楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

FRBが金融緩和縮小を決定、日経平均は今年のザラ場高値更新を狙う展開

2013年12月16日の週の株式市場は、大幅高となりました。

日経平均は週初16日こそ安くなったものの、その後は順調に上げる展開となりました。17、18日のアメリカFOMCに期待する買い、自律的な反発、先高感からの買いなどがあったと思われます。

この中で、18日にFRBは金融緩和縮小を決定しました。現在の量的金融緩和策(QE3)の規模を2014年1月から縮小します。まず、月間850億ドルの証券購入額を1月から100億ドル減らして750億ドルにします。11月で7.0%の失業率が6.5%を安定的に下回るまでゼロ金利政策を続けることも決定しました。また、FRBのバーナンキ議長はFOMC後の記者会見で、資産購入策は来年終盤までかかると述べ、縮小ペースは経済指標次第としました。

FRBのこの決定を受け、18日のニューヨークダウは前日比292.71ドル高の16,167.97ドルとなり、12月9日以来の16,000ドル台を回復しました。東京市場でもFRBの決定とニューヨークダウ上昇を受け、19日の日経平均株価は、前日比271.42円高の15,859.22円に上昇しました。終値ベースで年初来高値を更新し、今年のザラ場高値、5月23日の15,942.60円を指呼の間に捉えるところに来ました。日経平均は12月17日から3連騰で700円以上上げており、勢いのよさがわかります。20日も前場は安かったものの、結局前日比11.20円高の15,870.42円で引けました。強い相場が続いていますが、このまま年末まで進み「掉尾の一振(とうびのいっしん)」を期待したいところです。

また、月足チャートを見ると、大勢下降相場を示す長期の上値抵抗線を12月の月足が下から上に突き抜け始めていることに注目したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

グラフ3 日経平均株価:月足

今回のFBRの決定が日米の株式市場から評価された背景には、今回の決定が実体経済と株式市場に配慮した極めて穏健なものであったということがあります。「金融緩和縮小」には違いありませんが、金融緩和のペースを多少抑えて、様子を見ようという程度のものと考えられます。金融引き締めではなく、大型金融緩和自体は当面続くことになります。即ち、グラフ1のFRBの資産規模の拡大(金融緩和の程度を表す)は、拡大の角度が多少鈍るものの、当面は続くことになります。また、雇用統計、特に失業率6.5%が重要な政策目標になっています。

為替レートは、FOMCの決定を受けて18日に1ドル=104円台に入りました。その後上下はありますが、1ドル=104円台前半の円安になっています。20日の日銀金融政策決定会合では、大規模金融緩和の継続を決定しました。日米で逆向きの金融政策、即ちアメリカは今後緩和を止める時期を時間をかけて探ることになりますが、日本は緩和を続け、経済指標によっては追加緩和のオプションがあるということです。従って、日米金利差は拡大し、円安方向に向かうと思われます。

このままの状況が続けば、日経平均株価16,000円のクリアは時間の問題と思われます。年内にそれが実現する可能性もあると思われます。来年は、グラフ3の月足を見ると、日経平均の主な節目の状況から、18,000~20,000円が目標になると思われます。

グラフ4 FRBの総資産

グラフ5 アメリカ雇用統計:失業率

グラフ6 日米金利差

来年の投資テーマ

来年2014年の投資テーマについて、今回と次回の2回にわたって考えてみたいと思います。

自動車

日米の金融政策の動きと実体経済の動きを見ると、為替レートは傾向的に円安になりそうです。足元の1ドル=104円台、1ユーロ=142円台が続くとすると、単純計算で2014年3月期平均レートは1ドル=100円、1ユーロ=135円になる見込みです。2015年3月期平均レートが仮に1ドル=104円、1ユーロ=142円になると、ドルで4円幅、ユーロで7円幅の円安になりますので、来期も円安メリットが発生することになると思われます。

今期、来期の円安メリットがどの程度か、主要企業についてみたものが、表1、2です。今期の円安メリットについてみると、自動車セクターの円安メリットの大きさが分ります。一方、来期については、今期の変化率ほどではないものの、今の為替レートが続くならば、円安メリットが大きい会社で10%前後程度の増益が円安メリットだけで見込めると試算されます。

表1 自動車、電機等の主要企業の為替感応度

表2 2015年3月期営業利益に対する為替の影響(試算)

自動車セクターの場合、国内で小型車、軽自動車のグレードの高い車種や中型車のような採算の良い車種が売れており、2014年4月の消費税引き上げ後に短期的な影響があったとしても、国内市場は緩やかな伸びが期待できると思われます。商用車市場では、建設ブームが到来しており、ダンプカー、ミキサー車の需要が増えています。景気回復に伴って輸送用トラックも増加しています。

北米では、これも採算の良いビックアップトラック、SUVや排気量の大きい乗用車が売れています。中国も回復してきました。アセアン全体の回復は時間がかかりそうですが、インドネシアは、今年9月から始まったLCGC(ローコストグリーンカー、インドネシアのエコカー優遇制度)でダイハツ、トヨタ自動車などが低価格の小型車を発売しており、この効果が期待されます。また、中近東、アフリカの市場拡大も期待されています。欧州市場も回復していきました。

このように、自動車の世界市場は2014年も順調に拡大すると思われます。トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車などは、円安メリットなしでも20%前後の営業増益、円安メリットを入れて20~30%程度の営業増益が見込めると思われます。PERの低さを考えると、投資対象として重要と思われます。

