楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は11月28日終値で年初来高値を更新した。引き続き上値を追う展開

2013年11月25日の週の株式市場は、前週に続き強気相場が続く展開となりました。

日経平均は11月14日に三角保合いの上限(14,700円前後)を突破しましたが、その後も順調に上昇し、若干の押し目を交えながら11月28日には前日比277.49円高の15727.12円で引け、5月23日ザラ場高値15,942.60円を指呼の間に捉えるまでになりました。また、11月28日の日経平均は、終値ベースで5月23日の高値15,627.26円を11月28日に更新しました。29日前場は、10時40分現在までで15,700円を挟んだ動きとなっており、堅調な展開です。

先週も指摘したように、日経平均がこのまま16,000円台に上昇し、堅調に推移すれば、1990年代から20年以上続いた大勢下落相場が大勢上昇相場に転換する可能性が出てきます。大幅金融緩和を続ける日米の金融情勢、ドル高円安に傾いてきた為替相場、持続的な上昇トレンドに入った主要都市の地価動向、東京オリンピック、リニア中央新幹線という景気刺激効果の大きい大型プロジェクト、そしてこれらの恩恵を受ける日本経済と日本企業のファンダメンタルズを考えると、日本経済がこのまま持続的な経済成長に移り、日本企業も持続的な成長に移行し、株式市場が大勢上昇相場に転換する可能性はかなり高いと思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

グラフ3 ユーロ円レート:日足

セクター別に主要企業の株価チャートとファンダメンタルズを見てみた

このように相場全体が上値を指向する中で、各セクターの株価の動きも活発になってきました。

自動車

まず、好業績にもかかわらずこれまで株価の動意が乏しかった自動車株が円安に伴い動きだしてきました。表1の為替感応度を見ると、円安が自動車セクターに与える影響の大きさがわかります。本田技研工業が先行して上昇していましたが、ここにきて10月の世界生産台数が過去最高を更新し、円安メリットも大きい富士重工業、これも円安メリットが大きく世界最大の自動車会社であるトヨタ自動車、今期の業績変化率が大きいマツダ、世界最大の自動車部品メーカーであり世界の自動車メーカー好調の恩恵を受けるデンソーなどの株価によい動きが見られます。

ただし、トヨタ自動車の株価の動きは好材料が揃っているにもかかわらず鈍いのが最近の特徴です。トヨタ自動車株の出遅れ感が著しいことが注目されます。

グラフ4 トヨタ自動車

グラフ5 富士重工業

グラフ6 デンソー

民生用電機

民生用電機では、パナソニックの大相場が続いています。経営者がリストラと選択と集中の手綱を緩めないこと、住宅関連と自動車関連という強力な成長ドライバーをもっていることが注目点です。シャープの株価も業績底入れとともに立ち直ってきました。

一方で、ソニーの株価は冴えません。エンタテインメント部門の業績詳細を開示したり、IRに熱心ですが、業績が本格的に回復する兆しがまだ見えていません。ただし、欧米ではプレイステーション3と11月15日に北米で発売したプレイステーション4が好調です。11月16日に終わる週のゲームソフト販売ランキングを見ると、トップが「Call of Duty®: Ghosts」 (PS4)の80.8万本、2位が同タイトルのPS3用72.6万本、3位が同タイトルのXbox360用64.7万本、4位が「Battlefield 4 (PS4)」となっており、上位10タイトルのうち4タイトルがPS4用、2タイトルがPS3用、1タイトルがPS Vita用となっています(VGCHartzによる)。ソニーの自社製ソフトも5位「Killzone: Shadow Fall (PS4)」40.8万本と健闘しています。PS4発売の週という要因はあるにせよ、ソニーがこの勢いを維持し、来期にゲーム部門の収益化につなげることができるかどうかが、今後の一つの焦点でしょう。

表2

グラフ8 ソニー

電子部品

電子部品株もいい動きです。村田製作所は、チップ積層セラミックコンデンサやLTE向け通信モジュールなど市場シェアトップの製品を多く抱えています。スマートフォンとタブレットPC向けが成長を牽引していますが、自動車向けも堅調です。日本電産は電子部品会社としての評価に加えて、家電、自動車、産業機器向けモーターが収益の柱に育ってきました。

