今日のまとめ

  1. 新興国はリーマンショック以降の世界経済の成長の大半を稼ぎ出していた
  2. シャドー・バンキングは簿外取引かつ保証が曖昧で実態把握が困難
  3. シャドー・バンキングによる信用追加の実体経済の浮揚効果は薄れつつある
  4. 理財商品で個人投資家が損すれば、今後、理財商品は販売できなくなる恐れも
  5. 銀行が尻拭いの役目をやらされるかどうかにも注目
  6. シャドー・バンキング抑制は、既に中国のみならず新興国全般を不景気にしている

新興国は世界のGDPの「成長部分」の大半を稼ぎ出していた

2008年のリーマンショック以降、世界のGDPの「成長部分」の80%は中国をはじめとする新興国が稼ぎだしてきました。

ところが、新興国の経済成長に、今、陰りが見えています。

その一因は中国政府がシャドー・バンキングを抑え込もうとしており、それが貿易や経済全体にも影を落としているからです。

シャドー・バンキング(影の銀行)とは?

シャドー・バンキングは、直訳すれば「影の銀行」という意味です。具体的には、中国に現在、蔓延している、銀行の帳簿の外で行われる融資を指します。

そこでシャドー・バンキングの仕組みを説明したいと思います。
 
まず不動産開発業者が銀行から融資を受けたいとします。中国の不動産開発業者はどこも資金繰りに困っているので9%程度の借入金利を喜んで支払う準備があります。
 
しかし銀行は中国政府から「一定の金額以上、融資はしてはいけない」と指示されています。いわゆる総量規制です。

そこで銀行は、短期(普通90日満期)の利回り確約信託商品をこしらえます。 なおこの信託商品を理財商品と呼ぶ場合もあります。大体、6%程度の利回りが一般的です。

中国では現在、預金金利は3.3%と決められているので、この理財商品はのっけから「ルール違反している」と言えるでしょう。

国民の立場からすれば、銀行に預けていても3.3%の金利しかつかない普通預金が、ファンドを買えば6%の金利がもらえるわけだから、当然、ファンドの方が魅力的です。そこで預金をおろして理財商品に乗り換えるということが起こっています。

これらの理財商品は信託会社が組成したという登記になっています。つまり銀行本体とは別だということです。銀行本体の帳簿には、この理財商品は計上されません。

こうして6%の金利を投資家に約束し資金を集め、それを不動産開発業者に9%で貸すので、貸付利ザヤは3%になります。さらに、この理財商品をアレンジした際のフィーも儲かります。

破たん時の保証の曖昧さ、融資実態の把握の難しさ

問題は、若し貸付先の不動産会社が倒産した場合、貸したお金が帰って来るのか? ということです。

普通、銀行なら預金保険があります。
 
でも理財商品には、そういう保証は付いていません。
 
また、そもそも銀行本体の帳簿に記載されていない取引なので、融資先が健全かどうかのチェックもできません。透明性が無いのです。

拡大するシャドー・バンキング

そのようなカタチで販売された理財商品が、いまどんどん増えています。銀行融資が横ばいなのに、信託商品(=理財商品)だけがどんどん増えている点に注目して下さい。

2012年のシャドー・バンキングによる信用追加は5.87兆人民元だと言われています。

最近、借り手は新規にビルを建てるためではなく、現在抱えている借金を返済するためにシャドー・バンキングを利用しているのではないかという憶測が出ています。

そこでこれを検証します。下は中国の名目GDPの成長のグラフです。

中国はどんどん信用追加しているわけだから、普通なら、インフレを含んだ名目GDP、つまり見かけ上のGDPもどんどん増えないとおかしいです。しかし名目GDPの伸び率は信用追加の伸び率を下回っています。

そこで名目GDP成長額を信用追加額で割り算すると、昔は大体、0.8程度の伸びだったのに、今はそれが0.31に下がっている事がわかります。つまり新しい信用追加の大半が、借金の返済のために消えてしまっていることを示唆しているのです。

音楽が鳴りやむ時

これは椅子取りゲームと同じです。音楽が鳴っている間は、借り換えが出来るのですが、音楽がストップすると、誰かが金策に窮して倒産するわけです。

いま、その中国では音楽が止まりかかっています。中国政府が必死でシャドー・バンキングを喰い止めようとしているからです。しかし音楽が止まると、倒産する不動産業者が出るでしょう。

そのとき、若し理財商品を買った投資家が投資資金を全損したら……投資家は次から誰も理財商品を買わなくなってしまうのです。

こんなニュースに気を付ける事

今後、若し中国の不動産会社に倒産のニュースが出たら、それはグローバルなリスクオフ・トレードになる前兆です。直近ではアセアン株のブームがあった関係で、これが逆流するリスクがあります。

しかし中国政府は大型倒産を出さないように根回しすると思います。だから現在のような椅子取りゲームの音楽が、ずっと鳴り続ける可能性も高いです。アルマゲドンのシナリオが起こらない可能性も高いのです。

次に若し大きな不動産会社が倒産した場合、理財商品を購入していた個人投資家が、どのように扱われたか? という点に特に注目しながらニュースを追って下さい。

個人投資家が酷い目にあったと言うニュースが流れたら、もう理財商品の組成はできなくなってしまう公算が大きいです。

逆に銀行が損を被ったら、理財商品の組成は今後も出来るけれど、銀行の抱える潜在的リスクに関して、考え直さないといけなくなります。

突発事故が起こらない場合でも、既に深刻な鈍化は、はじまっている

シャドー・バンキングの破綻がドラマチックなかたちで現実のものとならなくても、既にこれまでのBRICsにおける引き締め的な中銀の対応で、新興国経済は異常な鈍化を見せています。

先ずこれまでBRICs諸国は、どちらかといえば高めに政策金利を設定してきました。

インドの場合は政策金利からインフレ率を引いた実質政策金利はマイナス2%程度で推移しており、すこしガードが緩いと言えます。中国とブラジルの実質政策金利はプラスです。

一方、先進国に目を転ずるとアメリカをはじめ超低金利がずっと続いています。FRBの債券買い入れプログラムの終了は、いずれ政策金利の引き上げの着手への含みを持たせた動きですから、金利引き上げ局面では新興国に投資された資金は逃げ足が速くなります。

つまりシャドー・バンキングの抑制で既にストレスがかかっている新興国の経済が、FRBの方針転換で追い打ち的にダメージを蒙る可能性も無いとは言えないのです。

世界の貿易は下のグラフにみられるように、最近、低調になっています。

メーカーの担当者への聞き取り調査でも中国のセンチメントの悪化が目立ちます。

新興国は既に深刻な成長の鈍化に直面している……そういう認識を持って頂きたいと思います。