今日のまとめ
- ウクライナでのデモ行進は政治の腐敗が原因
- 天然ガス・パイプラインは腐敗の温床
- ロシアもウクライナを通過するパイプラインに依存している
- 折からロシア経済は暗転しており、外貨準備は減りはじめている
- まるく収めるのが欧州、ロシア双方にとって得策
ウクライナ問題、これまでの経緯
ウクライナは欧州とロシアの中間に位置する国で、欧州的な要素とロシア的な要素の両方を持っています。
ウクライナは2000年代の前半は旧ソ連の衛星国の中でも高い成長を示していました。しかし2009年に天然ガス・パイプラインの運営を巡ってロシアとの対立が生じ、ロシアが天然ガスの供給を止めた際には経済は大混乱しました。
それ以降、ウクライナ経済にはかつてのような勢いはありません。
一方、近隣のポーランドは欧州連合(EU)に加盟し、とりわけドイツとの経済の連携を強化したことで着実な経済発展を遂げつつあります。いわゆる「中流(ミドルクラス)」が出現し、欧米流の消費文化も芽生えています。
これに対しウクライナは天然ガス・パイプラインの利権に絡み、ごく一握りの特権的な人達が私腹を肥やし、キプロスやロンドンに資本を逃避させてきました。
ウクライナの庶民は、そのような政治の腐敗に嫌気がさしており、親露政策に傾いたヤヌコビッチ大統領に反対するデモ行進を首都キーウ(キエフ)で繰り返しました。ヤヌコビッチ大統領は首都から逃げ、ロシアに亡命しました。
今回の問題と天然ガス輸出の、切っても切れない関係
ロシアにとって天然ガス輸出は最も重要な外貨取得の途です。ロシアの天然ガスの大半はパイプラインで欧州に輸出されており、その80%はウクライナを通過します。
下のグラフはロシア最大の天然ガス会社、ガスプロムの輸出実績です。画面の右側のウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなどの国々は、旧ソ連から独立した衛星国です。それらの衛星国へは今でも市場実勢価格よりかなりディスカウントして天然ガスを売っています。
これに対してドイツ、トルコ、イタリアなどはガスプロムにとって最も良いお客さんであり、利益の大半はそれらの国々から挙げられています。
問題はそれらの顧客に天然ガスを届けるには、ウクライナを経由しなくてはならず、しかも歴史上のしがらみから彼らにはディスカウント価格を適用しているので、ウクライナは「自分の分だ」として安い値段でもらった天然ガスを有利な輸出に回し、こっそり転売益を得ることが出来る点です。
これがロシアとウクライナとの関係を複雑にしている原因であり、またウクライナに腐敗が蔓延する根本的原因のひとつでもあります。
ロシアの微妙な立場
ウクライナの南部、黒海に突き出したクリミア半島にはロシアの黒海艦隊の基地があります。セバストポリという港町なのですが、ここはロシアがウクライナから「借りている」格好になっています。
しかし親露派のヤヌコビッチ大統領が追い出され、ロシアを好ましく思わない新政権が登場すると、このロシアの軍港の立場が脅かされるようになりました。
今回、ロシアが兵員を増強したのはそのような理由によります。
クリミアでは3月16日に国民投票が行われ、ウクライナから離れ、ロシアへ帰属するかどうかが決められます。
ロシアは軍事的にはウクライナを圧倒していますし、クリミア半島の住民の過半数はロシアへの帰属を希望しているので、クリミアがウクライナから離反するのは避けられないと思います。
ただこの国民投票を巡って双方の緊張が高まった場合、ロシアは西側に対して余り強い態度に出れない事情があります。
まずロシアの最近の景気は、かならずしも良くありません。下はロシアの製造業購買担当者指数ですが、冴えません。
これをユーロ圏の製造業購買担当者指数と比べた場合、両者の差は鮮明です。
ここで若しロシアがドイツを中心とする西側各国を怒らせるとロシア産天然ガスの部分的ボイコットなどに発展する恐れがあります。その場合、天然ガスはロシアの国庫にとり大事な収入源ですので、ロシア政府の財政悪化が懸念されます。
ロシアのGDP成長率はこのところ年々、減速しており、去年はわずか1.5%成長にとどまりました。
経常収支は悪化しつつあります。
ロシアからの資本逃避が加速していることから、同国の外貨準備は減りはじめています。
シェールガスとの絡み
欧州は天然ガスの25%をロシアに依存しています。最近、アメリカでシェールガスが出始めているので、ヨーロッパとしてはロシアへの依存度を下げるという考えが出てきてもおかしくありません。実際、欧州の沿海部の液化天然ガス(LNG)再気化施設のキャパシティには余剰があります。
ただ実際には米国がLNGを大量に輸出できるようにするためには液化プラントを建設する必要があるし、LNG船も増やす必要があります。
つまり今日からすぐにLNGにスイッチすることは出来ないのです。
長期的にはLNGという代替案が現実味を帯びてきている以上、ロシアは昔のような殿様商売は出来なくなっています。
ここは対立をエスカレートさせず、何とかまるく収めるのが得策なのです。
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