今回は、前回に引き続き、遺言書を書いておいた方がよいのはどのようなケースなのか、ご説明していきます。遺言書を書かないとどんな結末になってしまうか、という観点からお読みいただくと、遺言書の重要性がお分かりいただけるのではないかと思います。

<ケース5>自分自身に子供がいない

自分自身に子供がおらず、自分の両親もすでに他界している場合、法定相続人は配偶者と自分の兄弟姉妹となります。

自分の配偶者と自分の兄弟姉妹との仲がよく、ある程度の財産が兄弟姉妹に渡ってもよいというのであれば問題ありません。しかし、兄弟姉妹に財産を渡したくない(配偶者に全ての財産を渡したい)場合は、遺言書を残しておくことが非常に有効となります。

なぜなら、相続人が兄弟姉妹の場合、彼らに遺留分減殺請求権はないからです。

つまり、遺言書で「財産を全て妻(ないし夫)に相続させる」と記しておけば、兄弟姉妹には一切財産は相続されることなく、全てが配偶者の手にわたることになるのです。

<ケース6>相続人がいない

中には、自分には相続人となる人が誰もいない、という方もいらっしゃるかもしれません。相続人がいない場合、遺産は国庫に入ってしまいます(国のものになります)。でも、法定相続人はいないけれども、面倒を見てくれている親族やご近所の方など、財産を渡したい人がいるのであれば、遺言書を書いておくことが有用です。

遺言書に、「△△の財産を〇〇に遺贈させる」と記しておけば、何もしなければ国庫に入ってしまうはず財産を、生前お世話になった人に渡すことができるのです。

<ケース7>離婚・再婚している場合

自らが離婚・再婚している場合も注意が必要です。例えば夫が妻と離婚したのちに夫が死亡した場合、妻とはすでに赤の他人になっていますので妻は相続人とはなりません。しかし夫と妻との間に生まれた子は相続人になります。親同士が離婚しても、親と子との絆は決して切れることはないのです。

よく問題となるのが、離婚後再婚し、前妻との間にも、今の妻との間にも子どもを設けている場合です。

前妻との間の子どもの親権が妻にあるような場合は、今の妻との間の子どもは、前妻との間の子どもと面識すらないことが多いのではないでしょうか。下手をすると、今の妻との間の子どもは、前妻との間に子どもがいること自体知らないかもしれません。

こうした状態で自分自身が亡くなって相続が起こったとき、見知らぬ人同士で遺産分割の話し合いを行い、果たして話がまとまるか、という不安は強く残ります。

また、前妻との間の子の存在を誰も知らなかったため、その子を参加させずに遺産分割協議を済ませたものの、後からその子の存在が判明し、分割協議をやり直すはめになってしまう恐れもあります。

さらには、前妻との間の子よりも、今の妻との間の子により多く財産を残したい、といったような希望をもっている方もいらっしゃるでしょう。

そこで前妻との間にも今の妻との間にも子どもがいる場合は、遺言書を残しておき、自らが誰にどれだけの財産を相続させるかをはっきりとさせておいてあげるのが残された子どものためにもなります。

<まとめ>遺言書は自分の財産をどうしたいかを残された人たちに伝える手段

遺言書は、自分の財産をどうしたいのか、誰に渡したいのかという自らの意思を残された人たちに伝えるための手段です。そして、個々のおかれている状況・環境や財産の内容などにより遺言書が必要かどうかも異なってきます。

そして、遺言書は認知症の状態になると書くことができません。したがって、「まだまだ人生これから」という元気な時にこそ、遺言書について考えてみるべきなのです。

「私には遺言書など必要ない」とはなから決めつけるのではなく、一度専門家に相談していただき、遺言書が必要かどうか、そして必要だとしたらどのような内容の遺言書を書くべきか、検討していただきたいと思います。

そして親御さんをお持ちの方は、遺言書があることによって残された家族の無用のトラブルを防ぐことができることを伝え、遺言書の必要性を考えてもらうきっかけにしていただければと思います。