  • 世界の原油需要は公表される毎に引き上がる傾向にある。
  • 世界の原油需要は2016年1月から5月は横ばい、5月から9月まで増加、9月から年末まで減少する見通し。
  • 米国の原油需要は2016年4月から8月まで増加・9月から年末にかけて需要は上下する見通し。
  • 中国の原油需要は、2016年年初弱含むも2月から4月まで増加・5月以降は年末の若干の減少を除き、ほぼ横ばいで推移する見通し。

世界の原油需要見通しの推移と変化

図8: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年世界の原油需要の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 世界の原油需要は公表される毎に引き上がる傾向にある。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 世界の原油需要は2016年1月から5月は横ばい、5月から9月まで増加、9月から年末まで減少する見通し。

米国の原油需要見通しの推移と変化

図9: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年米国の原油需要の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 特になし。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 米国の原油需要は2016年4月から8月まで増加・9月から年末にかけて需要は2016年の高水準で上下する見通し。

中国の原油需要見通しの推移

図10: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年各月の中国の原油需要の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 特になし。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 中国の原油消費は、2016年年初弱含むも2月から4月まで増加・5月以降は年末の若干の減少を除き、ほぼ横ばいで推移する見通し。

【在庫面】米国の在庫は年後半に減少見込み

2016年の原油在庫見通しは絶対量は引き上がる傾向にあるものの、年後半に減少する見通し。

  • 米国の原油在庫見通しは公表される毎に引き上がる傾向にある。
  • 米国の原油在庫は2016年年初から一旦減少し、2月から5月まではやや増加・9月から12月は減少する見通し。
  • OECDの原油在庫見通しは公表される毎に引き上がる傾向にある。
  • OECDの原油在庫は2016年1月から5月までの在庫はやや増加・12月は減少する見通し。

米国の原油在庫見通しの推移

図11: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年各月の米国の原油在庫の見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ 米国の原油在庫見通しは公表される毎に引き上がる傾向にある。

“一貫して変わらない事象がある”
→ 米国の原油在庫は2016年年初から一旦減少し、2月から5月まではやや増加・9月から12月は減少する見通し。

OECD原油在庫見通しの推移

図12: 2015年1月から2016年1月までの間に公表された2016年各月のOECDの原油在庫見通し(単位:百万バレル/日量)

出所:EIA公表のSTEOより筆者作成

“見通しの変化において何かの事象に一定のトレンドが生じている”
→ OECDの原油在庫見通しは公表される毎に引き上がる傾向にある。

“一貫して変わらない事象がある”
→ OECDの原油在庫は2016年1月から5月までの在庫はやや増加・12月は減少する見通し。