三菱自動車工業も重要な会社になる可能性があります。コスト低減や「アウトランダーPHEV」というユニークな低燃費車の好調で好業績です。12月20日付けで通期業績見通しを上方修正しました(2014年3月期営業利益見通しが1,000億円から1,200億円になる。2013年3月期実績は674億円)。同社の最大の問題は、過去の経営危機から脱するために三菱グループ各社に対して発行した優先株3,808億円の処理です。これが普通株に転換されると、普通株が大幅に希薄化されてしまうのです。同社では、公募増資2,100億円によって優先株の大半を買い取る資本再構築プランを始動させようとしています。これが成功するかどうか注目したいと思います。

また、日系自動車メーカーだけでなく、自動車の世界市場が趨勢的に拡大しています。日米欧の3市場で、「低燃費」と「安全」がキーワードになっていますが、全世界で自動車販売が増える状況、それに伴い増加するであろう燃料代の問題、渋滞や交通事故の問題を考えると、「低燃費」「安全」が今後世界的なテーマになると思われます。その場合、現在進行中の自動車の電子化はより一層進むと思われます。自動車が半導体、電子部品、モーター、カメラ、レーダーなどの塊になるということです。世界最大の自動車部品メーカーで自動車部品の電子化でも世界的な会社であるデンソーに注目したいと思います。

民生用電機

パナソニックは、自動車向け、住宅向けを両輪とした再成長に向かっています。来期もリストラは残っていますが、リストラの多くは今期で終わりと思われます。会社全体では黒字体質が定着した模様ですので、来期に注目したいと思います。

ソニーは、上期までの業績は振るいません。テレビの赤字が中々解消できません。ただし、11月15日に北米で発売された「プレイステーション4」(PS4)がユーザーから大変高い評価を得ています。映像がきれいで、ゲームソフトも発売当初から「Call of Duty: Ghosts」(Activision)、「Killzone: Shadow fall」(ソニー)のような大作ソフトを投入したことが奏功しました。特にアメリカで人気が高く、売り切れ店が多くなっています。

PS4はCPUにアドバンスト・マイクロデバイス(AMD)製の4コアチップをカスタマイズしたものを2基搭載しています。計8コアの高性能チップながら、汎用チップを使ったこと、PS3との互換性を付けなかったことで低コスト化しています。このため、販売が順調なら来期にもハードの赤字が解消する可能性があります。価格も安く、11月22日に北米で発売されたマイクロソフトの「Xbox One」が499ドル(互換性はない)なのに対して、PS4はXbox Oneを性能で上回っている模様ですが、価格が399ドルです。

ソニーのゲーム部門は現在損益すれすれの状態ですが、PS4で黒字が定着すれば、現在黒字部門である映画、音楽、金融にゲームが加わることになり、業績水準が向上することになります。ソニー・ゲーム部門の今後が注目されます。また、対ユーロ円安のメリットが比較的大きいため、欧州景気の回復はソニーにとってメリットになります。この点にも注目したいと思います。

電子部品

電子部品市場を牽引しているのは、スマートフォンで、最近ではタブレットPC向けも増えてきました。まずスマートフォンのハイエンド市場では、iPhone(アップル)、ギャラクシー(サムスン)に高性能電子部品が数多く搭載されています。特にアップルは高価な高性能電子部品を多く使うと言われています。欧米ではiPhoneのシェアは低下していますが、アップルは中国の移動体通信大手チャイナモバイルとの間でiPhone取り扱いの交渉を行っており、iPhoneの伸びがどうなるか電子部品にとって重要なポイントです。

一方で、中国製の格安スマートフォンが急増しています。格安とは言っても一定水準の機能を持っており、個数は高級品に及ばないものの、高性能部品が使われています。このため、大量の格安スマホが出荷されることで、高性能部品の需要が増えることが期待できます。また、格安スマートフォンの購入者で満足できなかったユーザーが中級品、高級品に移ることも期待できます。

スマートフォン、タブレットPC以外では、自動車向けが注目されます。上述したように、自動車の電子化が進むに連れて、自動車向けが電子部品会社にとって重要になってきました。伸びはスマートフォンほど急ではないですが、安定成長しており、採算も良い模様です。

電子部品では、村田製作所、京セラ、日本電産、ヒロセ電機に注目したいと思います。村田製作所は開発力と先見性に定評があります。電子機器に多用されるチップ積層セラミックコンデンサで世界トップであり、各種電子部品を組み合わせてスマートフォンやタブレットPCに納める通信モジュールも急成長しています。円安メリットも比較的大きくなっています。

日本電産はHDDが成長しなくなったことがネガティブなポイントですが、自動車、家電、一般産業向けのモーターに注力しており、この分野の利益の構成比が上昇しています。ヒロセ電機はコネクタの大手メーカーですが、これもスマートフォンだけでなく、自動車向け、一般産業用機械向けが増えています。京セラは、スマートフォン用部品向けのセラミックパッケージが増えており、太陽電池も国内の電力買取制度(FIT)の恩恵を受けています。

12月23日の週のスケジュール

日本では12月26日(木)に、日銀金融政策決定会合議事要旨(11月20、21日分)が公表されます。27日は、11月の鉱工業生産(速報)、11月の全国消費者物価指数、11月の全世帯家計調査が公表されます。

アメリカでは、24日に11月の耐久財受注、11月の新築住宅販売件数が公表されます。

年末ですが、来年の日米景気を予想する上で重要な指標が公表されます。特に、日本の全国消費者物価指数、アメリカの新築住宅販売件数に注目したいと思います。

表3 楽天証券投資WEEKLY

グラフ7 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ8 東証各指数(12月19日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化