不動産

内需関連を見ると、大手不動産株の中で三菱地所と三井不動産、住友不動産の株価の動きに違いが見られるようになってきました。グラフ10は東京、大阪、名古屋の中古マンションの価格の動きを表したものですが、3地域とも着実に地価が上昇していることがわかります。きっかけは東京の山手線沿線がいくつも実施、計画されている大型再開発ですが、諸外国に比べて日本の地価の絶対水準が安くなったという事情もあると思われます。地価の上昇は今後も持続的なものになると思われ、これが今後経済成長と株価上昇の持続性を支援するものになると思われます。

ただし、株式市場は不動産株の将来性に対してある程度差をつけて見始めた可能性があります。三菱地所の株価は4月高値から10%以上下がった水準ですが、三井不動産、住友不動産は高値が4月の高値に接近しています。この理由は、各社の成長戦略とPER格差によると思われます。三菱地所は、丸の内、大手町という日本で最もオフィス賃料が高いエリアを地盤としているため、オフィスや高級マンション以外の分野への進出が遅れています。これに対して、三井不動産は日本橋、三越前という好立地ではありますが、丸の内、大手町ほどではない地域を地盤としているため、事業拡大意欲が強く、オフィスビル、賃貸、分譲マンションから商業施設、物流施設、ホテルなどの多角化に熱心です。また、三菱地所のPERは60倍台と高く、三井不動産は高いものの三菱地所ほどではない40倍台です。住友不動産は、オフィスビルは新宿地盤で、マンション分譲にも熱心で、今上期のマンション販売は前年比倍増しました。ただし、大手2社ほどの規模がないため、PERは30倍台です。このような企業の成長戦略とPER格差が株価の位置の差の要因になっていると思われます。

また、再開発に対しては、三菱地所が丸の内、大手町の再開発が中心なのに対して、三井不動産は、日本橋、三越前、日比谷、北品川など各方面で大型再開発ビルを建設中のほか、八重洲、京橋にも老朽化した大型ビルを2棟保有しており、この再開発の可能性があります。実現すれば、東京駅の八重洲側に数十階建ての高層ビルが数棟建つ可能性があり、東京駅周辺はさらに様相が変わると思われます。住友不動産も再開発では、大崎駅周辺、高田馬場で計画、実施しているほか、西新宿などで検討している模様です。

グラフ10 主要都市の中古マンション価格

グラフ11 三菱地所

グラフ12 三井不動産

建設

建設株は内需関連でも株価が様々な動きを示しています。下期業績見通しの下方修正が相次いだ大手建設会社の株価を見ると、いずれも振るいません。ただし、業績動向を見ると、大成建設の業績が最もパフォーマンスが良く、下方修正の要因になった労務費、建設資材費の上昇の建設価格への転嫁などのコスト対策が最もよく進んでいると思われます。また、熊谷組、五洋建設などの準大手建設会社の業績は、個々の工事規模が大手よりも小さいこと、大手の下請けで受注する仕事も多いことがあって、コストの価格転嫁が進んでいるようです。NIPPO、ショーボンドホールディングスなどの専門業者の業績も好調です。株価の動きはまちまちですが、建設株は内需拡大とともに重要な投資分野ですので、大手だけでなく、準大手、専門業者の株価にも注意したいと思います。

グラフ13 大成建設

建設機械

最大手である小松製作所と、日立建機、タダノ、加藤製作所などの中堅との業績動向と株価の動きに違いがでています。小松製作所は建設機械需要が活況な日本と北米の比率が低く、中国と鉱山機械に業績が強く影響される事業構造になっています。これに対して、日立建機やタダノは日本と北米の売上比率が高いため、これら地域の活況が業績に反映されています。株価の動きにもこの状況が反映されています。また、小松製作所が、大型ビルの建設に欠かせないクレーンを扱っておらず、日立建機が中小型クレーン、タダノ、加藤製作所が小型から大型までのクレーンのラインナップを揃えていることも、業績格差の一因になっていると思われます。

グラフ15 日立建設

12月2日の週のスケジュール

日本では12月2日(月)に7-9月期の法人企業統計調査が公表されます。3日は11月のマネタリーベースが公表されます。

アメリカでは、12月4日に11月のADP雇用統計、ベージュブック(米地区連銀経済報告)が公表されます。5日は10月の製造業新規受注が公表されます。6日は11月の雇用統計、12月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報)が公表されます。このほか、11月28日のサンクスギビングデイが終わると欧米はクリスマス商戦に突入します。クリスマス商戦の売れ行きを報じる記事にも注意が必要です。雇用統計も含めて重要な週が続きます。

グラフ16 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ17 東証各指数(11月28日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化