今日のまとめ
- ラグジャリー・ブランドは小売業全般より速く成長している
- コーチはマイケル・コースからの競争に晒されている
- フォッシルは有名ブランドとの提携で事業を拡大している
- マイケル・コースはミドル・プライスの市場を積極開拓している
- ティファニーはゆっくりスランプから抜け出している
- トゥミはIPO以降、株価に動きが乏しい
小売市場全体より急成長しているラグジャリー・ブランドのセクター
ティファニー(ティッカーシンボル:TIF)、マイケル・コース(KORS)、コーチ(COH)などに代表されるラグジャリー・ブランドのセクターは、小売グループ全体より急成長しています。
第1四半期を例に取ると、次のようになっています。
ラグジャリー・ブランド | 小売業全般 | |
---|---|---|
既存店売上比較 | 9% | 0.2% |
売上高成長率 | 10% | 2% |
純利益成長率 | 26% | 5% |
なぜラグジャリー・ブランドの方が羽振りが良いのでしょうか?
その一因はリーマンショック以降の米国の景気対策のアプローチにあります。つまりバーナンキ連邦準備制度理事会議長は非伝統的緩和政策により主に資産価格を支えることで景気を支援してきました。
このことはアセットリッチ、つまり資産を沢山持っている人が、一足先に景気対策の恩恵に浴することを意味します(なお日本で始められたアベノミクスも同じ着眼点です)。
ラグジャリー・ブランドの主な関連銘柄は、下の表のようになります。
ティッカーシンボル | 銘柄名 | 事業内容 |
---|---|---|
COH | コーチ | ハンドバック、アクセサリー |
FOSL | フォッシル | 腕時計 |
KORS | マイケル・コース | ハンドバッグ、ファッション |
TIF | ティファニー | ジュエリー |
TUMI | トゥミ | 旅行鞄 |
コーチ(COH)
コーチは1941年にマンハッタンのソーホーの工房で創業されました。
当初は革製の財布を作っていましたが、1950年頃に野球のグローブが、使い込むほどに柔らかく、手になじみ易くなる事にヒントを得て、独自の染色、加工過程を編み出します。
1962年にボニー・カシンという革新的なデザイナーが入社し、次々に優れたデザインのバッグを発表します。
その後、同社は1985年に食品会社、サラ・リーに買収され、コングロマリット的な経営の下で低迷期を迎えます。
サラ・リーは事業再編成の一環としてコーチを分離、上場する決断を下し、2000年にゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを主幹事に立て、新規株式公開(IPO)しました。このIPOにより経営のフォーカスと活力を取り戻した同社は、それ以来、今日まで目覚ましい成長を遂げています。
現在、同社は523店舗を北米で展開するほか、日本をはじめ海外でも事業展開しています。
同社の業績は下のグラフに見られる通り、極めて安定しています。
【略号の説明】
- DPS 一株当り配当
- EPS 一株当り利益
- CFPS 一株当りキャッシュフロー
- SPS 一株当り売上高
過去5年間の平均キャッシュフロー成長率は年率18%でした。同社のグロスマージンは75%、営業マージンは34.5%、純利益マージンは21%と、極めて利幅は大きいです。株主資本利益率も49%と極めて高くなっています。また実質的に無借金経営です。
しかし同社の行く先には暗雲が立ち込めています。それは最近、マイケル・コース(KORS)という強力なライバル企業が台頭してきているからです。マイケル・コースの方が商品のウケという点ではコーチより一枚上を行っており、コーチは価格設定を少し下げてみるなどの試行を繰り返し、劣勢を跳ね返そうとしていますが、今のところ消費者と歯車が噛み合っていない印象を与えます。在庫水準も少し高くなってしまっている観があります。
これらの事を反映して、ここ1年ほどコーチ株は愚図愚図した展開になっています。
同社株は現在、2013年の予想EPSに対して15.4倍程度で取引されており、これは過去に同社株がS&P500の平均PER(株価収益率)よりプレミアムで買われてきたことを考えると割安な水準にあります。
フォッシル(FOSL)
フォッシルは1980年代に創業された比較的若い企業で、値ごろでファッショナブルな腕時計を作る会社です。自社ブランドの他に最近はDKNY、バーバリー、マイケル・コースなどのブランドと提携してそれらのブランドへ腕時計を提供しています。小売は全体の25%で、残りは卸し売りです。
フォッシルも業績的には優等生です。
同社は無借金経営で、過去5年間のキャッシュフロー成長率は年率26.5%でした。営業マージンは19.5%、純利益マージンは11.7%、株主資本利益率は25.5%です。
マイケル・コース(KORS)
マイケル・コースは「ジェットセット・ラグジャリー」というコンセプトを前面に打ち出したファッション・ブランドです。ジェットセットとはジェット機に乗って「今日はカプリ、明日はセントバーツ」という風に遊び回る人種を指します。グラマラスだけど着心地が良く、ファッショナブルだけど細かい点を気にせず、奔放で、スピード感のあるスタイルが、その目指すところです。
同社は2009年以降、過去4年間に売上高成長率が年率+49%、純利益成長率が132%と、ラグジャリー・ブランドのセクターでもダントツの成長を誇ってきました。
同社は$190から$395の価格レンジに集中的に新製品を投入しており「一般庶民も背伸びすれば手が届く」ラグジャリーというニッチを開拓しています。
この戦略がヒットして、同社の業績は大変好調です。
同社は小売が48%、卸し売りが47%、ライセンシングが5%という売り上げ構成になっています。北米に228店舗を展開中ですが、海外進出は遅れています。
営業マージンは31%、純利益マージンは17.3%、株主資本利益率は39.5%です。
同社は、ゆくゆく北米400店舗、欧州と日本にそれぞれ100店舗を展開する計画を持っています。無借金経営です。
ティファニー(TIF)
ティファニーは1837年に創業した老舗ジュエリー専門店です。1979年にエイボン・プロダクツに買収されましたが、コングロマリット的な経営の中で業績を悪化させ、アラブの投資家グループがLBOしました。その後、1987年にリーマン・ブラザーズを主幹事として新規株式公開(IPO)されました。
現在、世界で275の店舗を展開しています。地域別売上高では米州が48%、アジアが38%、欧州が11%となっています。
同社の業績は過去1年ほどスランプに陥っていました。しかし2012年第4四半期(2013年1月〆=$1.40)、2013年第1四半期(同4月〆=70¢)の二期連続して前年同期比を上回りました。
目下の業績はワーナー映画『華麗なるギャツビー』封切りに合わせたプロモーションで費用増大のため、圧迫を受けていますが、通年のガイダンスは維持されました。
同社の過去5年間のキャ州フロー成長率は9%でした。
トゥミ(TUMI)
トゥミは1975年に創業された旅行鞄のメーカーです。機能的でモダンなデザインが同社の製品の特徴です。1980年代にバリスティック・ナイロン(アメリカ陸軍の防弾チョッキの生地)を使用した、軽くて丈夫な黒いトラベルバッグを発表し、一躍有名になりました。
同社の製品はプレミアム価格であり、最多販売価格帯は$400です。
同社の売上高の43%は直営店から上がっており、現在、100店舗の直営店を展開しています。
同社は2012年4月に新規株式公開(IPO)されたため、未だ公開会社としての歴史は浅いです。
株価の方はIPOされて以降、殆ど動いていません。
売り上げ規模(2012年の実績で約4億ドル)などから考えて、同社は未だ大きな成長余地を残していると思います。
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