- 続伸するプラチナ“指輪”価格
- 増加する加工等のその他コストの割合、下落する原材料コストの割合
- 直接or間接、加工or未加工、さまざまなプラチナの買い方。今は直接・未加工が適している!?
足元、日本国内の金融機関や商社では手持ちのプラチナ在庫が足りなくなっていると報じられている。
今年7月、約2年半ぶりにプラチナ価格(先物)が4,000円/グラムを割り込み、割安感がでたことが主な要因とされている。
日本国内のプラチナをめぐる動きについては先週このレポートで、世界の需給を語る上で日本人の買い(プラチナ版“ミセスワタナベ”の買い)の存在が高まっていることを記した。
このような国内のプラチナ現物に関わる会社の動きが活発化している折、貯蓄・投資向けの用途ではなく、宝飾品としてのプラチナの価格にも注目が集まろうとしている。
プラチナの宝飾品としての用途は、需要全体のおよそ2割を占めている。同じ貴金属の金(ゴールド)と異なり、プラチナは自動車の排ガス浄化の触媒や電子部品を中心とした工業用の用途の割合が半数以上を占める。
この工業用の用途に次いで多い宝飾用としての需要は、日本や北米、近年では中国でも需要が高まっている。
通常、指輪などの宝飾品として用いられる場合、主に強度を増す目的である割金(わりがね)としてパラジウムが用いられるケースが多い。
宝飾品に記載されている純度を示す値で、Pt900のアクセサリーは、プラチナ90%、パラジウム10%。Pt950はプラチナ95%、パラジウム5%でできているということである。
Pt900もPt950も、“プラチナの宝飾品“として販売されているわけであり、当然のことだが原材料の90%以上がプラチナ地金である。
しかし、宝飾品である以上、加工・デザイン・記念品などとして扱われる場合に何かしらのプレミアムが付加されるなど、原材料のプラチナ(および割金であるパラジウム)価格に、さまざまなコストが上乗せされて販売されていることはいうまでもない。
このため、プラチナ地金の価格とプラチナ宝飾品の価格の推移が異なるケースが発生する。
続伸するプラチナ“指輪”価格
総務省統計局が公表している小売物価統計調査では、“指輪“の価格についてレポートされている。
これはPt900(2013年1月以降はPt950)の9号から11号の、プラチナの指輪1個の価格の地域別の価格の平均を調査したものであり、以下は特別区市(首都圏)の平均価格の推移である。
図1:首都圏のプラチナ指輪1個の平均価格の推移 (単位:円 税抜)
調査では平成25年1月(2013年1月)以降はPt950を採用している。このためそれ以前の基準であるPt900に平仄を合わせるため、筆者によって換算した推定値(2013年1月以降の青線)を掲載している。
図2:本レポート作成に使用したデータ(筆者推計を含む)
※密度をプラチナ21.45g/cm3(0.046cm3/g)、パラジウム12.02g/cm3(0.083cm3/g)として計算。体積は9号を0.176cm3、11号を0.201cm3と仮定。
図1のとおり、プラチナ“指輪“の価格は上昇傾向にあるといえる。
以下の図3は、このプラチナ“指輪”価格と、プラチナ現物価格の動きを指数化したものである。
図3:プラチナ“指輪”首都圏1個当たり平均(単位:円 税抜)と東京商品取引所のプラチナ先物(期近 日足データの月毎の中央値 単位:円/グラム)のそれぞれ、2008年7月を100として指数化したグラフ
2001年から2008年ごろまでは、プラチナ価格(オレンジ線・右軸)と、プラチナ“指輪”価格(1個あたり首都圏平均)はともに上昇し、「原材料高・製品高」という通常の構図となっていた。
しかし、2008年9月のリーマンショック後、プラチナ価格が急落。この急落を機に、宝飾品としての“指輪”のプラチナ価格と、プラチナ現物価格は乖離が生じ、現在でもその「原材料安・製品高」という構図が続いており、特に今年に入ってからは“指輪”価格高止まり、現物価格下落という傾向が強くなっている。
この変化の理由には例えば以下の点があげられよう。
- 景気低迷が長期化し、宝飾品関連会社の人件費や諸コストをまかなうために値下げすることができない
- 宝飾品であるがゆえ、「値下げ」は宝飾品としてのイメージを損ねかねず、原材料価格が安くなったとしても値下げが行われにくい。
- 現物価格が下落していることが意識されず、現物価格の下落とかい離する売値でも購入する動きが継続している。
図4:指輪1個の税抜価格に占めるプラチナコストの比率
指輪の価格に占めるプラチナのコストの比率は概ね、20%弱から30%前後で変動しており、現在はその下限付近で推移している。
一方、図1のとおり“指輪”の価格は年々上昇しており、このことは、プラチナ現物価格の下落が、末端の製品価格に反映されておらず、原材料以外のその他のコストが年々増加していることを意味している。
図5:指輪1個の価格(税抜)に占める、その他のコスト(赤)とプラチナコスト(青)ともに推計値
“その他コスト”は、「指輪1個の価格(税抜)-原材料の貴金属(プラチナ+パラジウム)コスト」より筆者推計。
直接or間接、加工or未加工、さまざまなプラチナの買い方。今は直接・未加工が適している!?
プラチナに投資する投資の仕方はバラエティに富んでいる。
長期的に値上がりを見込んでプラチナそのものを購入する、プラチナ価格に連動するETF・ETNを購入する、プラチナに関わる会社の株式を購入する、先物取引所に上場しているプラチナ先物を買うなどであり、ある意味、プラチナの宝飾品を保有することも運用・投資の一環と言えるのかもしれない。
本レポートで述べたとおり、宝飾品としてのプラチナは今のところ、原材料の貴金属コストの割合が低く、その他のコストの割合が高い傾向があるものと推測される。(あくまで筆者個人の推測であるが)
この推測に基づけば、(記念日やプレゼントとしての装飾品ではなく)プラチナを長期的な資産として保有するには“現在”の宝飾品はなじみにくいように思われる。
このような局面ではできるだけ、その他のコストがかかりやすい指輪などの加工品ではなく、プラチナそのものに近いものでの保有が望ましいと個人的には思う。(※もちろん、保有する手法によって生じるコストやリスクはさまざまであるため十分注意が必要である)
価格が下がった値ごろ感から国内でプラチナ人気が顕在化しはじめている昨今、同じプラチナを保有するとしても、それが加工品であるのか、プラチナそのものなのかを気を付けて見てみる必要があろう。
宝飾品に占めるその他のコストの割合が高い時は、現物あるいはそれに準じるプラチナを保有し、その後、例えば宝飾品に占めるその他のコストの割合が低くなり、かつその時にプラチナ現物価格が上昇していた場合、初めに買ったプラチナを売却して利益を確定し、プラチナ現物価格という実態をできるだけ反映した宝飾品を、得た利益を使って購入して大切な人のために宝飾品をプレゼントするというシナリオ・・・。
これはまさに、プラチナ現物価格が下落する中、「続伸するプラチナ“指輪”価格が教えてくれること」であろう。
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