• 「需要増加・鉱山生産横ばい」という長期的な傾向には変化なし
  • 宝飾、自動車触媒の2大需要は増加傾向。2015年の宝飾需要は過去最大レベルの見込
  • 2015年の南アフリカ鉱山生産量は増加見込。それでも世界の需給バランスは需要>供給
  • 減少傾向の中国の宝飾・自動車触媒需要は、先進国の需要によって補われている

「需要増加・鉱山生産横ばい」という長期的な傾向には変化なし

1975年から1999年ごろまでは、需要合計と鉱山生産の値がほぼ同一だった。

この間は、世界の需要を鉱山生産でまかなうことができていた、ということである。

しかし、2000年以降、需要はそのままリーマンショックを経ても増加が続いている一方、鉱山生産は伸び悩み、鉱山生産だけで需要をまかなうことができなくなっている。

現在はリサイクルによる供給が供給全体の約25%を占めるようになり、鉱山生産だけで補いきれていない部分をカバーしているという状況である。

図1:プラチナの鉱山生産量と需要合計の推移(単位:千トロイオンス)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

「鉱山生産+リサイクル」で世界の需要をまかなうようになり供給の構造に変化が生じた2000年以降、国内外のプラチナ価格はこれまでの値動きのレンジを切り上げる動きとなっている。

図2:国内外のプラチナ価格
(単位:円建て(左)円/グラム ドル建て(右)ドル/トロイオンス)

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

宝飾、自動車触媒の2大需要は増加傾向。2015年の宝飾需要は過去最大レベルの見込

宝飾と自動車触媒需要は、世界のプラチナの2大需要である。

図3:世界のプラチナ需要(2014年)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

この2大需要である宝飾・自動車触媒需要は増加傾向にある。

図4:宝飾と自動車触媒需要の推移(単位:千トロイオンス)2015年は予想

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

宝飾・自動車触媒需要ともに長期的に増加傾向にある。

1995年ごろから2010年ごろまでは、どちらかが減少してもどちらかが増加する動きがみられるなど、総じて、世界全体のプラチナ需要をけん引している格好となっている。

特に宝飾需要については、2014年に2000年前後の最高水準を上回り、2015年においてもそれを上回る上昇見込みとなっている。

2015年の南アフリカの鉱山生産はピークの約25%減見込み

足元、南アフリカの生産増加が指摘されている。

増加見込みとなっていることは以下のデータにも反映されているが、注目したいのはそのレベルである。

図5: 南アフリカの鉱山生産の推移(単位:千トロイオンス)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

2015年は足元の自国通貨安などにより供給増加が見込まれてはいるものの、そのレベルはまだ2006年のピークの75%程度である。

また、他の生産国を含めて長期的にみれば、生産国2位のロシアの生産は2000年前後をピークにゆるやかに減少傾向である。その他の国も目立って鉱山生産量が増加していない。

図6: プラチナの鉱山生産量の推移(単位:千トロイオンス)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

これらの鉱山生産にリサイクルからの供給を加味した総供給と総需要との関係は以下のとおりである。

需給バランス=総需要(宝飾・自動車触媒などの各カテゴリの合計)-総供給(鉱山生産とリサイクルの合計)

図7: 世界の需給バランスと南アフリカの鉱山生産量 ※2015年は見込み
(単位:需給バランス、南アフリカの鉱山生産量ともに千トロイオンス)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

2012年以降、需要が供給を上回る状況が続いており、2015年も引き続き需要が供給よりも多い状況が継続するものと見込まれている。

また、供給が需要を上回った2006年や2009年、2011年は南アフリカの鉱山生産量が4,600から5,000千トロイオンスのレベルであり、現在見込まれている2015年の4,060千トロイオンスの生産量では世界の需給バランスを供給過剰にすることはできないと考えられる。

2大需要の増加見込みも重なり、世界の需給バランスは引き続き需要が供給を上回る状況が予想されていることに注目していきたい。

減少傾向の中国の宝飾・自動車触媒需要は、先進国の需要によって補われている

先述の図4にて、宝飾・自動車触媒需要が長期的に増加傾向にあることを示した。

以下の図はWorld Platinum Investment Council という世界のプラチナの需給データ等を公開している機関の2013年と2014年の宝飾・自動車触媒需要の推移、および2015年のこれらの需要の予想である。

図8: プラチナの宝飾需要 (単位:千トロイオンス)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

図9: プラチナの自動車触媒需要 (単位:千トロイオンス)

出所:World Platinum Investment Council のデータより筆者作成

2013年から2014年にかけて、宝飾・自動車触媒ともに中国の需要は減少している。

一方、両需要において需要が増加したのは、中国の減少分を宝飾需要では北米、自動車触媒需要では北米・欧州・日本などの先進国の需要が補い、プラスアルファを作り上げたためである。

2015年の各需要の合計の予想はともに増加となっており、足元の中国の状況等を勘案すると、中国の需要の減少および先進国の需要増加という2013年から2014年にかけて見られた傾向が2015年も継続するものと考えられる。

中国の景気減速による需要減少についてはさまざまなニュースで報じられているとおりだが、その一方で、先進国(宝飾需要ではインドも)がプラチナの2大需要をけん引する構図が生じていることも念頭におきたい。

本レポートを通じて、プラチナの世界的な需給について触れてきたが、供給面では南アフリカの鉱山供給が増加してはいるものの、その増加がただちに世界のプラチナの供給過剰には結び付くレベルではないと考えられること、需要面では中国の需要減少が指摘されている一方、先進国・インドによる宝飾・自動車触媒の2大需要の増加分がその減少分を相殺する見込みとなっていることにより、今後も世界のプラチナの需給バランスの引き締まりは継続し、価格は徐々に強含んでいくものと考えている。

※レポート内で使用しているデータについて
特にことわりがない限り、国内商品先物銘柄は6番目の限月(期先)を、海外商品先物はその時点で取引量が最も多い限月(中心限月)のデータを採用。