楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い致します。

日経平均は16,000円を挟んだ攻防。じっくりと揉んで再度高値を目指すか

2014年の株式市場は、波乱の幕開けとなりました。

日経平均は、昨年12月30日にザラ場高値16,320.22円を付け、2013年の高値を更新しました。30日終値も16,291.31円と終値ベースで高値引けしました。まさに「掉尾の一振」となりました。

ただし、2014年1月6日大発会は前年末比382.43円安と大幅安となり、日経平均は一時15,800円台に入りました。その後も16,000円を挟んでの一進一退が続いています。10日は前日比31.73円高の15,912.06円で引けました。

日経平均が年初から波乱の展開になった背景は次のように考えられます。まず、昨年末の好調な相場の反動が出たということです。11月14日に当時14,700~14,800円にあった三角保合いの上限を突破して以降、12月30日のザラ場高値16,320.22円まで1カ月半で11%の上昇、三角保合い突破前の安値、11月8日のザラ場安値14,026.17円から見ると2カ月弱で16.4%の上昇となりました。さすがにスピード調整が必要でしょう。

また、日経平均の長期足を見ると、長期の強力な上値抵抗線を日経平均が下から上に抜いたところであることが分ります。しかし、このまま一足飛びに大勢上昇波動が形成されるとは限りません。日本の株式市場は、マクロ、ミクロの様々な経済データから見て、1990年1月から23年間にわたり続いた大勢下降相場が大勢上昇相場に転換する歴史的転換点に来ていると思われます。だからこそ、より大きな上昇相場が到来するためには、相場がじっくりと揉む展開、様々な材料を丁寧に整理する時間が必要であると思われます。その意味では、16,000円を挟んだ調整は今後少なくとも2-3カ月続く可能性もあります。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

日本はマイナス金利になっている。基本的に相場は強いと思われる

もっとも、上述のように、今後数カ月間日経平均は調整する可能性はあるものの、マクロ経済データと企業業績を見る限り、株式市場は基本的には強い展開が予想されます。

株式市場の先高感を誘う一つの重要なデータは、日本の実質金利がマイナス金利になっていると思われることです。実質金利は、名目金利-期待インフレ率で表されますが、この期待インフレ率を足元の消費者物価上昇率で置き換えると、日本の10年国債利回りが0.696%(2014年1月9日)、2013年11月の全国消費者物価指数前年比が1.2%なので、実質金利は0.696%-1.2%=マイナス0.504%となります。長期金利は低水準を維持しており、消費者物価指数は上昇傾向ですので、実質金利は今のマイナス幅を維持するか、これが拡大する傾向にあると言えます。この状況は、お金を手元に置いたり預金するよりも、消費に使うか、株、不動産、商品、事業などに投資したほうが有利であるということを意味します。特に、マイナス金利は株式と不動産の上昇にとって強い支援材料であると言えます。

一方、アメリカの金利を見ると、アメリカ10年国債利回りは2.96%(1月9日)で、アメリカ景気のよさを織り込んで上昇傾向にあり、消費者物価指数の前年比は2013年11月1.24%増となっています。即ちアメリカの実質金利は2.96%-1.24%=1.72%とプラスです。アメリカの名目金利は上昇傾向、消費者物価指数の前年比は波を描きながらも下降局面ですので、実質金利はプラスで上昇傾向にあると言えます。日本はマイナス金利が同じ水準で維持されるか拡大傾向ですから、これは日本からアメリカにお金が流れる構図、即ち中長期的な円安を意味します。これも日本株にとって有力な支援材料です。

円安は自動車、電子部品など日本の有力な輸出・グローバル産業の業績に良い影響を与えます。これとマイナス金利がおそらく長期化することを考えると、今年2014年も相場は強いと思われるのです。前回も指摘しましたが、2014年の日経平均は18,000~20,000円を目指すと思われます。

グラフ4 日本の消費者物価指数:前年比

グラフ5 アメリカの消費者物価指数:前年比

様々な材料も出てきた

年初から株式市場と企業にとって支援材料となりそうな面白いニュースも出てきました。2月9日に予定される東京都知事選挙に、細川護煕元首相が出馬を検討していると報じられています。小泉元首相と連携して、反原発を旗印に掲げるということです。

実際に細川都知事が実現するかどうかは、まだ分りません。しかし一方で、1月10日付け日経一面は、丸紅が首都圏で2016年までに5ヶ所の火力発電所を動かすことを計画しており、このために、発電所運営会社の買収と発電所の増設、新設に約1,500億円を投資すると報じました。丸紅の動きは都知事選とは別の動きと思われますが、東京都のように影響力の大きい自治体で、反原発を現実の政策に移す動きが出ると、火力発電所の更新、新増設に大きな投資がはじまることが予想されます。特に、環境汚染の少ない高性能ガスタービンを使ったLNG火力発電所の建設が活発になることが予想されます。

火力発電所の新設増設が増えると、多くの企業に恩恵があります。火力発電所の運営では、東京電力、中部電力などの電力会社、東京ガス、大阪ガスなどのガス会社、丸紅、三菱商事などの大手商社、燃料となるLNGや石炭の調達では、大手商社(三菱商事、三井物産、丸紅など)、JXホールディングス、国際石油開発帝石などの資源会社、高性能ガスタービンでは、大型、中型は三菱重工業、小型は川崎重工業、LNGや石炭の運搬船の建造は、三菱重工業、川崎重工業、三井造船などです。三菱重工業、日立製作所、東芝などの原発関連企業にとっては反原発は一見するとネガティブですが、原発は規制が厳しいため国家事業としてでなければもはや成り立たず、リスクも重たいものになっていること、火力発電所への投資は、原発と真逆に多くの企業や自治体が投資できること、波及効果の裾野が広いことを考えると、原発関連企業にとっても悪くない話なのです。

また、技術革新の面では、火力発電所への投資が活発になると、高効率化とともに、三菱重工業、東芝などが開発中の二酸化炭素の吸着技術が早期に実用化されることも予想されます。

ちなみに、総合商社のPERは6~8倍程度です。エネルギーに関連する企業では、PERが割安な会社が多いことも注目点です。

1月10日以降のスケジュール

日本では、14日に12月の景気ウォッチャー調査が公表されます。16日は11月の機械受注、17日は12月の消費動向調査が公表されます。

アメリカでは1月10日に、12月の雇用統計が公表されます。15日はベージュブック(アメリカ地区連銀経済報告)が公表されます。17日は、12月の住宅着工件数、建設許可件数、鉱工業生産指数、1月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)が公表されます。

10日の雇用統計に注目したいと思います。14日の週の相場に重要な影響を与えると思われます。17日の住宅着工件数もアメリカ景気の勢いを測る重要データです。

表1 楽天証券投資WEEKLY

グラフ7 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ8 東証各指数(2014年1月9日まで)を2012年11月14日を 起点(=100)として指数化