楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は高値圏で小幅調整中だが、基調は強い

2013年12月9日の週の株式市場は、高値圏で調整する展開となりました。

前週12月6日に発表された11月のアメリカ雇用統計では、非農業部門被雇用者数の前月比増加幅が20万3,000人と10月に続く順調な数字でした。失業率は、10月7.3%から下落し11月は7.0%になりました。アメリカ経済が順調に拡大していることが確認できました。

米雇用統計の結果を受けて、ドル円レートも円安に傾き12月9日は一時1ドル=103円台に入りました。その後は102円台前半から103円台後半の動きであり、じりじりと円安方向に動いています。ユーロ円レートも前週末に1ユーロ=140円台に入ったあと、今週は1ユーロ=141円台から142円台に入っています。

これらの動きを受けて日経平均も週初は跳ね上がり、12月9日は前日比350.35円高となり15,600円台に乗せました。その後は急騰後の小幅調整があり、また11日にはそれまで連日ストップ高をつけていたミクシィに対して、あるアナリストがレーティングを引き下げたため、ミクシィ株が同日からストップ安に転じました。これは新興市場全体に影響した模様です。日経平均も影響を受け、12日には一時15,200円台まで売られる展開となりました。

ただし、ミクシィのケースは新興市場特有のものと言ってよいと思われます。ソーシャルゲームやSNSに関する材料だけで、企業実態から見て割高になっている企業が新興市場には少なからずあるようです。期待だけで異常に高い株価が続くわけではありませんので、この揺り戻しが起きているとも考えられます。揺り戻す先は、自動車(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、デンソーなど)、電機(ソニー、パナソニック、村田製作所、京セラ、日本電産など)など、相対的にPER、PBRが低いセクター、銘柄群と思われ、アメリカ経済の好調と円安が支援しています。

13日の日経平均は、前日比61.29円高の15,403.11円で引けました。日経平均は25日移動平均線(15,294.67円)を割り込んだあと反発しており、年末ないし年始にも16,000円をうかがう動きが続いていると思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

アメリカで金融緩和の早期縮小があっても、日本株への影響は軽微と思われる

11月のアメリカ雇用統計の数字は、アメリカの金融緩和の早期縮小観測を再び引き起こしています。実際にそうなれば、日米株だけでなく、世界の株式市場に短期的な影響は避けられないと思われます。ただし、日本株に対しては、日本経済に影響が大きいアメリカ経済の動きが良いことが改めて実証されるわけです。また、アメリカの金利は上がって日本は大幅金融緩和が続くことになると思われますので、日米金利差は拡大し、為替レートは円安方向に向かうと思われます。このため、11月の雇用統計の結果は日本株にとっては前向きに受け取ってよいと思われます。

グラフ3 アメリカ雇用統計

グラフ4 アメリカ雇用統計:失業率

表1 アメリカ雇用統計:非農業部門被雇用者数と前月比、失業率(季節調整済み)

政府の経済対策があると思われる。実効性を注視したい

NHK放送文化研究所が12月6~8日に行った12月の内閣支持率調査では、安倍内閣の支持率が11月の60%から50%に急落し、不支持率が同じく25%から35%に上昇しています。特定秘密保護法案の採決に見られる強硬な姿勢に批判が集まったと思われます。

このまま支持率が低下し、不支持率が上昇すれば、来年早々にも支持率と不支持率が逆転する可能性があります。そうなれば、自民党内で「安倍降ろし」が始まりかねません。

グラフ5 安倍内閣の支持率・不支持率

そのため、何らかの経済対策を打つ可能性が高くなっていると思われます。政府は12日に5.4兆円の2013年度補正予算を閣議決定しましたが、このうち「復興、防災、安全対策の加速」という名目で3.1兆円が計上されています。来年度予算の策定も年末から始まります。例えば、来年度予算で公共工事を増やす、税金関係の対策を打ち出すなどがありうると思われます。消費税増税だけでなく、軽自動車に対する増税など不人気な政策も採ろうとしていますので、これを打ち消す対策の可能性が高くなっていると思われます。

ただし、経済対策を行っても、その中身が公共工事にあまりに偏ったものになれば、必ずしも実効性のある経済対策にならないかもしれません。インフラ整備や自然災害への対応などで公共事業の重要性は増していますが、公共工事の急速な増加は、これまで大幅に上昇している建設労務費や資材費の更なる上昇を引き起こし、新規の公共工事、民間工事がかえって困難になるという皮肉な現象が発生しかねません。その意味で、政府が今後打つであろう経済対策の中身や政策実施の丁寧さも注視する必要がありそうです。

財政再建への道筋論議が最近希薄になったように思われることも問題です。1,000兆円を超えた政府の借金は、少子高齢化とともに、既に日本の経済成長の制約要因になっていると思われます。要するに無茶な財政政策を採用すると、長期金利上昇の懸念が消えないということです。

もっとも、大手から準大手クラスの建設会社は労務費、資材費の価格転嫁を進めています。大手では大成建設、大林組、清水建設がコストアップ分の価格転嫁の姿勢を明確にしています。大手建設の今期の業績悪化は前々期、前期に受注した工事の採算悪化(労務費、資材費上昇の価格転嫁ができなかった)によるものですが、これら採算悪化工事が完工する来期からは価格転嫁ができている採算が良い工事の比率が多くなる見込みです。

熊谷組、安藤・間、西松建設などの準大手建設会社やショーボンドホールディングス、NIPPOなどの専門建設会社は、大手よりも工事単位が小さく、工期も短いものが多いため、価格転嫁が大手よりも早く業績に寄与しやすいと思われます。そのため、来期は業績が本格的に回復する可能性があります。

公共投資の増加だけでなく、東京の再開発ブームが続いており、来期も新規の再開発が始まる可能性があります。東京オリンピック、リニア中央新幹線の工事も来期から始まります。建設工事が全国的に増えているため、日立建機、タダノなどの国内比率の高い建設機械会社やカナモトのような建機のレンタル会社の業績が良くなっています。建設会社だけでなく、その周辺にも注意したいと思います。

12月16日の週のスケジュール

日本では12月16日(月)に日銀短観が公表されます。18日は11月の貿易統計が公表されます。19~20日は日銀金融政策決定会合が開催されます。

アメリカでは18日に11月の住宅着工件数と住宅建設許可件数が公表されます。17~18日はFOMCです。19日は11月の中古住宅販売件数が、20日は第3四半期(7-9月期)GDP確報値が公表されます。

特に、17~18日のFOMCが重要ですが、それ以外にも重要統計やイベントが多い週です。株価と為替の動きに注意したいと思います。

表2 楽天証券投資WEEKLY

グラフ6 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ7 東証各指数(12月12日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化